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池上秀司のブログ

ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

今回は、以下の日経新聞の記事を考えてみたいと思います。

住宅ローン、ミックス型も選択肢 金利上昇に備え

記事では変動金利と固定金利を組み合わせて借りる「ミックスプラン」を推奨しています。私は16年前の著書の表紙に「金利ミックスはトクしない!」と書いています。

 

住宅ローンの(秘)新常識 長期固定に繰上返済はトクしない!?

ミックスプランは「あれこれ考えている風」ではありますが、大した意味(効果)がありません。上記書籍では数字で検証していますが、今回は日経新聞の記事を数字で検証してみたいと思います。

記事には、当ブログに何度か登場したことのある住宅ローンアドバイザーの淡河範明さんの試算による、4,000万円を変動金利0.47%と全期間固定金利1.445%で2,000万円ずつ借り入れした例が出てきます。そして、6年目以降、変動金利が+1.5%の1.97%になった場合のことが触れられています(「変動金利が5年後に1.5%上がるのか」という話も重要ですが、ここでは置いておきます)。私が試算をして数字を並べてみましたので以下に記載します。



 

結局のところ、ミックスしても毎月の返済額も総返済額も全期間固定を上回ります。ミックスプランと変動金利だけを見ているのでトクな感じがしますが、全期間固定よりは損をします。金利上昇が起こっても、【ミックスプラン < 全期間固定のみ < 変動金利のみ】という状況になるのであれば、まだ検討の余地もあるかもしれません。しかし、変動金利のみよりミックスプランがトクをするのは、極端な金利上昇が起こった場合です。記事には

>金利の上昇が続いたりすれば、変動型の返済総額はさらに膨らむ

とありますが、そのような極端な金利上昇を予想するのであれば、わざわざミックスせずに全期間固定だけで借りておけばいいだけです。ミックスプランは極端な金利上昇がないと変動金利より有利にならず、その場合は全期間固定金利より不利になる。ここが非常に重要です。

>ミックス型の強みは家計の状況などに応じて契約内容を調節できることだ

 

との記載がありましたが、ミックスの割合を変えても同様の結果が得られました(下の画像参照)。調節するのは自由ですが、意味(効果)があるのでしょうか。

 

 

冒頭で「あれこれ考えている風」といったのは、こういうことです。

>ローン返済中の選択肢もある。金利が上昇し始めた場合に、変動型を先に繰り上げ返済すれば利息負担の増加を抑えられる。反対に金利上昇が当面ないとみれば、金利が高い固定型から繰り上げ返済する考え方もある。

金利が上昇し始めたという程度では、変動金利は固定金利を上回る水準にはなっていません。当然、固定金利の利息負担の方が多いのですから、そちらを考えた方がいいでしょう。金利上昇が当面ないとみるなら、そもそもミックスする必然性が見当たりません。考え方としてはありますが、「あれこれ考えている風」です。

せっかくなので、他の試算もしました。


■6年目以降、全期間固定と返済が同じになる金利→1.6%

 


 

「変動金利のみであれば1.6%だけれども、ミックスしているので変動金利が1.8%になって同水準」というのであればわかりますが、どちらも1.6%です。

■総返済額が全期間固定と近くなる6年目以降の金利→1.78%




これも、「変動金利のみだと1.78%だけれども、ミックスしているので変動金利が2%で同水準になる」ならわかりますが、どちらも1.78%です。それぞれミックスの割合を変えても、同様の結果が得られます。これらの理由は、全期間固定の金利が高い=金利がすでに上がっているということが要因ですので、変動金利だけでなく全期間固定金利もしっかりと見た方がいいと思います。

後半、以下の記載があります。

>ファイナンシャルプランナー(FP)の竹下さくら氏は「子どもの大学進学前後までに片方を完済するように期間を設定すれば、教育費負担が重くなる時期の家計運営が楽になる」と助言する。1人が35年返済で固定型、もう1人が15年返済の変動型といった具合だ。期間が短い方を変動型にすれば、金利上昇リスクを抑えやすい。

