プロパガンダ扇動宣伝誘導CMⅠ【序】目次・概要・種類・技術…
プロパガンダ扇動宣伝誘導CMⅢ【中】映画・新聞・出版・イン…
貨幣、切手、有価証券などの手法
第二次世界大戦時、イギリスで作成されたハインリヒ・ヒムラーの肖像切手。当時のドイツではヒトラー以外の政治家肖像切手が使用されることはまれであったため、ヒムラーの切手を偽造して流通させることによってヒトラーの猜疑心を誘い、ヒムラーの失脚を謀った
公共性や価値が高く、極めて広く流通するため、支配権の誇示に用いられる。紙幣や硬貨に国家指導者の肖像が彫刻・印刷で入れられることが多い。イギリスやイギリス連邦各国で切手に国王(2015年現在は女王)の横顔のシルエットが入れられているのを始め、共和制国家では歴代の国家指導者の肖像画を紙幣や硬貨に入れて使用している国も多い。そのため、1979年にイラン・イスラム革命で国王が失脚したイランでは、紙幣に描かれた国王の肖像を全て塗り潰した。
逆に日本では、皇太子(徳仁親王・雅子親王妃)夫妻の肖像が記念切手に使われた例が1度だけあるのみで、在位中の天皇の肖像が硬貨に刻まれたり切手肖像になったりした事は一切ない。“陛下のお顔が手垢にまみれるなど畏れ多い”という菊タブーがあるためであるとか、明治天皇が自身の肖像を切手や硬貨に載せることを嫌ったからだといわれるが、正確な理由は明らかではない。
街宣車による手法
戦後、日本では国家主義や皇室礼賛を標榜する右翼団体による街宣車を使った公道での街宣活動がしばしば見られる。使用される街宣車は、大判の日章旗や菊花紋章旗を掲げ、団体名が大書された黒塗りの大型車であることが多く、取り付けられたスピーカーから大音量で軍歌や演歌を流す、あるいは自らの政治的思想等を喧伝する。こうした右翼団体(街宣右翼)の構成員は少なからず暴力団員であるために反社会的な勢力と見られることや、大音量のスピーカーを使った街宣行為が騒音として迷惑がられることも多い。
選挙活動中に立候補者や政党が名前等を連呼する為に使用される選挙カーも、現代日本における一つの街宣およびプロパガンダといえる(諸外国では候補者の戸別訪問が容認されており、こうした選挙カーの使用は、日本特有のものである。また公職選挙法の規定により、走行中の演説は出来ないので、勢い、党名と人名の連呼だけになる)。
集会・イベントの手法
- 会場の規模や装飾などの豪華さ・贅沢さ。または逆に貧弱なものを見せつけ、大衆の味方であるように装う。1934年のナチス党大会は、党大会自体が映画『意志の勝利』として記録され、政治宣伝に用いられた。
- デモ・集会に支持者を大量に動員し、如何にも多数の支持を集めているかのようにメディアで演出する。逆に反対者は少数しか集まらなかったように見せる(会場が“広場”“公園”なら定員はあって無きが如し。また“来る者拒まず、去る者追わず”の自由参加であることがほとんどなので、その場にいる人数も一定しない)。公表される参加者数は「警察発表」と「主催者発表」で大幅に異なるのが通例である。
- 式典における演説や部隊の行進、マスゲームなどの一糸乱れぬ団結力の誇示。
- 記念日制定や運動週間(旬間・月間)など宣伝活動の実施。
- 国内や国際的なスポーツ大会での国威発揚(特にオリンピック)。
- 敵対国での運動を支援し、自勢力に有利な状況を作り出す(色の革命)。
ポスター・看板の手法
音楽の手法
国歌に愛国的な歌詞や他国を攻撃するような歌詞、元首を称える歌詞を挿入し、繰り返し聞かせ、また歌わせることで洗脳していく。また、イギリスにおける「希望と栄光の国」やアメリカにおける「ゴッド・ブレス・アメリカ」などの「第2国歌」的な「愛国歌」や、共産主義国における「インターナショナル」のような「革命歌」や「党歌」をあえて制作し、戦時のみならず平時においても、国威発揚のためのツールとして、国家とともに様々な場面で流したり合唱させることも多い。いわゆる「軍歌」もこの手法の1つと言える。
