岩手・宮城内陸地震2008【311前震】6月14日 土曜日… Ⅱ
- この一関市の観測点が最大加速度を記録した理由は、「観測点が断層の真上にあったため表層付近の地盤が大加速度の入力により弾性限界を超え、部分的に粒状体的な振る舞いをした為」と考えられ『トランポリン効果』と命名された。なお、この加速度は自由地盤(地表そのまま)の加速度を記録しているのではなく、観測施設の構造上の特徴によりロッキング振動を生じ浮き上がった観測施設(建物)が地面と再接触した際の衝撃力の影響を受けた波形を記録していたと、解析されている。また、ロッキング振動の影響がなければ、上下動最大加速度は1.6G程度であったとされている。
- ロッキング振動とは、ブロック型構造物が両端を中心に回転運動を繰り返す振動。
地下水の変動
本震前後に余震域内外での温泉の変動生じていた事が報告されている。
- 本震に先立つ温度上昇 (祭畤温泉、真湯温泉、湯浜温泉など)
- 本震直後に源泉に濁り、湯量の増加、湯量の減少や湧出・自噴の停止 (秋田県湯沢市秋の宮温泉郷、泥湯温泉、小安温泉郷、大湯温泉郷、東鳴子温泉郷など)
- 温度の上昇や濁り (宮城県大崎市鬼首温泉郷、馬場温泉、山武温泉、矢櫃温泉、祭畤温泉、真湯温泉など)
- 鳴子温泉郷の一部の源泉で、地震前日の6月13日に湧出量が1.5倍に増加し、地震直後には約2倍に増加したが、6月16日からは徐々に減少し正常に戻った。
被害
震源の浅い内陸直下型地震の被害の傾向として、建物の倒壊などによる被害が少なく、栗駒山周辺をはじめとした山体崩壊や土砂崩れ、河道閉塞が多かった。また、0.5 秒以下の極短周期成分の震動が卓越し、建物の大きな被害を引き起こすとされる 1-2 秒の震動成分が小さかった事が、震度の割に建物被害の少かった原因と考えられている。
都道府県 | 人的被害 | 住家被害 | ||||||
死亡 | 行方不明 | 重傷 | 軽傷 | 全壊 | 半壊 | 一部破損 | 建物火災 | |
岩手県 | 2 | 9 | 28 | 2 | 4 | 778 | 2 | |
宮城県 | 14 | 4 | 54 | 311 | 28 | 141 | 1733 | 1 |
秋田県 | 2 | 5 | 16 | 1 | 9 | 1 | ||
山形県 | 1 | 1 | ||||||
福島県 | 1 | 1 | 1 | |||||
計 | 17 | 6 | 70 | 356 | 30 | 146 | 2521 | 4 |
人的被害
この地震により17名が死亡、6名が行方不明となり、負傷者は426名にのぼっている。犠牲者の中には観光・交流プランナーの麦屋弥生、交通史家の岸由一郎も含まれていた。死者の死亡原因は落石(2名)、土砂崩れ(3名)、土石流(5名)、車両埋没(1名)、地震に驚き道路に飛び出し交通事故(1名)など。また、仙台市青葉区で崩れ落ちた書籍の下敷きになり、男性1名が死亡した。当初地震との関与は不明とされていたが、2008年7月10日、宮城県警より死因が大量の本による窒息死であったこと、また、宮城県災害復旧対策本部により災害死と認定されたことが正式に発表された。さらに、福島県いわき市で釣り人1人が崖崩れに巻き込まれて死亡した。福島県下で地震による死者が出たのは、丁度30年前の宮城県沖地震以来である。
奥州市ではバスが転覆し、がけへと転落した。宮城県名取市では社員旅行で石巻市から仙台空港へ向かっていたバスが仙台東部道路の新名取川橋を走行中に4-5回バウンドし、2人が入院、22人が軽傷を負った。
建築物
崩壊した祭畤大橋
地震による原子力発電所の停止はなかった。揺れによって、福島第二原子力発電所4号機において使用済み核燃料プールから飛び散った多少の水が発見されたものの、所外周辺地域への放射性物質による汚染はなかった。
