桐野 夏生
OUT 上 講談社文庫 き 32-3
桐野 夏生
OUT 下 講談社文庫 き 32-4

凄いものを読みました。


コンビニエンスストアで売られるお弁当を作っている工場。そこで、深夜のパートをする四人の主婦が犯罪に手を染めます。そこから崩れていく四人の関係とそれぞれの人生が描かれます。


その人物描写に迫力があります。


一人一人の登場人物が、いかにも、それらしく、その人物描写の力が、彼らの行動の一つ一つに説得力を持たせています。よく考えてみれば、「そう上手くはいかないだろう」という展開もないわけではないのですが、そんなこと気にならないだけの説得力を持っています。現実に、遺留品なども多くすぐに解決されるかと思われていたにも関わらず迷宮入りした事件もあるわけですし、「これもあり」というところでしょう。


弁当工場については、仕事の関係で、昼間ではありますが、中を見学したことがあります。工場についての描写の見事さにもうならされました。


雅子は、弥生が殺した弥生の夫の遺体の処理を最初は報酬なしに引き受けます。ヨシエや邦子もこれだけの労力を払い大きな罪を犯した代償としてはあまりに少ない50万、10万といった金額で雅子を手伝います。何故、彼女たちは、とても見合うとは思えない報酬で犯罪に加担したのか。彼女たちの置かれた環境や性格の描写に迫力があり、納得させられます。そんな金額でこれだけのことをせざるを得ない、ヨシエにいたっては、報酬欲しさに「仕事」を待ち望まずにはいられない、その彼女たちを取り巻く現実に哀しさを感じます。


それぞれの絶望的ともいえる閉塞感には胸を塞がれる思いがします。「希望格差社会」とか「下流社会」という言葉を耳にしますが、日本の社会にどんどん格差が生まれ、「階層」が形作られてきていることを実感します。


弥生は家庭を顧みない無責任な夫、邦子は自らの浪費が招くローン地獄、ヨシエは介護とままならない子育て...。それぞれが、世の女性たちを取り巻く問題に悩まされています。そんな中で、一番、自分の人生をコントロールする力を持ちえているのが雅子。その強さのために周囲と摩擦を起こしもしますが、一人でいることを恐れず、背筋を伸ばしている雰囲気に魅力を感じました。


全体を見ると、雅子が、閉塞的な環境を脱出し自由に向かって飛び立とうとするまでの過程を描く物語になっているようにも思えます。


パート仲間四人で、この犯罪に関わったことが原因となって殺されたのが邦子。残りの三人は、それぞれに新しい生活を手に入れます。弥生は、家庭を顧みない夫から逃れることはできたものの、その後の生活を支えるはずだった五千万円の保険金は失います。ヨシエは、娘を失いますが、長い介護生活を強いてきた姑からは自由になりました。そして、雅子も、家族から自由になります。


自身の人生をコントロールする力を持つ者のみが勝者となれるのだと言っているようにも受け取れます。


かなり、おどろおどろしい場面も多く、暗いトーンの作品ではありますが、不思議とすっきりとした読後感があります。


かなり強くお勧めできる作品です。