日本の貨幣史 Ⅸ【誤】高度成長 新円切替 変動相場制 プラ…

 

円高とデフレーション

1995年から2008年の日本のGDPデフレーター前年同四半期増加率(%)。

1980年代後半から日本はバブル景気となり、1990年代前半にはバブル崩壊が始まるが、金融政策で緊縮策をとったため状況は悪化して、円高とデフレーションが進行する。日本は円の国際化としてアジアへの直接投資やラテンアメリカ諸国の債務問題への資金協力を行い、1997年アジア通貨危機の際にはアジア通貨基金構想を出す。しかし、円の国際化は本格化しなかった。頓挫原因としては、各国やIMFの反対、国内経済の低迷、金融機関の不良債権処理による縮小、アジア諸国に対する市場開放の不十分さが指摘されている。2000年代前半の超低金利の時期には、円で資金調達をして外貨に投資する円キャリートレードが増加して、外国為替証拠金取引(FX)の個人投資家を表すミセス・ワタナベという語も生まれた[142]

日本経済の長期停滞は、失われた10年失われた20年とも呼ばれている。1990年以降の長期停滞については、消費・投資・生産などの実物的現象よりも物価・為替レートなどの貨幣的現象を原因とする研究がある。理由には国内におけるデフレの持続に加えて、対外的にはプラザ合意以降に円高が持続した点があげられ、これは総需要の停滞およびデフレの進行という解釈と整合している。生産の伸びに対してマネーストックの伸びが少なかった点から、日本銀行の金融政策によるマネタリーベースの伸びが十分でなかったと指摘されている[143]

クレジットカード、電子マネー、デビットカード

1950年代にはアメリカでクレジットカードによる決済が始まり、日本では1960年代から同様のサービスが始まった。クレジットカードはカード番号の不正利用など問題点がないわけではなく、このような欠点を克服するものとして1990年代には電子マネーが出現している。日本では、電子マネー実験として1999年(平成11年)の渋谷でVISAキャッシュ、新宿でスーパーキャッシュが試験的に用いられた。どちらも接触式のICカードによるプリペイド方式だった。その後は2001年(平成13年)頃からタッチ式のプリペイド電子マネーが交通機関を中心に普及している[144]

デビットカードは即日決済が可能なキャッシュカードにあたり、認証機関を通さずに決済できる。現金よりも個人小切手やクレジットカードの決済が習慣となっている欧米で普及が早かった。日本では1999年(平成11年)のJ-Debitから始まっている[145]

仮想通貨

仮想通貨は、国家による裏付けを持たない点、ネットワークによって流通する点、決済手段である点などの特徴を持つ貨幣である[146]。仮想通貨として有名なものにビットコインがあり、汎用性のある決済手段として国際的に流通している。これに対して、ゲーム内の通貨やマイレージなどは、汎用性がない点で広義の仮想通貨とされる[147]。 日本円と異なり、仮想通貨は強制通用力を持っていない。そのため、2015年(平成26年)2月25日の第186回国会の質問第28号では、日本の民法においてビットコインが通貨に該当するのかが問題とされた[148]

日本においては、東京でビットコインの交換所を提供していたマウントゴックス社が破綻する事件が起きた。大量のビットコインが消失したため、マウントゴックス社は2014年(平成25年)2月26日にビットコインの取引を停止して、同社のユーザーは訴訟を起こした。2月28日には、マウントゴックスは東京地方裁判所に民事再生申立手続きを行った[149]。マウントゴックス社の破綻により明らかになった点として、破綻した法人の財産の保全をする場合に、仮想通貨を管理することの困難さが指摘されている[150]

2016年(平成28年)5月25日、情報通信技術の進展等の環境変化に対応するための銀行法等の一部を改正する法律(平成28年6月3日法律第62号)が成立し、資金決済に関する法律の一部が改正された(2016年9月15日現在、施行日未定[151])。改正後の同法2条5項には、仮想通貨の定義が以下の通り定められた。

資金決済に関する法律
(定義)
第2条
5 この法律において「仮想通貨」とは、次に掲げるものをいう。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

また、併せて仮想通貨交換業等の規制も定められ、仮想通貨の利用に関する法整備を進めた。