日本でも戦時になると、庶民的人気を誇る「流行歌」に対する厳しい取り締まりが行われ、戦意高揚を狙った「戦時歌謡」が政府や軍、民間団体により積極的に作成されてラジオを通じて放送された。
なお、ソ連や共産主義国家においては、「革命歌」と呼ばれる、社会主義革命を正当化させ、また団結させることを目的とした曲が作られた。これらの曲は、事実上の共産党の「党歌」であり、他の共産主義国のみならず、資本主義国における左翼的な労働組合運動においても歌われることがあった。なお、ドイツのナチス党も「旗を高く掲げよ(「ホルスト・ヴェッセルの歌」とも呼ばれる)」のような「党歌」を国家内に広めた。
代表的な「第2国歌」や「革命歌」、「党歌」としては、次のようなものがある。
- 「ラ・マルセイエーズ」:フランス国歌だが、元はマルセイユの義勇部隊の隊歌であった。
- 「威風堂々」(希望と栄光の国):イギリスの愛国歌、なお、現在この曲がイギリスの公共放送局である英国放送協会(BBC)で流される時には、エリザベス2世女王の画像が必ず同時に流される。
- 「ルール・ブリタニア」:イギリスの愛国歌
- 「旗を高く掲げよ」:ドイツ、ナチス党の党歌
- 「ゴッド・ブレス・アメリカ」:アメリカ合衆国の愛国歌
- 「星条旗よ永遠なれ」:アメリカ合衆国の公式行進曲
- 「インターナショナル」:ソ連及び共産主義国家、共産党における革命歌、党歌
- 「東方紅」:中華人民共和国の愛国歌
- 「ワルチング・マチルダ」:オーストラリアの愛国歌
かつて日本においても、君が代に代わり得る新国歌や第2国歌を作る幾つかの運動が起こり、各種の企業・団体が公募などで集めた歌より選び、世に広めようとしたが、GHQの占領政策の影響もあり、その後の世代に伝えられなかった。
- 「愛国行進曲」:1937年(昭和12年)
- 「海行かば」:1937年(昭和12年)、当時の日本政府が国民精神強調週間を制定した際のテーマ曲。敗戦までの間大本営発表等で流された。
- 「われら愛す」:1953年(昭和28年)、壽屋(現サントリー)社長佐治敬三が中心となって呼びかけ公募された。
- 「若い日本」
- 「緑の山河」:1951年(昭和26年)1月、日本教職員組合(日教組)が『君が代』に代わるものとして公募し選定した。曲は軍歌調。
- 「この土」
芸術などの手法
第二次世界大戦時の日本では、国家の統制管理下に芸術家らをおき、政府直轄の芸術家協会(報国会)に所属させ表現を利用した。反体制主義の芸術家は投獄、協会へ所属しない者は即召集とされた(兵役は経験済みなのでみな予備役)。日本の植民地であった台湾島での実話を基に誇張、脚色した「サヨンの鐘」など愛国美談として語られ製作されたものもある。
ナチス党政権下のドイツでは、抽象画やモダンアート、アバンギャルド芸術やコンテンポラリー・アートを「退廃芸術」と称し、かつて美術館が買い入れた作品を集め、「退廃芸術展」という美術展を各地で開催した。作品は粗末に扱われ、罵倒に満ちた解説と、国による購入価格も並べて展示された。退廃芸術展の総入場者数は300万人を超え、史上最大の観客数を集めた美術展となった。また、音楽分野でも「退廃音楽展」が開かれている。
一方で、ナチス党が奨励する芸術を集めた「大ドイツ芸術展」も開かれている。その内容はヒトラー好みの分かりやすい内容であり、その描写方法や内容は敵であるはずのソ連の社会主義リアリズムにも類似する。
プロパガンダと芸術家