まず、教育資金に関しては、一番かかるといわれているのが、大学初年度の入学金と授業料。つまり、「まとまったお金」が必要です。2本のうち1本の住宅ローンを大学入学までに完済しようとすれば、返済額が高くなります。住宅ローンに多くの資金を投入することとなり、その「まとまったお金」が作りにくくなります。ライフプランニングにおいては「ストック」と「フロー」の両面を見る必要がありますが、「ストック」への配慮が欠けています。

 

そもそも、そのような高額な返済額が返済比率に収まるのか=実現可能なプランか、という観点も抜けています。

次に、変動金利を早期に返済するようにしていますが、それにより割高な固定金利の返済が残ります。変動金利の返済期間が短い=元金返済が多いのに、将来の金利上昇を過度に意識しすぎていないでしょうか。変動金利の金利上昇を問題視するのであれば、固定金利はすでにその金利上昇が起こっている状況なのですから、そちらも考えた方がよろしいかと思います。変動金利だけに着目し、固定金利のマイナス面が欠落した偏った記事になっています。

このように、ミックスプランは選択肢としてはありますが、具体的に数字で見てみると大した効果は見込めず、これを推奨している人達は雰囲気で語っているという印象です。私が「あれこれ考えている風」というのは、そういう理由です。

今日は、日本経済新聞の以下の記事を取り上げます。

金利上昇、その時奨学金は? 知っておきたい注意点

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借金の「複利パワー」に注意

今年の新入生もこのリアルさを直視しておく必要がある。そして彼ら、彼女らが思いを致すべきなのは、足元の金利ではなく4年後の金利だ。適用金利は貸与終了時(多くは大学4年の3月)のものとなり、JASSOがその時の市場金利も参考にしながら決めて発表する。実際、最近の金利上昇の影響を受け、利率は1年前と比べ0.5ポイント強上昇している。通常のローン金利に比べれば水準は低く抑えられているとはいえ、ゼロ金利下ですっかり忘れ去られた、金利が金利を生む「複利効果」は資産運用だけでなく借金の場合にもパワーを発揮することを肝に銘じよう。

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複利によって利息負担が増えるぞと書いてありますが、奨学金は「単利」なので単純に誤報です。ゼロ金利下で忘れ去るもなにも、奨学金が複利だなどとハナッから覚えていません。世の中には「複利」と言っておけば賢いと勘違いする人が一定量いるのですが、日経新聞もそれに含まれます。以前も、似たようなことがありました。

 

意味不明な日本語で誤報を開き直る日経新聞

奨学金は以下で試算できるので、2018年4月から月5万円を4年間借りて、2022年10月から返済する場合を試算してみました。2022年3月に貸与が終了するので、利率固定方式で考えると金利は0.369%で、返済額は13,731円となります。


奨学金貸与・返還シミュレーション



計算の仕方は簡単です。月々の返済は、240万円・0.369%・15年・元利均等返済で計算すると13,707円。通常の借入は「単利」なので、住宅ローンであろうと奨学金であろうと、同様の考え方です。エクセルなら「PMT関数」で計算できます。


 

 

それに、返済開始までの据置利息を上乗せします。据置期間は、4月1日から9月27日までの180日なので、以下のように計算した24円を上乗せします。
据置利息:240万円×0.369%÷365日×180日=4,367円
     4,367円÷180回=24円

上記の13,707円と24円を足した13,731円が返済額になります(最終返済月は端数調整のため若干増えています)。




これが奨学金の返済額の計算の仕方です。これは利率固定方式での計算なので、利率見直し方式は金利が変わる可能性があります。2022年3月に貸与終了の場合は0.04%と極めて低水準でなので、将来的には下がるよりも上がる可能性の方が高いでしょう(記事では上限金利の3%を持ち出してさらなる不安を煽っていますが、そんな状況になるのは至難の業なので、無視で結構です)。しかし、金利が上がろうと、利息の計算の仕方は以下の通り「単利」です。「金利が上がる」ことと「利息の計算(単利・複利)は区別しなければいけません。

 

【利息 = その時点の借入残高 × 金利】

 

メディアは注目を集めたいだけなので、学生の皆さんにおかれましては、奨学金に無関係な複利を持ち出して不安を煽る大人に注意が必要ですし、新聞に書いてあることが正しいとは限らないということを肝に銘じていただければと思います。

 