岩手県一関市の国道342号に架かる祭畤(まつるべ)大橋周辺の大規模な斜面崩壊により、秋田側の橋台と橋脚、橋げたが宮城側に約10メートル移動。これに伴い、宮城側の橋脚の上部が折れ、支えを失った橋げたが折れ曲がる形で沈み込み、さらに、宮城側橋脚の中間部も壊れたことで、曲がった橋げたの一部が川底に落ちる形で転落した[37]。
岩手県平泉町の中尊寺では、国の重要文化財に指定されている釈尊院五輪塔が一部破損した。本堂前にある表門も激しい振動でゆがんだ[38]。岩手県内の国指定文化財被害は2件。世界遺産登録を目指す「平泉-浄土思想を基調とする文化的景観」(平泉町、一関市、奥州市)のうち、国の史跡に指定されている骨寺村荘園遺跡で山王窟(さんのうのいわや)の山すその表土が崩れ、駒形根神社の鳥居が傾いた。北上市では、国の史跡の江釣子古墳群で石室の一部が崩れているのが確認された。奥州市の石淵ダム(北上川水系胆沢川)は地震の揺れで堤体が変形した事から緊急放水を行った。また通常より多い漏水が確認された。
宮城県教委によると、県内の国指定文化財は重要文化財6件、史跡3件、史跡・名勝1件が被災。登録有形文化財3件、県指定文化財5件も破損。震源に近い栗原、大崎両市のほか、仙台、登米、名取各市と蔵王町でも1件ずつ被害。栗原市築館の双林寺にある薬師堂では、国の重要文化財「木造薬師如来坐像」「持国天立像」の仏像2体が破損。同市花山温湯地区にある国の史跡「仙台藩花山村寒湯番所跡」では門の両脇にある石垣が崩れるなどした。大崎市岩出山町の有備館(国の史跡及び名勝)では、建物の柱や壁にひびが入っているのが見つかった。栗原市鴬沢にある国の近代化産業遺産でロケ地となった細倉鉱山の佐野社宅が一部被災したが、倒壊は免れた。
地震動の周期が短く、木造住宅を壊す周期1秒前後の「キラーパルス」が少なかったために木造住宅の被害が少なかったこと、この地域では屋根に軽いトタンを用いている家屋が多いため、屋根による家屋の押し潰しが少なかったことが、地震の規模に対して家屋の倒壊被害を少なくしたのではないかと専門家が見解を述べている。
交通機関
鉄道
- 東北新幹線と山形新幹線・秋田新幹線が一時不通になり、約2,000人の乗客に影響した。仙台-古川間で停止した下りはやて・こまち1号の乗客約1,000人は、線路等の安全を確認した上で仙台駅に戻るまでの間、約9時間30分車内に缶詰状態になった。鉄道の在来線や高速道路も不通になった。
- 宮城県内のJRの在来各線は14日、列車の運転見合わせが相次ぎ、計422本が運休、約11万5300人に影響が出た。
- 東北本線は福島駅-一ノ関駅間で運転を中止し、上下線189本が運休。仙石線は84本、仙山線は46本、陸羽東線43本が運休した。このほか石巻線、常磐線、気仙沼線でも運休が相次いだ。
- 仙台市地下鉄は地震発生直後の午前8時44分、点検のため運転を停止した。設備などに被害はなく、点検を終えた正午すぎに復旧した。計58本が運休し、約2万9000人に影響が出た。
道路
- 国道342号は一関市側の祭畤(まつるべ)大橋の崩落をはじめ、斜面4箇所の大規模な崩壊により通行不能となった。平成22年5月30日に通行止め解除となり、祭畤大橋は仮橋を供用しながら新橋が建設され同年12月18日に開通。崩落した祭畤大橋は治水の障害となる恐れがある部分を撤去した上で補強等の保存措置がとられ、橋の秋田側には橋のたもとまで行くことができる歩道が、一関側には展望台「祭畤被災地展望の丘」と説明看板、それに撤去した橋桁の一部がそれぞれ設けられ、見学できるようになっている。歩道はやはり地すべりで多数の亀裂が発生した国道の路面の上に設置され、路面の被災の様子も見学できる。なお、現在[いつ?]も斜面崩落箇所1箇所は片側交互通行となっている。
