続き「なくそう!子どもの貧困ネットワーク」 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

続き「なくそう!子どもの貧困ネットワーク」

 前回の続き。 Ⅰ部が生徒、学生からの報告だったの対し、後半はそれをサポートする大人の報告でした。

 そして、発起人の山野良一さん(『子どもの最貧国・日本 』著者)からコメントいただいたのでエントリーにもあげておきますね。
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 安原様。「なくそう!子どもの貧困」ネットの山野です。案内も載せていただいてさらに参加までしていただき、さらに会のまとめまでやってもらって、とてもうれしいです。実際の参加者は350人ぐらいだと思います。NHKでもニュースでとりあげられていました。関心の強さが伝わっています。子どもの貧困というとかわいそうな子どもの姿が浮かんできますが、実は社会の一番の縮図がここに詰まっています。子どもの貧困を削減することが大人の世界を少し変えることにつながると運動を始めました。ただ、課題が多すぎてどこから手をつけてよいかと悩んでいる部分もあります。とりあえず、今「卒業クライシス」と名づけて学費を払えず卒業証書をもらえない生徒をなくせといま運動をやり始めています。なれない身で議員会館やらでロビー活動もやりました。また、よろしくお願いします。

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■義務教育費の家計負担をどのように学校側で減らしているか■

 広島の公立小学校の事務職員さんたちの工夫について。昨日、TVタックル観てて、こういった番組でもやっと言うようになったかと思ったんだけど、授業料以外にも日本の学校はお金がかなりかかります。そういった家計にかかる「教育経費」をどうやったら家庭に負担をかけないか学校全体で涙ぐましい努力をされているという報告です。

 広島の小学校の職員の方の報告。配布された報告書から抜粋。

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現在、広島の給食費は1食220円。年間にして5万円弱の負担です。兄弟がいればその2倍、3倍。そしてドリルやテスト類、ワークブック、理科や図工のセットもの教材。算数セットや鍵盤ハーモニカ、書道道具に絵具道具。高学年になれば裁縫道具も必要です。野外活動費、修学旅行費、制服や体操服代。義務教育の9年間にかかる教育費はけっこうな額です。(略)


広島市では「学校教育における公費私費負担区分の基本的な考え方が示されています。その中で、児童・生徒が学校・家庭でいずれにおいても個人の所有物として使用する教材教具等に係る経費は私費負担をするとされています。該当する教材は副読本、テスト類、ワークブック、資料集、ドリル、白地図、夏休み張等。教具は書道道具、裁縫道具、絵具道具、ハーモニカ等の簡易楽器等です。(略)


本校では、公費予算の執行にあたって「公費で購入できるものはできるだけ公費で」を合言葉に公費予算の購入計画を立てています。(略)


たとえば、図工科で使う油粘土は個人に1箱ずつ持たせ、最終的に家庭に持ち帰らせる場合は私費ですが、一定量学校に備え共有物品として繰り返し使用すれば公費で購入できます。同様に1年生で使用する朝顔セットも1人1鉢を全員セットで持たせ、最終的に家庭に持ち帰らせる場合は、個人所有として私費負担になりますが、セットにせず、鉢や支柱等を単品で購入して学校備えつけにし、毎年それを使用すれば公費で購入できます。土や腐葉土は大袋で購入し、分ければ共有で公費となります。種も前年度の1年生が育てたものをみんなで分ければいいわけです。夏休みの観察に一時的に家庭に持ち帰らせても、最終的に学校に回収すれば公費。


本校ではこの考え方で生活科の球根や花、野菜の苗、図工の画用紙、フエキのり、木彫用着色剤、版画インク、家庭科のフェルト、刺繍糸等を公費化してきました。生活科、理科、図工科、家庭科は工夫次第で公費化できるものが多いと思います。セットものに比べると分ける手間と時間はかかるのがネックですが、本校では子どもを真ん中に据えて教職員間でしっかり話し合う体制ができているので可能です。(略)

公費化を進めたいのは山々ですが、公費予算が足りません。広島市では長引く不況の影響で税収が落ち込み、教育予算についても厳しい状況が続いています。学校配分予算もここ数年減額が続きました。すでに教材等を用意する教育振興費は10年前の6割を切っています。このような中で公費化を進めるのは至難の業です。(略)