最近は「金融教育」として、高校生に資産運用まで勉強させようとしていますが、「奨学金は複利」などという間違った知識を流布する大人を作らないことも「金融教育」であり、社会的には重要ではないでしょうか。

本日は、こちらの記事について考えてみます。

目先のことだけを見ている人が多すぎる…これから「変動金利」で住宅ローンを組む人が負う本当のリスク積極的にリスクをとりにいっているという自覚がない人は危険

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私は住宅ローンの専門家ではありませんから、細かい手続きや仕組みについては詳しくありませんが、資産運用が専門ですので、その観点から住宅ローンということを考えてみると、結構勘違いしている方が多いのではないかという気がしています。

変動金利を利用している人が多いのは、固定金利に比べて金利が低いからでしょうが、今後、もし金利が大幅に上昇すると負担は大きくなります。これは大きなリスクです。


投資の大原則は「リスクを取らない限りリターンは得られない」ということですから、まさに変動金利を利用している人は積極的にリスクを取りに行っているということになります。
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住宅ローンのリスクというと色々な解釈がありますが、資産運用の観点から考えて、変動金利はリスクをとっているといえるでしょうか。


そもそも、変動金利は日本銀行の金融政策の影響を強く受けるというのは、以前よりお伝えしてきました。最近ではそういった情報が頻繁に見られるようになって、かなり進歩してきたと思います。

 



すなわち、変動金利を考えるにあたっては「短期金利(短期金融市場)」を見ていく訳です。短期金利については、以下、野村證券の解説をご確認ください。

短期金利|証券用語解説集
読み:たんききんり
分類:金利・為替
取引の期間が1年以内の金利のこと。
主な短期金利は、「短期金融市場金利」「定期預金金利(1年未満)」「普通預金金利」などである。


資産運用におけるリスクというと、「リスクリターン分類」というのがあります。リスクリターン分類については、日本証券業協会の解説を以下に示します。

リスクとリターン


「リスク」と「リターン」は比例します。
リスクを低く抑えようとするとリターンは低下し、高いリターンを得ようとするとリスクも高まります。
したがって、「リスクがなく(低く)、リターンが高い=ローリスク・ハイリターン」の金融商品は存在しません。


リスクというのはブレ幅であり、リスクが高いというのは「ブレ幅が大きい」ということになります。では、短期金利である「普通預金」はブレ幅が大きい=リスクが高いでしょうか。図の通り、ブレ幅は低い=リスクは低いというのがわかります。

 

お金は金融市場でつながっていますから、「変動金利は積極的にリスクをとりにいっている」とは、金融市場に照らし合わせた上で考えると、「普通預金は積極的にリスクをとりにいっている」ということにつながります。「変動金利が大幅に上昇したら」とは「普通預金が大幅に上昇したら」につながります。資産運用の世界でこんなことをいったら「??」となるでしょう。勘違いをしているのは筆者ではないでしょうか。

このように、「金利が変わる」という点のみをとらえた「変動金利は積極的にリスクをとっている」という解釈に妥当性はなく、金融市場の観点から考えれば矛盾しているとも言えます。住宅ローンに無理やり資産運用の理屈を当てはめるから、おかしなことになる訳です。

では、目先を考えてみます。まずは金利ですが、変動金利は日本銀行の金融政策の影響を強く受けると書きました。では、日本銀行の金融政策の見通しはどうでしょうか。日銀の現総裁の黒田氏も、次期総裁の植田氏も金融緩和を継続すると表明しています。つまり、大きく変化するとは考えにくい状況です。



次に利息を考えてみます。全期間固定金利を1.35%、変動金利を4.5%として4,000万円、35年返済の返済額を計算すると、全期間固定金利は119,555円、変動金利は102,952円になります。




では、目先の返済、1回目の返済で元金と利息はどのようになっているでしょうか。以下の通りです。

 



利息の計算式は、【その時点の残高×金利】です。残高が一番多いのはまさに目先であり、目先ほど金利の影響を受けます。残高が多いときに高い金利を選択すると、目先の利息負担は多くなります。全期間固定金利は金利が3倍なので、1回目の利息はちょうど3倍になっています。これと引き換えに、元金充当額が減っています。

 

 

