OUT [DVD]/原田美枝子,倍賞美津子,室井滋
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桐野夏生の同名小説を映画化した作品。原作は読んだこと があります。


東京郊外の深夜の弁当工場で働く雅子、ヨシエ、邦子、弥生。家庭崩壊、老人介護、カード破産、夫の暴力など、それぞれに問題を抱える彼女たちに大きな事件が起こる。弥生の夫殺しに巻き込まれ、隠ぺい工作のため死体の解体作業をすることになる女たち。事件の秘密を知ったやくざと警察の執拗な追及が迫る中、彼女たちは、最悪の状況から抜け出すために、それぞれの人生への闘いを強いられていく


原作は4人の女性の心の闇を描き、読んでいて怖い感じがしました。深夜の弁当工場で働く主婦、4人。次々に弁当箱が流れてくるラインでの作業についていくには、それなりのスピードが必要で、しかも、ミスは許されません。多くのコンビニにとって売り上げの相当な部分を占める商品。工場に弁当を作らせる側も必死なのです。商品に問題が出れば、注文を受けている工場にとっても死活問題。正確さも能率も求められ、だからといって、大きく稼げるわけではありません。そんな状況の中、深夜に働く主婦4人は、それぞれにワケありです。で、皆、他に多くの選択肢を持っているわけではありません。そんな状況の中で押しつぶされ、追い詰められた女たちがどうなっていくのか...。


原作は、それなりの長さがある小説なので、映画としてまとめるには、かなり思い切った取捨選択が必要です。何を切り捨て、何を残し、何を描くか...。映画化された作品の価値を"原作に忠実であること"に求めるべきではないことなど百も承知...なのですが...。


それにしてもです。原作のグロくて恐ろしい感じは随分薄められ、マイルド...というより、コミカルな雰囲気になってしまっています。そして、ラストの改変。原作とは誰が生き残るか死ぬかも違っているし、主要な人物の設定もいろいろ変えられているような...。で、骨抜きにされてしまっているという印象を受けてしまいます。


原作を読んだ作品の映画を観る場合、ほとんどガッカリさせられるわけですが、それもある程度はやむを得ないとも思っています。けれど、それにしても...です。


世にバラバラ殺人を扱った小説や映画がかなりある中、原作小説では、"死体を運ぶことの大変さ"や"死体をバラバラにすることの大変さ"をリアルに描いていると思います。映画も多少は頑張っていますが、これも、原作に比べるとお手軽な印象になっていることは否めません。


で、原作を忘れて観れば楽しめそうなのかといえば、それも難しいような...。"バラバラ死体製造"を稼業とするまでになる程、4人の中にある闇は深かったわけです。特に、犯罪に手を染める度に生き生きとしていっている雅子。こうした形でしか、自分を解放できない程に追い詰められている状況が描けておらず、全体に底の浅い薄味仕上げになってしまっています。


4人を演じた女優陣の力量の差も問題かもしれません。やはり、倍賞美津子が出色。原田美枝子も熱演。室井滋もギリギリ何とか頑張っています。けれど、西田尚美は、やはり、このメンバーの中では力不足。これは、やはり、キャスティングの問題でしょう。4人のバランスには、もっと、気を使ってほしかったです。


細かい部分も結構雑で気になります。お腹の子どもを大切にしようとしているのか無事に生まれなくても仕方ないと思っているのかよく分からない弥生。夫がお腹を蹴っていてもあまりお腹を庇おうとしないのは何故なのか...。


"神は細部にこそ宿りたまう"とも言われますが、やはり、細かいところで違和感を覚えてしまうと、なかなか、作品の世界に入り込めません。


折角、相当に印象的な原作があり、それなりの出演者を揃えているのに、残念です。