- 国道398号はがけ崩れで不通となった。7月15日に秋田県境から栗原市花山本沢松ノ原地区までの約25kmの応急復旧ができて片側通行となり全通したが、復旧関係車両の通行のみで、一般車両の通行は禁止であった。2009年8月1日には、一般車両の通行禁止は秋田県境から栗原市猪ノ沢までの14kmに短縮された。その後温湯橋の架け替えを実施し、2010年の秋に全線で一般車の通行禁止が解除された。なお、国道のこの区間はもともと冬季通行不可である。
農水産物
ひとめぼれ(米)、イワナ、雷峰(イチゴ)など多数にわたり甚大な被害が発生した。
観光
岩手・宮城両県で350施設の宿泊状況を調べたところ、宿泊キャンセルが2万人になることが分かった(2008年6月20日)。
被災地域の岩手県平泉町と一関市および宮城県栗原市が、仙台・宮城デスティネーションキャンペーン(2008年10月1日 - 12月31日)の参加自治体に含まれるため、当該市町および周辺への風評被害の対応が宮城県議会では問題となっている(岩手県は同DCの参加団体ではないため県議会において問題とされていない)。
その他
荒砥沢ダム上流の崩落地の最大落差は148m。また、この崩落地の中で、土砂が水平距離で300m以上も移動した箇所も確認されている。崩落により荒砥沢ダムには津波が発生したが、崩落土砂の量がダム貯水容量の1割程度だったことや、梅雨入りを前に貯水量を下げていたこともあって、津波がダムの堤体を越えることはなく、「第二のバイオントダムとならずに済んだ」と研究者が語っている。
岩手・宮城内陸地震に伴う地殻変動が、東北地方に設置されている電子基準点(GPS連続観測点)で検出。水平変動は、秋田県湯沢市で東南東方向へ約29cm、岩手県平泉町で西北西へ約15cm。なお、震央付近の宮城県栗原市のデータは、6月14日16時30分現在取得不能。
土砂崩れや地滑りによる国有林の被害額が、約417億円に上ると発表。震源に近い宮城県栗原市と岩手県一関市の被害がほとんど。内訳は、林地被害が22カ所で被害額約413億円。林道被害が83カ所で約4億円。被災した林地は天然林が多く、額の大半は復旧工事費が占める。栗原市の荒砥沢ダム上流の大規模な土砂崩落現場なども国有林 。
8月30日の発表によると、不安定な状態にある土砂が1.2億立方メートルある。内容は荒砥沢ダムで6,700万立方メートル、岩手県磐井川上流域で1,560万立方メートルである。特に河川の上流域をみると全体面積の4.1%になり、極めて高い危険な状態である。(磐井川は一関市の中心部を通り、もし崩壊すれば東北自動車道、東北新幹線、東北本線、国道4号線などを直撃する。荒砥沢ダムの崩壊も同様の結果を招く。迂回路はJR気仙沼線と国道45号線だけである。)
プロ野球では、当日仙台市のクリネックススタジアム宮城で予定されていたセ・パ交流戦・東北楽天ゴールデンイーグルス対読売ジャイアンツ戦が中止となった。球場施設の被害がほとんどなかった関係で、始めは試合開始時刻を当初の14時より1時間繰り下げ、15時開始で行うことを発表したものの、観客の安全や交通機関の確保が出来ないことを理由に、最終的には中止を決定。翌々日(16日)に振替試合が行われた。地震による公式試合の中止は日本プロ野球史上初である。
被害金額
- 宮城県
- 被害総額は、1198億9875万円(7月14日15時現在)[61]
- 経済商工観光関係被害 59億3709万8千円
- 農林水産業関係被害 595億7629万5千円
- 文教施設被害 5億2031万8千円
- 保健福祉関係被害 7619万4千円
- 環境生活関係被害 12億1508万5千円
- 県立病院施設被害 2928万円
- 公営企業関係施設被害 2253万円
- その他公共施設被害 2149万1千円
- 土木施設被害 525億45万4千円
- 荒砥沢(あらとざわ)ダム「治水機能」回復100億円(総被害額は385億円)
- 土砂崩れで寸断された国道398号や県道築館栗駒公園線など国道・県道計10路線で計92億円
- 砂防施設16億円
- 下水道2500万円
- 栗原市の市道約50億円