「悪の象徴」よりもひどい国?? | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

「悪の象徴」よりもひどい国??

 前回の続き

 2008年の世界遺産に「ベルリンの集合住宅」が選ばれました。下の写真のは馬蹄形の集合住宅ですね。おおきなウマー。郵便配達屋さんは「このカーブさえなければ!」と思ったことでしょう。

 6ケ所選ばれているそうで、1913年から1934年の第一次世界大戦からナチス政権前までものです。さすがにナチス時代のを入れるわけには・・・なのかしらね。ほかの写真はこちら を。ほかのはいわゆる団地ぽい。ワイマール憲法で社会権が世界で初めて保障され、「低所得者の生活改善を!」という社会的な要求をもとに衛生的で快適な住宅が作られました。これらの集合住宅群はバウハウスのワルター・グロピウスやブルーノ・タウトが設計しています。

 ナチス政権でも労働者の住宅建築は続き、これらの政策は大衆の心をつかんだということですね。早川先生の本によると、1930年代以降のヒトラー団地も、今もドイツで増改築されて使われているそう。


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 さて。せっかく本が出てきたので、気になっていたことをメモしてきます。

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 労働組合の労働者供給事業はなんら限定なく合法的に行われる事業であるにもかかわらず、積極的な意味ではほとんど労働法学的な検討の対象になってきませんでした。今でも、労働法学者が労働者供給事業に言及するときは、禁止されるべき悪の象徴として語られることがほとんど、労働者供給事業の法的構造を真正面から論じた業績は(全くないわけではありませんが)ほとんど見あたりません。そろそろ正面から議論すべき時期であるように思います。

新しい労働社会―雇用システムの再構築へ (岩波新書)/濱口 桂一郎 』2009年

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 ↑濱口先生 の本を読んで、そうなんだーなんでなんでなんで「悪の象徴」なの?が正直な感想でした。好かれる組合になればいいじゃないか。オーストラリアに住んでたときにたまたま住んでた家の先生がティチャーズユニオンの幹部だったんだけど、バイトで日本語教育のお仕事紹介してもらったけどなあ。すごい助かった。放課後の学校解放して、安価な移民教育の教室とか開いてたし。バルトの移民や香港移民が多いころで、いっしょに勉強させてもらったけど。

 以下は『人は住むためにいかに闘ってきたか―欧米住宅物語/早川 和男 』から。

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 ここでは建設労働組合が中心になって独自の活動を展開している。

 「ここでの活動は四つの目的を持っています。

 第一は、捨てられたアパートを再生し地域の住民の住宅を確保すること。

 第二は、労働者を募集し、失業救済に役立てること。

 第三は、大工などのトレーニングをここでやり、技能労働者に育てること。

 第四は、少年非行の防止で、すでに80人の非行少年を技能者として養成しました。

 たんにビルを直すだけでなく、社会を直していくのがこのプログラムです。(略)現場で教育にたずさわる技術者への給料は連邦政府労働省が支払っている。わたしが初めてこの事業所を訪れたのは、1980年のことである。この後、この事業はどうなったか。1987年までに約200人の男女を一人前の建設技術者として卒業させた。

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 浜井先生が「刑事政策が独立しすぎ、社会政策の中で考えないと」とおっしゃってますが、日本だと、「どうやって反省させるのか、そうだ、反省文でお手紙書かせよう」とかになりがちなのよねえー。

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 AFL・CIO(米国労働総同盟産別会議)に所属するシカゴ建設労働組合総評議会(大工・左官・塗装工などの組合で、日本の全国建設労働組合総連合--組合員50万人にあたる)会長のトーマス・ネイダー氏を訪ねた。ネイダー氏は労働組合運動と住宅改善の活動をどのように結びつけているかをつぎのように話してくれた。

 「アメリカでは高金利がつづき、住宅建設をはばんでいます。それが、仕事の確保を困難にしています。それで金利を下げる運動を議会にたいしてやっています。」

 「第二は建築基準法をちゃんと守れということを連邦政府に要求しています。(略)」

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 上はアメリカの話。下は、ドイツの話で、個人で「社会住宅」を営むやり方。

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 「建築のときに政府の補助がないかわりに家賃を自由にできる自由家賃住宅と社会住宅のどちらにするか迷いました。でも社会住宅にしてよかったと思います。借家人とさがす苦労も不動産屋に斡旋料をとられる心配もありません。空家になれば、市役所が自動的に借屋人をおくりこんでくれます。家賃の支払いも市によって保障されています。インフレ率に応じて、家賃はあがることになっています。資金の返済もラクです。(略)」

