「2円で刑務所、5億で執行猶予」浜井浩一著 後編 | 女子リベ  安原宏美--編集者のブログ

「2円で刑務所、5億で執行猶予」浜井浩一著 後編

 続きです。
 2円で刑務所、5億で執行猶予 (光文社新書)/浜井浩一
 読者の方から教えてもらったのですが、2ちゃんのコピペで以下のようなのがあるそうです。
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レポーター「少年犯罪増加の原因は何ですか?」

国語学者 「コミュニケーション能力の低下ですね」
社会学者 「少子化により、過保護な親が増えたことが原因と思われます」
教育学者 「ゆとり教育のせいです」
心理学者 「ケータイ依存が引き起こしています」
脳科学者 「前頭葉の異常ですかね」
栄養学者 「朝食を抜いたことが原因ではないでしょうか」
経済学者 「物質主義が進行し、少年の精神が貧相になったのが理由だろう」
体育会系 「外で遊ばなくなったことが原因ですね」
法学者 「少年法が原因である」
医者 「スナック菓子やファーストフードが悪い」
小説家 「漫画・アニメの影響ですね」
政治家 「インターネットの有害情報の影響が懸念される」
親 「一人っ子が原因じゃない?」
ジャーナリスト 「フリーターやニートの増加かもしれません」
オタク 「お前のせいだろ」

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 おもしろいかも(笑)。「ゲームが悪い」(森)、「団地・郊外が悪い」(宮台)、「ジャスコが悪い」(三浦)、「九条が悪い」(櫻井)ってのもありましたね。こないだは「経団連が悪い」(亀井)ってのもありましたが。犯罪学者「だから、増えてないって!」ですね。前提がおかしいから、なんでも言えるわけですな。「1+1=3と考えると」みたいな話されても聞かないよね。

 先生の本から引用します。

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 先に紹介した、世論調査を統計的に分析してみると、「日本の犯罪が増加している」という意識に最も影響を与えているのは、「最近の若者のモラルが低下している」という意識であり、次いで「クレジットカード詐欺などの不安(個人情報の漏洩不安)」などだった。また日本全体と居住地域での犯罪情勢について乖離の大きい人は、若者のモラルが低下していると感じつつも、「(居住地域の)暗い夜道の一人歩き」を安全だと感じている人たちであった。これは諸外国の研究での共通して見られる現象である。治安が悪化したと感じたり、厳罰化を行いたいと思っていたりする人は、同時に、若者が嫌いであるという共通点を持っている。

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 先進国では「犯罪」が増えたのではなく、「犯罪不安」が増加しているわけなんですが、以前の論文で、イギリス政府が「犯罪不安」を低減させる取り組みをしていることを少し触れられていました。そこが知りたかったのですが、今回の本では書かれています。

 なぜ「犯罪不安」がよろしくないか、というと・・・、

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 必要以上の警戒心は、高齢者や小さな子どもを抱える家庭を中心に市民を怯えさせ、市民が買い物のための外出を避けるようになったり、外で子どもを遊ばせなくなったりするなど、市民の日常生活だけではなく、地域経済にも大きな負の影響を与える。(略)イギリスでも体感治安の問題は深刻なようだ。

 次に紹介するのは、イギリス内務省のホームページにある犯罪不安への取り組みからその一部を抜粋、翻訳したものである。

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 詳しくはぜひ本書を。こういった「体感治安」に対する取り組みをしているイギリスの暴力犯罪の被害実態調査だと、日本の10倍以上暴力犯罪起きてるんですけど、日本の政治家はマスコミといっしょにあおります。アメリカでも「体感治安」の悪化で、親が子どもを外に出さず、肥満が問題になっていたりします。変な話「外で殺されるより部屋でゲームでもしてて」ってこと。「ゲーム脳」であおっていた人はどう思うんだろうね。

 あと、日本でもされている「犯罪対策」に効果はあるのか、というところ。

・監視カメラは何に効くのか?

・監視カメラより安上がりな方法は?

・青色防犯灯や青パトに防犯効果があるのか?

・徴兵制やブート・キャンプは効果があるのか?

・被害者の心情を理解した犯罪者は更生できるのか?

