ニュースの裏側がわかる! 中東情勢における「世界の陰謀」全…

 
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画像は、「Wikipedia」より

 2012年、サウジ当局は「テロ準備」としてニムル師を逮捕した。その後裁判が行われ、2014年に「支配者への不服従」「宗派対立抗争の扇動」「デモ参加の主導」などの理由で「国家及びスンニ派に対する転覆活動を企画した」として死刑判決を下した。

 そして、サウジは刑を執行。その日にちは明らかになっていないが、イスラム教の習慣として、イスラム教の金曜礼拝の後に死刑を行い、神の許しを請うのが習わしになっていることから、1月1日の金曜日の午後に、処刑された可能性が高い。

 1月2日に、サウジは、ニムル師ほか、47名のシーア派テロリストの処刑を裁判の結果通りに行ったことを発表する。

 その後、イランでは、それに反対する動きが大きく、1月3日に暴動、4日にテヘランのサウジ大使館が襲撃されている。これに対して1月5日にサウジがイエメンのイラン大使館を空爆したということをイラン政府が非難し、その後サウジがイラン政府との断交を発表するにいたっている。


■さまざまな確執が重なりあう風土

 さて、この問題は先に述べたように非常に「国際政治的」な行動であり、そのことには、さまざまな駆け引きや陰謀が渦巻いている。残念ながら日本の報道にそこまで書いてあるものは見たことがないので、しっかりとその内容を書いておこうと思う。

 まず2012年のニムル師逮捕に関してはそれほど大きな問題はない。サウジとイランは、スンニ派とシーア派というだけでなく、それ以前から、砂漠の民とペルシャ王国やアッバース朝の時代からの確執が存在する。そしてさらには、1980年代のイラン・イラク戦争やその後のイランの核開発に関する問題などにおける確執がある。


・サウジにとって、シーア派はISと同等の危険度?

 実は、シーア派の過激派は、昔は非常に危険視されていたが、9・11以降はスンニ派や、アルカイダISISなどの方が有名になってしまったので、シーア派原理主義が目立たなくなっているということは否めない事実である。しかし、サウジは「シーア派」に対して、9・11直後のアメリカがイスラム教徒に対して行ったのと同じくらいの警戒度合いを見せていると考えられる。

 このシーア派に対する警戒感は、スンニ派、特に中東のスンニ派諸国にとって共通の認識である。そのことは、最近「オスマントルコ帝国版図の復活」を夢見始めたトルコのエルドアン大統領も同じである。

 トルコは昨年11月から、ロシアがISISへの空爆に参加して、中東で大規模な軍事活動を行うことに反対している。実際にISISのみに対する空爆ならば、何の問題もないのであろうが、少なくともトルコの認識では、トルコは19世紀にロシアの動きでだまし討ちにあって6回も戦争をしているのである。露土戦争にクリミア戦争、いずれもロシアとトルコの戦争で、結局黒海の広大な海域をすべて放棄せざるを得ない状況になっている。その時フランスイギリスも、トルコを助けてロシアを叩くといって同盟関係であったのにもかかわらず、結局積極的な行動はなく、トルコは敗戦してしまった。そのために、オスマントルコ帝国は崩壊し、現在の領土になってしまったのだ。

 

 もし、オスマントルコ帝国の領土を現在も維持していたならば、当然に、現在ロシアが持つ黒海油田も、イラク北部やISISの支配地域の油田もすべてトルコの持ち物ということになる。要するに中東のパワーバランス、そして原油の供給などに関しては、完全に現在とは異なる内容になっていたはずである。

 その状況から考えれば、エルドアン大統領および現在のトルコ国民が、ロシアに対して特別な感情を持っていることは当然のことであり、なおかつ、旧オスマントルコ帝国版図の復活を夢見るのも十分に理解できる話である。


■ロシアの弱体化と復権を狙うトルコ 思惑が入り混じる各国

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エルドアンVSプーチン

 政治家というものは、当然に「夢見る」だけではなく、その「夢」を現実にするために、「行動」するものである。国内の意見を調整するだけのパフォーマンスを行っても、結果が伴わなければ何の意味もない。

 エルドアン大統領は、「ロシア弱体化」に向けて、行動する。実は、上記の日程の中で書いていないことがある。それは、12月27日から30日まで、エルドアン大統領はサウジのサウード国王と長時間の会談を行っていたという事実だ。もちろん、会談の内容は明らかになっていないが、この時に、ニムル師の処刑のことを言っていなければ、1月2日以降、エルドアン大統領は「不快感」を示すコメントをしていたに違いない。要するに、ニムル師の処刑は、エルドアン大統領の望みに近い結果をもたらすと考えられていたことになる。

 一方、この「ニムル師処刑」を他に知っている人はいなかったのか。まず、イランのロウハニ大統領は、当然「知っていた」とみるべきである。1月1日に処刑という詳細な情報を知らなかったにしても、サウジが処刑する気であることはよくわかっていたはずだ。というのも処刑が発表された翌日に、大使館前の通りがすべて「ニムル通り」へと変わっている。看板や標識などもすべて一日で変更された。標識の建て替えなどが一日で終了するはずがない。単純に言えば標識一つ作るのでも、数日間はかかるはずだ。それが一日で終わるということは、事前に処刑を知っていて準備することができたということであろう。

 逆に「知っていた」ということは当然に、「救出するチャンスがあった」ということである。しかし、少なくともわかっている限りにおいて、12月の末から処刑発表日までに、救出活動をしたり、あるいはロウハニ大統領から正式に抗議または解放を求めるコメントがなされたことはない。

 一方、ロシアは、事前にサウジと接触をしている。しかし、これも原油とシリア情勢に関することであり、ニムル師に関しては一切触れていない。ロシアは、1月4日になって「サウジアラビアとイランの関係改善に助力する」と発表したが、サウジはそれを拒否している。


フランスイギリスは、サウジに武器を販売するため、アメリカを除外?