古代から芸術家は権力者から庇護を受けることで芸術活動を行い、作品が後世に残される可能性が高まる。現在、名作とされる作品にも権力者の依頼により製作されたものが多くあり、その権力者を礼賛する為に制作された作品も少なくない。近代以降、芸術の大衆化により芸術家は必ずしも権力者から庇護を受ける必要はなくなったが、商業上の成功を目的として作家みずからが大衆の求めに応じる形で意図せずプロパガンダを助長する作品を製作する例も多い。また、権力や時流により不本意ながら体制を称える作品を製作せざるを得なかった芸術家もいた。逆に体制に便乗して、多少の不満は抑えて自分の才能を積極的に売り込むことを意図した芸術家もいた。
また、ロシア・アヴァンギャルド運動やプロレタリア文学のように、芸術の表現により政治的な変革を目指すといったプロパガンダと不可分な芸術活動も存在する。
一方でこうした芸術家は、プロパガンダに協力したということで、後に不当に低い芸術的評価を受けることもある。藤田嗣治は戦時中に戦争画を描いたことで、戦後になって日本の美術界を追放され、フランスで制作活動に従事せざるを得なくなった。
それに対し、体制側が自己が主張する政治信条に合わせた芸術を嗜好する傾向も見られる。たとえば、全く新しい体制を目指す場合は新進の芸術運動を保護し、復古的体制を目指す場合には復古的芸術運動を保護する。
主要な人物
- ロシア・アヴァンギャルド
- 映画
- ソ連:セルゲイ・エイゼンシュテイン
- ドイツ:レニ・リーフェンシュタール(『意志の勝利』、『オリンピア』)、ヘルベルト・セルピン(『タイタニック』)
- 画家・彫刻家
- ドイツ(画家):アドルフ・ツィーグラー、イヴォー・ザリガー、マルティン・アールバハ、パウル・マーティアス・パードゥア、ルドルフ・リプス、ゼップ・ヒルツ
- ドイツ(彫刻家):ヨーゼフ・トーラク、ゲオルグ・コルベ、アルノ・ブレーカー
- フランス:ジャック=ルイ・ダヴィッド(ナポレオンに重用され、ナポレオンを讃える作品を多く描いた)
- 日本:藤田嗣治 (戦争画)
- 日本(漫画・イラストレーション):小松崎茂、横山隆一(漫画家。アニメ映画に『フクちゃんの潜水艦』。また、アメリカ軍の宣伝ビラにも無断でキャラクターが使用された。)
- アメリカ:ベン・シャーン、国吉康雄など(太平洋戦争中、アメリカ人画家としてアメリカの対日プロパガンダに参加)
- 小説・劇作家
- 音楽
- ソ連:ドミートリイ・ショスタコーヴィチ(『交響曲第2番ロ長調「十月革命に捧げる」』、『交響曲第3番 変ホ長調「メーデー」』など)
- アメリカ:マレーネ・ディートリヒ(歌謡曲リリー・マルレーンをカバーし、ヨーロッパ戦線の連合軍兵士を慰問した)
- 日本:大木惇夫(作詞家、『国民歌山本元帥』などの作詞)、西条八十、山田耕筰(オペラ『黒船』、軍歌『燃ゆる大空』などを作曲。軍服姿を好んだため、戦後戦犯論争が起きた)、北原白秋、高階哲夫、藤原義江、佐々木すぐる、古関裕而
- 写真
- ドイツ:アンドレ・ズッカ(fr:André Zucca ナチス宣伝誌『シグナル』専属カメラマン)
- アメリカ:マーガレット・バーク・ホワイト
- 日本:木村伊兵衛、名取洋之助
- アニメーション
- 日本:瀬尾光世(アニメ映画『桃太郎の海鷲』、『桃太郎 海の神兵』)
- アメリカ:ウォルト・ディズニー(ドナルドダックが主人公の短編アニメ映画『総統の顔』は1943年アカデミー短編アニメ賞を受賞した)、フライシャー兄弟、ウィリアム・ハンナ・ジョセフ・バーベラ(ハンナ・バーベラ・プロダクション)
- 漫画家
- 日本:はすみとしこ(『そうだ難民しよう! はすみとしこの世界』)