MI6での勤務経験もあるスパイ小説の大家ジャン・ル・カレが実際に起きた事件を基に書いた小説を映画化した作品。原作は未読です。


冷戦下のイギリス。英国諜報部(="サーカス")のチーフ、"コントロール"はサーカス内部に潜むソ連の二重スパイ(="もぐら")を見つけ出す作戦の失敗が原因となり、右腕だったスマイリーとともに、サーカスを辞めることになります。それから間もなく、コントロールは謎の死を迎えます。スマイリーは、レイコン次官に呼び出され、二重スパイを突き止めろという指令を受けます。スマイリーは、諜報部の現役職員、ピーター・ギランを配下に、二重スパイを探り始め...。


特に事前情報を仕入れずに観ました。


登場人物が多く、似たような白人の比較的高齢のオジサンが占める割合が高く、注意して観ていないと誰が誰だかわからなくなります。寝不足の時とか疲れた時に観てはいけない作品です。けれど、それなりの集中力を持てる時に観れば、ストーリーが分からなくなるような難解な作品ではありません。現在の映像と過去の映像が入り組んでいたりもしますが、コントロールが登場するのは過去、いなければ現在と考えれば、ほぼOKな感じなので、彼の存在の有無に視点を置いてみていけば、それほど混乱することもないと思います。


二重スパイに関する重要な情報を探りに行ったスパイが情報提供者との接触の直前に撃たれた。となれば、その作戦について詳細を知ることがいる立場にあるものが裏切った可能性が高いということになります。コントロールは、二重スパイが存在するという確信を掴みますが、謎の死を遂げます。その話をコントロールから聞いていたレイコンは、"もぐら狩り"をスマイリーに命令します。


で、特にアクション的な要素のない地味~~~な情報戦が始まります。まぁ、実際のスパイ活動なんて、そんなにカッコよくも派手なものでもないのでしょう。ジェームズ・ボンドのような目立つ人物が本物のスパイになんてなれるわけもなくて...。どこだったかの諜報機関が求人広告を出したというニュースを耳にしたことがありますが、そこで話されていた"スパイとなるための条件"の一つに"印象に残らない風貌であること"というのがあり、成程と思いました。そうですよね、そうでなきゃ、何かと疑われ、腹を探られることになるのでしょうから。できるだけ、目立たない存在にならないといけませんね。


そして、調査活動の大半は、室内での資料調査。この調査用の資料を盗み出す場面は、少々、ドキドキハラハラしましたが、派手なアクションもカーチェイスもなく、スパイ映画らしい場面は少なかったです。それでも、さすがに実力派を揃えた演技陣の力もあり、見応えある作品になっていたと思います。




<以下、ネタバレあり>






レイコンがスマイリーに命令したということは、スマイリーが二重スパイでないということをコントロールから聞かされていたからでしょう。コントロールが二重スパイの疑いがあるものとして考えていたらしい5人。それぞれの顔写真が張られたチェスの駒の、スマイリーの分だけが裏を向いていたのは、彼が疑いを捨てたからなのでしょうか...。


やがて、撃たれたジムが生きていたこと、そして、イギリスに送還されていたことが明らかになります。学校の教師になっていたジムは、転校生で周囲となじめずにいたビルに声をかけます。ビルがこの少年に"ビル"という名前の人物についてコメントしますが、そこで、彼の送還に尽力した人物がビル(="テイラー")である可能性が示唆されます。そのことを考えると、ジムがビル少年にかける言葉には"テイラー"への彼の気持ちが感じられます。ジムが生きていて、しかも本国に返されて無事に生活できているのは、"テイラー"が手を回したからなのでしょう。ジムが"テイラー"を狙撃する場面での2人の涙の意味もこの辺りで分かるような気がします。


ジムが"テイラー"を撃ったのは、"テイラー"を拷問から救うためだったのでしょうし、"テイラー"もそれを理解していたから逃げたりはしなかったのでしょう。


敵側のボスと目される"カーラ"が顔を出さないのも効果的。代わりに登場するのが、"カーラ"とスマイリーを結ぶライター。たった一度だけ顔を合わせた2人。スマイリーがペーターに"カーラ"の話をした時、ペーターに"カーラ"の容姿について聞かれ「忘れた」と答えます。力のあるスパイであるはずのスマイリーがたった1度会っただけとはいえ、大物である"カーラ"の顔を忘れたりするでしょうか。この2人の間にも他人には窺い知れないものが隠されているような気がしたのは考えすぎでしょうか...。








本作の"今"は、冷戦下。もう30年以上は前の話になります。古さが感じられるのは、何と言っても、通信手段のアナログさ加減。固定電話とかテレックス(でしたっけ...、まぁ、これは"デジタル"ですが...)、データもすべて紙ベース。こうして見ると、メールとか携帯電話とかどこでも自由にコミュニケーションできるツールが人の活動にもたらしたものの大きさを実感しました。


地味ですが、楽しめました。原作を読んでみたくなりました。


ラスト。スマイリーがコントロールの場所だったところに座ります。部屋にはスマイリー1人。"もぐら"が捕らえられた後、そして、"ウィッチクラフト"の情報が本物の"金"ではなかったことが明らかになった今、どんな面々がそこに集うのか...。


全編にわたってほとんど表情を変えることのなかったスマイリーが微かに見せる"スマイル"の意味するものは何だったのか...。余韻の残る作品でした。ジョン・ル・カレは、他にもスマイリーを主人公とする作品を4編書いているようです。そちらも読んで、スマイリーという人物をより知ってみたい気がしました。



公式サイト

http://uragiri.gaga.ne.jp/



裏切りのサーカス@ぴあ映画生活