「犯罪者」を受け入れている人たち~司法と福祉の連携~ | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

「犯罪者」を受け入れている人たち~司法と福祉の連携~

 前回のエントリー に、ちょうどグッドタイミングな石戸さんの記事が掲載されました。浜井先生のコメントも取られていますが、ほんとによく取材をされています。この矯正保護分野の話はジャーナリズムの中で不毛地帯のようなものなので、もうこの分野のトップランナーの記者なんじゃないでしょうか。医療観察法のときの病院もそうですが、保護観察所ができるとなると、地域でこのような反対運動 が起きてしまったり、「犯罪者に金を使うような税金は無駄だ」といわれたりします。地域住民の方の「犯罪不安」をきちんと説明して、できるだけ取り除き、どういった人たちが「犯罪者」なのか、元受刑者を地域から排除してしまうほうが「税金の無駄」であることをわかってもらうことしかないじゃないかと思います。そして、目立たないところで社会を支えている雇用主の方たちにとっても、希望となる記事ではないでしょうか。消えるともったいないので、全文掲載させてもらいます。

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http://mainichi.jp/select/opinion/newsup/news/20091021ddn013040051000c.html

 ニュースUP:障害持つ出所者らの再犯防止=岡山支局・石戸諭毎日新聞 2009年10月21日 大阪朝刊
 ◇厳罰よりサポートを
 岡山市北区の福祉施設「旭川荘」内にある有限会社「トモニー」(山本俊介社長)に今春、窃盗罪で服役し出所したばかりの知的障害者の男性(59)が、法務省の橋渡しで雇用された。今年度に国が始めた、出所した知的障害者や高齢者に社会復帰を促す支援策の一環だ。「司法と福祉のはざまにいる出所者」(法務省関係者)の高い再犯率を抑えようと、きめ細かい対応でサポートする。今後の刑事政策の在り方を問う試金石とも言えるトモニーを訪ねた。
 ■空腹耐えかね
 4月1日、出所後約2カ月の試用期間を経て、男性に正社員として雇用する旨の辞令が下りた。服役中の検査で、男性は知能指数50前後と判明、知的障害者と認定されていた。男性は中学卒業後、木工会社に工員として就職。高度成長の波に乗り、やがて結婚して子供ももうけたが、02年に職を失った。40年近く勤めた職場を自発的に辞めたわけではなく、不況による会社側の事情があったという。
 失職を機に男性は妻と離婚、財産も失って路上生活を送るようになる。以後、空腹を理由に窃盗を繰り返した。今回も、空腹に耐えかねてコンビニで菓子パンを万引きした。キャラメル3個を盗んだ窃盗罪で執行猶予期間中だったため、08年5月、懲役1年の実刑判決を受けた。今年1月に仮釈放が決まり、法務省岡山保護観察所が障害者雇用に実績とノウハウがあるトモニーに雇用を依頼した。
 トモニーは障害者の雇用拡大を目的に87年に設立された。事業所は、障害者・高齢者福祉施設などを運営する社会福祉法人「旭川荘」の敷地内にある。従業員は76人、うち28人が知的、身体障害者だ(09年3月現在)。
 主な業務は、旭川荘の施設で使用するシーツやタオルなどの洗濯、清掃、食堂や喫茶店の経営など4部門に分かれる。障害者を受け入れても、一般企業と同じく利潤は追求する。萩原義文専務は「ここは慈善団体ではなく、あくまで会社なので、利益を出すことが必要です」と強調する。
 ■トモニーの実践
 もっとも、トモニー内部でも、受け入れにあたっては議論があった。他の障害者の保護者から、「なぜ出所者と一緒に働かせるのか」「もし何かあったらどうする」と、受け入れを巡って反発もあったという。しかし、詳しい犯歴を見ると、「障害の有無を問わず、この不景気ではだれが手を染めてもおかしくない犯罪ばかり」(萩原専務)だった。議論の結果、トモニーは「今まで接してきた障害者たちと何ら変わらない」と判断した。
 山本社長は「うちには障害者雇用のノウハウがあるし、他の人と同じように働いてもらえればいい。なにも慈善事業として受け入れたわけではない。入所経験があるためか大きな声であいさつができ、仕事ののみ込みも速い」と話す。就職から6カ月、「無断欠勤もなく、よく働いてくれる」と、社長は男性の能力を高く評価している。
 岡山保護観察所は、このトモニーのケースを「事実上のモデル事業」と位置付ける。元法務省職員で龍谷大法科大学院の浜井浩一教授(犯罪学)は「社会政策の中に刑事政策を位置付けることが重要」と話す。教授は「誤ったイメージに基づく犯罪対策は無意味。被害者、加害者問わず、困った人に手を差し伸べる姿勢が大事」と訴える。
 ■仕事と帰る場所
 誤ったイメージとは「日本の治安は悪化している」「加害者に反省を促したり、厳罰化すれば犯罪は抑止できる」など明確なデータや根拠を欠いた考え方だ。例えば、06年に確定した死刑は21件、無期懲役は135件。それぞれ98年の3倍となり、厳罰化の流れは加速傾向にある。一方で、殺人事件の発生件数で見ると、54年の3081件をピークに漸減が続き、07年には1199件と戦後最低を記録した。厳罰化に合わせて発生件数が急激に減ったかというと、必ずしもそうではない。近年の厳罰化傾向にかかわらず、件数は微増微減を繰り返し、大きな変化は見られない。
 浜井教授は「厳罰化だけでは、社会からの排除につながる。居場所や帰る場所があれば、人は立ち直れる」と話す。また、ただ反省を促すだけでは自己否定感情が強まって自暴自棄になり、再犯に走りやすくなると指摘する。
 私が取材に訪れた日、男性は施設内で洗濯・清掃などの業務に従事し、タオルやシーツなどを洗濯する職場で一生懸命働いていた。
男性は「盗みは悪いことだと思ったけど、おなかが空いていた。刑務所よりこっちがいい。もう戻りたくない」と話した。
 萩原専務は「出所して盗みをして、また入所。いくら税金を使うことになるか。それならサポートして納税者にする方法を探した方がいい」と指摘する。
 裁判員制度が始まり、日本の司法制度は大きな転換期を迎えた。岡山保護観察所は11月にも、2人目の出所者支援を行う予定だ。矯正・刑事政策もまた、実行可能でより効果の高いものへと転換を図る時期に来ている。
 ◇「事件時に無職」8割
 障害者、高齢者に対する国の社会復帰支援事業は、各都道府県が設置する「地域生活定着支援センター」を拠点に行われる。福祉施設などと連携して障害者手帳の取得を手助けしたり、出所後の受け入れ先を決める。
 事業目的は再犯率の抑制だ。知的障害のある受刑者410人を対象にした厚生労働省研究班の調査(07年)では、事件時に無職だったケースが約8割を占める。また、2回以上服役した受刑者(285人)のうち約6割が1年未満で再度、犯罪に及んでいた。出所しても帰る場所がない受刑者が4割以上に上り、出所後のケアが不十分な現状を示している。

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2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)/浜井浩一