 他に、処刑を知っていた国はフランスとイギリスである。この二つの国はサウード国王の代になってから、自国の武器をサウジに販売するための営業をかけている。アメリカ一辺倒であったサウジの武装に関して、割り込む隙を狙っているのだ。しかし、今回のオバマ大統領のイランの核合意および経済制裁の中止によって、サウジとアメリカの信頼関係が崩壊。イスラエルのネタニヤフ首相と一緒に、アメリカに対して不快感を示すようになった。そのために、空軍の戦闘機からフランス製の戦闘機購入を検討し始めている。

 当然、武器交渉をしているフランスとイギリスの情報部は今回のニムル師処刑を事前に知っていたはずだ。知っていたのであれば、止めることもできたはずであるが、残念ながら、フランスとイギリスも完全に無視していた。いや、むしろ処刑に関して暗黙の了解を与えていた可能性が高い。

 

 もし、オスマントルコ帝国の領土を現在も維持していたならば、当然に、現在ロシアが持つ黒海油田も、イラク北部やISISの支配地域の油田もすべてトルコの持ち物ということになる。要するに中東のパワーバランス、そして原油の供給などに関しては、完全に現在とは異なる内容になっていたはずである。

 その状況から考えれば、エルドアン大統領および現在のトルコ国民が、ロシアに対して特別な感情を持っていることは当然のことであり、なおかつ、旧オスマントルコ帝国版図の復活を夢見るのも十分に理解できる話である。


■ロシアの弱体化と復権を狙うトルコ 思惑が入り混じる各国

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エルドアンVSプーチン

 政治家というものは、当然に「夢見る」だけではなく、その「夢」を現実にするために、「行動」するものである。国内の意見を調整するだけのパフォーマンスを行っても、結果が伴わなければ何の意味もない。

 エルドアン大統領は、「ロシア弱体化」に向けて、行動する。実は、上記の日程の中で書いていないことがある。それは、12月27日から30日まで、エルドアン大統領はサウジのサウード国王と長時間の会談を行っていたという事実だ。もちろん、会談の内容は明らかになっていないが、この時に、ニムル師の処刑のことを言っていなければ、1月2日以降、エルドアン大統領は「不快感」を示すコメントをしていたに違いない。要するに、ニムル師の処刑は、エルドアン大統領の望みに近い結果をもたらすと考えられていたことになる。

 一方、この「ニムル師処刑」を他に知っている人はいなかったのか。まず、イランのロウハニ大統領は、当然「知っていた」とみるべきである。1月1日に処刑という詳細な情報を知らなかったにしても、サウジが処刑する気であることはよくわかっていたはずだ。というのも処刑が発表された翌日に、大使館前の通りがすべて「ニムル通り」へと変わっている。看板や標識などもすべて一日で変更された。標識の建て替えなどが一日で終了するはずがない。単純に言えば標識一つ作るのでも、数日間はかかるはずだ。それが一日で終わるということは、事前に処刑を知っていて準備することができたということであろう。

 逆に「知っていた」ということは当然に、「救出するチャンスがあった」ということである。しかし、少なくともわかっている限りにおいて、12月の末から処刑発表日までに、救出活動をしたり、あるいはロウハニ大統領から正式に抗議または解放を求めるコメントがなされたことはない。

 一方、ロシアは、事前にサウジと接触をしている。しかし、これも原油とシリア情勢に関することであり、ニムル師に関しては一切触れていない。ロシアは、1月4日になって「サウジアラビアとイランの関係改善に助力する」と発表したが、サウジはそれを拒否している。


フランスイギリスは、サウジに武器を販売するため、アメリカを除外?

 他に、処刑を知っていた国はフランスとイギリスである。この二つの国はサウード国王の代になってから、自国の武器をサウジに販売するための営業をかけている。アメリカ一辺倒であったサウジの武装に関して、割り込む隙を狙っているのだ。しかし、今回のオバマ大統領のイランの核合意および経済制裁の中止によって、サウジとアメリカの信頼関係が崩壊。イスラエルのネタニヤフ首相と一緒に、アメリカに対して不快感を示すようになった。そのために、空軍の戦闘機からフランス製の戦闘機購入を検討し始めている。

 当然、武器交渉をしているフランスとイギリスの情報部は今回のニムル師処刑を事前に知っていたはずだ。知っていたのであれば、止めることもできたはずであるが、残念ながら、フランスとイギリスも完全に無視していた。いや、むしろ処刑に関して暗黙の了解を与えていた可能性が高い。