・ミーガン法や、電子監視、防犯マップに効果はあるのか?

 などなど・・・・。こちらも詳しくは本書をどうぞー。

 例えば、アメリカで人気あるプログラムに「スケアード・ストレイトプログラム」というのがあるそうで、罪を犯した大人がその話を非行少年に聞かせて、更生させようという、言ってみれば“反面教師プログラム”です。いっけん良さそうなんですが、このプログラムを受けた人、再犯率があがります。なぜでしょう。本に先生が仮説を書いてますが、ちょっと考えてみてくださいませ。あと「ブートキャンプ」(軍隊訓練)については、アメリカの現場の処遇を調べていらっしゃるのですが、現場では、目をキラキラ輝かせて効果ありそうな少年もたくさんいたそうです。果てその結末は??

 話ずれるんですが、「青色防犯灯」については、自殺予防の観点から、電車のホームに入れたって施策もありました。先生の感想と似てて、ちょっとうれしかったのですが、なんかあの「青」の光って日本の風景に合わない気がする。ほら、もうすぐ街にあふれるクリスマスツリーですが、青いのがいっぱいついたやつってなんか安っぽいし、街頭に青くドーンと立ってると、怖い・・・。私だけ? 確かにイギリスの街なら青の光ってあってる気がします(笑)。

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 先に、スケアード・ストレイトプログラムのところで紹介したように、犯罪者に犯罪結果の重大性を自覚させるだけの反面教師プログラムは、再犯を促進させることが科学的に証明されている。人は学習の動物であり、「こうなってはならない」あるいは「こうなりたくない」と思っていても、他に「こうなりたい」というモデルやそこに導いてくれる人が存在しなければ、具体的に体験した「こうなりたくない」という人になるしかない。

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 悲しいお話ですが・・・。

 「犯罪対策」におけるもっとも大事なことは、刑務所を出たあとの人たちの世話をしている奇特な方たちではないかと思います。民間篤志家の人材不足、処遇、高齢化だったりするんではないでしょうか。だから「再犯」を心配するのであれば、ここの部分をボランティアだけに頼らないようにできるシステムを考えることではないかと思います。そこに心を痛めている人が誰がいるのかというと、なんでしょうね。うちの国、陛下だけだったりするんではないかと心配になるところです。

 陛下のお言葉。

http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/okotoba/okotoba-h21e.html

更生保護制度施行60周年記念全国大会
平成21年9月8日(火)(東京国際フォーラム)

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 本日,更生保護制度施行60周年記念全国大会が行われるに当たり,日ごろ,更生保護事業に尽くされている皆さんと一堂に会することを誠に喜ばしく思います。
我が国の更生保護事業は,保護司,更生保護施設,更生保護女性会,BBS会,協力雇用主など,多くの民間篤志家の努力によって支えられてきました。人々が安全に暮らせる社会を目指し,過ちを犯してしまった人々の社会復帰に力を尽くされている皆さんの御苦労には,計り知れないものがあることと察しております。今日,国民が享受している生活は,皆さんのこのような昼夜を分かたぬ献身的な働きがあってのことであることを忘れてはならないと思います。ここに,本日の表彰受賞者を始め,長年にわたって更生保護の仕事に携わってきた多くの関係者に深く敬意を表します。

 近年の困難な経済状況や高齢化の進展など,更生保護の仕事に携わる皆さんにも様々な困難があることと思いますが,それぞれの貴重な経験をいかし,力を合わせてこの制度の一層の充実を図り,過ちを犯した人々も社会で有意義な日々を送ることができるよう願い,大会に寄せる言葉といたします。

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追記。浜井先生が本書の中で引用されている本で、今まで紹介してない本。こちらもご参考に。

刑事法を考える (法律文化ベーシック・ブックス)/石塚 伸一

不平等社会日本―さよなら総中流 (中公新書)/佐藤 俊樹

市民のための疫学入門―医学ニュースから環境裁判まで/津田 敏秀

安心社会から信頼社会へ―日本型システムの行方 (中公新書)/山岸 俊男

日本人のしつけは衰退したか―「教育する家族」のゆくえ (講談社現代新書 (1448))/広田 照幸