アナザー・カントリー HDニューマスター版 [DVD]/ルパート・エヴェレット,コリン・ファース,ケーリー・エルウェス
¥3,990
Amazon.co.jp


英国で実際に起きたスパイ事件の中心人物をモデルにした舞台劇を映画化した作品。

1930年代、パブリックスクールで寮生活しているガイ・ベネットは、学校の代表の座を狙い、将来はフランス大使を目指す野心家。その一方で、ガイは、同性愛者で、別の寮にいるハーコートに恋をしていました。そんな彼を親友で共産主義者のジャドは、静かに見守っていました。ある日、学生同士の性行為の現場を教師がしたことから、学内は規律を厳しくする方向に傾いていきます。そして、何かと目立つ行動をするガイを快く思わない者たちが、同性愛を理由に彼への批判を高めていき...。

本作の主人公、ガイ・ベネットは、「裏切りのサーカス」のモデルとなった実在のスパイ集団、ケンブリッジ・ファイヴの一員、ガイ・バージェス。

上流階級に生まれ、エリートとして育ったガイが、何故、ロシアのスパイとなったのか、年老いたガイが、自身の過去を振り返る形で、若かりし日々について語られます。

特権階級に育って、のんびりと優雅にモラトリアムしていられる若者たちだからこそ、中には、社会からはみ出すものに夢を見たくなる者も出るのかもしれません。大半は、属する階級に相応しい生き方を自然に選び取るのでしょうけれど、素直にそのレールに乗れない者も一定数は現れるもの。そして、同じような属性の者たちの集団だからこそ、ちょっとした違いを原因とする諍いや反発が生まれることもあったり...。

そして、同時に、彼らの社会は、彼らより前の世代の人たちが作り上げる社会の縮小版ともなっています。彼らが、世に出た後にも経験することになるであろう権力闘争。それは、学校の中の問題でもあります。

権力闘争を勝ち抜き、代表の座を射止めることを目標としていたガイ。その目標を達成できなかった時に、彼は、自分の本当の姿を見せることのデメリットを悟ったのでしょうか。そのことが、自らの存在を隠さなければならないスパイという生き方を選ぶことに繋がったのでしょうか。"同性愛の世界であるアナザー・カントリー"と"共産主義であるアナザー・カントリー"が重なったのかもしれません。そして、もしかしたら、それ以上に、ジャドへの愛故に彼が傾倒した共産主義に殉じようとしたということだったのかもしれません。

ただ、物語として面白いかというと...。亡命することを余儀なくされたスパイが過去を振り返る物語としては、薄いくて浅い感じが否めません。"何故、スパイになったのか"という部分も曖昧になってしまっていますし...。スパイが過去を語る物語より、BLの世界を描いた上で、"主人公はスパイになりましたとさ"的な終り方にした方が、見応えのあるストーリーになったのではないかと...。

そう、本作はストーリーや展開を楽しむ作品というより、ひたすらに美しい風景と、それにより何より美しい男子高校生たち。兎に角、イケメンたちの御姿を堪能する作品です。ガイを演じたルパート・エヴェレットにしても、ジャドを演じたコリン・ファースにしても、本作が、その人生の一番美しい瞬間を切り取った作品になったのではないかと思います。

耽美的なBLの世界なのですが、本作の公開が1984年、その基となった舞台の初演が1981年ということを考えると、1972年に萩尾望都の「ポーの一族」、1976年に竹宮恵子の「風と木の詩」の連載が開始された日本の少女漫画界は、相当に先進的だったということになるのかもしれません。


人気ブログランキング