 歯医者、弁護士、建築家、企業家など資金運用として社会住宅を経営する人も多い。短期的には大きな利益があがらないが、長期的な有利な投資だという。

 社会住宅は民間の力を借りているが、その性格は公共的性格の住宅である。これが本当の民活なのかなと思う。

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 高齢者で数字上は「資産家」でも、「資産っていえば、貧相な木造アパートしかもってなくて、今は人口減ってるし、質の要求もあがっているから、借家人探すのも大変だし、リフォームしても人見つかるかなあ・・・・」と思ってる人も多いんじゃないかなあ。それって「豊か」な人ではないと思うんだけど。相続する娘、息子も「できれば、あの金にならない汚いアパート、うまくリユースしたい」もしくは「うまく手放したい」人っていると思う。安い賃貸だと、不動産屋もがんばってくれないし。借主の保護もあるので、両方とも行政とつながいといけないわけで、こういう事業でも妥協点探る役割が必要だと思うんだけどなあ。

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歴史のある古い街だから住宅も古いものがたくさんある。風呂のない汚い住宅、それに家主は金をかけてなおそうとしない。借家人が出ていったあと家主が修理すると、家賃が倍にもなり、金のない人は入れない。どちらも困る。そうかといって30年から40年もこの地区に住んできたものが住むところがないならコアバイラー(巨大団地)に行けと追い出されるのはかなわない。なんのために自分たちは議員を選挙したのか。市議会議員は地元の住宅改善のためにはたらきなさい、と。(略)

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 イギリスはというと。ネオリベの悪の大権現のように言われるサッチャーですが・・・早川先生の評価もまあ厳しいし、そうなんですが・・・。

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 イギリスの住宅政策はこれまで公共住宅が中心であった。だがサッチャー首相は新規の供給をほとんどカットし、既存の公共住宅を払い下げたために、住宅困窮者の新規入居はいちじるしく困難になった(略)。購入に際しては日本の住宅金融公庫にあたるビルディング・ソサイエティが購入価格の90%までを融資してくれる。だが手持ち資金とローン返済能力が必要である。こうしてゆき場のない、家を見つけられないホームレスの人々がたくさん生まれた。とりわけしわよせを受けているのが、旧植民地から移住してきた人たちである。公共住宅政策が後退するほど、人権問題が激化する傾向を示すようになった。少ない公営住宅に最下層の労働者が集まることからさまざまの社会問題をひきおこすことになった。

 職を求めて地方からロンドンに出てきた人たちは安ホテルに一室に家族で住みこむ。ひとつのベッドに数人が寝る。民間のB・B(ベッド・アンド・ブレックファースト=朝食つき下宿)、自治体の一時収容書、ホステル(簡易宿泊所)などにも居住する。

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 このあとB&Bの調査の話が続きます。

 ちなみにサッチャーが公共住宅政策について、やってないわけではないんですよ。「貧困を解決する」って方向じゃなくて、「犯罪を解決する」って方向でやってる。そういうところは予算をつけてぼろぼろの公共住宅の改築なんかはやって再生させてます。失業者が増えて、福祉が薄くなって、バンダリズムという暴力行為が増えた団地などには、「環境犯罪学」視点から、大きな予算をつけて改築をやっています。

 圧迫感のある巨大棟をやめたり、棟と棟をつなぐデッキをやめたり、外階段を覆ったり。今検証されると、犯罪学的な視点から、それで犯罪が減ったというのはどうやらほとんどは否定されているんですが、快適性とか安全性の向上という意味では、まあ向上してるんじゃないかと思います。端的にいうと「ボロイ団地がきれいになった」ということですから。

 しかし、この「環境犯罪学」、日本やってくると、小宮信夫先生の学校での「地域安全マップ」という、なんの得もなく、「地域から人を排除する」という害しかないものに矮小化されて定着しちゃってるんですね。

 小宮先生、「環境犯罪学」、よそ様からもってくるなら、せめてそのままもってこい。

 まだサッチャーのほうがマシじゃないかい?

 日本は、B&Bがネカフェになり、団地は、廃墟オタが萌え萌えいってるだけのものになり、環境犯罪学は何の役にも立たない地域安全マップになる、と。うちの国のほうがひどい気がするよ。本家はそもそも福祉政策に手厚い国なんだから、そういう勢力やストックがいっせいに消えるわけじゃないし、だめだったら、戻るところがあるんですよ。

 なんか「悪の象徴」にだけしてて、ほんとにいいんでしょうか。「うちは福祉国家じゃない」ってことがわかってるんでしょうか。


・ご参考 

サッチャーの団地政策について。それ以前の流れからの高層や巨大団地はなくなっていくんですけど、そういった経緯がわかりやすくまとめてありました。団地政策の歴史読んでると、高層で圧迫感が強いものってあんまり住みたくなくなるんですけどね、日本のはどんどん高くなってるなあ。
http://www.ichiura.co.jp/e_housing/pdf/07.pdf