先生たちはやりたい教育をやってほしいし、保護者にはお金のことを気にせず明るく子どもたちを学校に送り出してほしい。そして何より子どもたちには家計のことで小さな胸を痛めることなく学校生活を送ってほしい。せめて義務教育のあいだだけは家庭の経済状況が子どもの教育を左右しないようにと願っています。公費化の取り組みのように学校でできることは今後も努力していくつもりですが、学校の努力だけでいいのでしょうか。(略)3月初め、あるお母さんから夜遅くに電話がありました。こんな遅くにかけて来られるくらいだからよっぽどのことだと思っているとやはりそうでした。シングルで子どもを育てているが生活が苦しく上の子の中学の制服が準備できそうにない、誰か知っている人がいたらもらってもらえないか、という電話でした。その後、突然解雇通知をもらったということも聞きました。(略)制服とかばん、体操服代で5万円以上かかります。

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 ほんとねーこういう集まりにくると感じるんですけど、山野さんも公務員の仕事をしながらされていたりするわけですよね。「日本人は公の精神が足りない」とか評論家が言ってたりしますが、援助されている民の方々がえらすぎだと思いますよ。“若者が甘えとる”とかいう前に、民生委員とか保護司さんとかボランティアでやらせてるんだから、まず金払ってから言ってくれと思うんですけど。“国が甘えとる”んじゃないかと思うのですが。


■卒業クライシスについて■

 山野さんが書かれている卒業クライシスについてです。

 10年前には5.9%だった定時制の授業料減免者の比率が07年には19.7%になり、さらに自治体での減免基準が厳しくなっています。首都圏の高校生の調査によると、学費のために高校を続けられるか不安だと答えた高校生が私立高校でも22%いるそうです。また学費のことで家族に迷惑をかけて申し訳ないと感じる高校生は私立は51%越え、公立は26%以上だそうです。日本は後期中等教育の漸進的無償化をうたった国際人権A規約の該当条文を日本は批准していません。国際人権規約を批准する160ケ国中、その部分を批准していないのは日本とマダカスカルの2ケ国だけなんです。

 そして現在、卒業を目の前にして経済的な問題で高校卒業資格が得られない可能性のある子どもたちがいます。不況の結果、高校生のアルバイトで一家を支えるようなことも起きていて、授業料や他の家計負担の少ない公立高校への志望者が増えています。定時制高校は2次、3次募集で受験しても入れない生徒が増加傾向になっていることも先日報道されていました。文部科学省の学校基本調査によると、公私合わせた定時制の今年度入学者数は3万7083人。過去10年間で最高となっています。


山野さんたちが呼びかけている「卒業クライシス」緊急院内集会 2月4日(木) 

詳しくは以下を。参加できる方はぜひぜひ。

http://antichildpoverty.blog100.fc2.com/blog-entry-5.html

◎授業料を滞納している高校生にそれを理由とする除籍を行わないこと

・2009年度の授業料滞納による除籍、特に卒業直前の除籍・卒業保留生徒の人数と事情について調査すること

・授業料を滞納していても除籍を回避し、卒業させること

・状況に応じて授業料免除、奨学金貸与の遡及措置を講じること

・授業料無償化だけでは高校に通い続けられない生徒への対応策をとること

(高校就学援助、通学費補助、給食費補助、給付制奨学金制度の拡充など)   など


■イギリスで可決される児童貧困法案について■

 日本同様、子どもの貧困が深刻なイギリスでは97年に誕生した労働党政権のブレア首相が「子どもの貧困を2010までに半減させ、2020年までには根絶する」ことを国民に制約し、子どもが産まれてから社会に出るまで総合的、継続的な施策を実行しています。その内容について弁護士さんが紹介されていました。イギリスでは現在「児童貧困法案」が国会で審議中であり、法制化されれば、子どもの貧困撲滅が関係機関に義務づけられることになります。

 サッチャー政権でぼろぼろになった教育、福祉関連をブレアが立て直そうとして、いろいろやってるんですけど、一度壊れたものは立て直すのはかなり難しい状況みたいですが、イギリスがんばっております。後半かなりかけ足になっていたので、詳しく知りたい方は、2月16日(火)に日弁連が主催する学習会(衆議院第2議員会館)にご参加ください。こちらは事前予約が必要。参加費は無料です。問い合わせ先は日弁連事務局人権第一課03-3580-9857 『イギリスの施策から考える子どもの貧困撲滅対策』

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 山野さんも書かれていますが、「子どもの貧困」といっても、ほんとに多くの問題があって、例えば、シンポ終了後にいらしていた方を少しお話したんですが、「父子家庭」の問題などは、ほんとに大きいなあと感じました。「母子家庭」だと保護施策もあるんだけど、「父子家庭」で父親が不安定な非正規雇用でリストラにいつあうか分からない、実際あってる、とかだと、実質「母子家庭」なんですけど、行政の保護施策としてはほんとに丸裸の状態なんじゃないでしょうか。スティグマもきついでしょうし。テレビ局の方が密着取材されていましたが、詳しいコンテンツを作ってほしいなあと思いました。