変動金利から考えれば、少ない返済で元金返済が促進されます。将来金利が上昇することは避けられないと思いますが、それまでに残高を減らして金利上昇の影響を小さくするというのも、金利上昇対策といえます。その辺りは、以下のエントリーで詳しく書いています。

 

「固定金利は貸し手が、変動金利は借り手が金利上昇リスクを受ける」という都市伝説

 

残高を減らした金利上昇対策


短期金利が大きく上昇する気配がなく、残高の多い今、目先の金利の低さに魅かれて変動金利を選択することも、選択肢として十分尊重できる理由があります。目先を見れば変動金利も悪くないと考えられるので、「目先のことだけを見て変動金利を選んでいる」と言っている人は、目先すら見ていないということがよくわかります。こういう専門外の方が雰囲気で語っているだけの記事で、消費者の皆さんの正しい選択が歪められないことを望みます。

日本経済新聞の住宅ローンに関する記事は、毎回、住宅ローンの勉強をする機会を提供してくれるありがたい存在です(褒めてない)。先日公開された記事の一節を考えてみましょう。

住宅ローン金利、「我が家の最適」を考えてみる
 

>例えば、借入期間30年、0.5%で借りたとしましょう。金利が1%上昇し、1.5%になると月々の返済額は8万9756円から10万3536円に増え、1万3780円の負担増になります。金利が2.5%に上昇した場合は2万8780円の増額です。家計に影響はないでしょうか。

「金利が1%上昇し」とサラッと書いてありますが、大事な観点が抜けています。それは「1%上がるのはいつか」です。

>1.5%になると月々の返済額は8万9756円から10万3536円に増え、1万3780円の負担増

これは、1回目の返済から金利上昇した場合です。金利が上昇するには時間が掛かると思われますので、現実にはこのような負担にはなりません。しかも、今は日銀が金融緩和継続を表明しています。

ですので、

>金利が2.5%に上昇した場合は2万8780円の増額

というのも気にする必要はありません。そもそも「変動金利がいきなり2%も上がるのか」という観点も抜けています。下の画像は過去の金融政策と変動金利の推移ですが、一目瞭然、変動金利の2%の上昇は、サラッと書くような話ではありません。

 


時間が経過すれば、残高は減っています。利息の計算式は

その時の借入残高 × 金利

です。時間の経過に伴って残高は減るので、金利上昇の影響は小さくなります。それについては、以下のエントリーで詳しく書いています。

「固定金利は貸し手が、変動金利がは借り手が金利上昇リスクを受ける」という都市伝説

以下の記事も同様のことがいえます。

【金利上昇】「5000万円」のマイホームを購入しました。支払いが厳しい時の対処方法はありますか?

>金利が0.44%時には12万8000円ほどの返済額ですが、金利が4%まで上がった場合は9万円以上返済額が増えてしまいます

・この試算は、借り初めに上昇している(現実には金利が上がるには時間が必要)
・0.44%の変動金利がいきなり4%になるのか

という2点を考えれば、前提条件に妥当性がない、利息の成り立ちを理解していない記事ということがわかると思います。金利上昇の注意喚起というよりは、あり得ない設定で無用な不安を煽るだけという印象です。

 

どちらの記事も筆者のプロフィールに「CFP」という記述がありますが、金利上昇に対する考え方は、FPの上級資格であるCFPで勉強することはないようです。

前回の記事の続きで、少し発展的に考えてみたいと思います。

4,000万円、35年返済、変動金利0.45%と全期間固定金利1.35%では、毎月16,603円の差額が生まれます。そこで、全期間固定金利で借りたつもりで変動金利で借りて、浮いた16,603円を貯めて、それぞれの経過年数時点で繰上返済をしたらどうなるかを試算してみました。

まず、経過年数時点で金利が全期間固定金利と同じ1.35%になった場合の返済額です。



前回記載した、繰上返済を加味しなかった場合との比較です。


次に、経過年数時点で、全期間固定金利と返済額が同じになる金利です。


こちらも繰上返済を加味しなかった場合との比較です。



全期間固定金利と変動金利、さらに返済差額を繰上返済した場合の残高の比較も作ってみました。


変動金利は経過年次まで変更しない前提での試算ですから、実際の返済を考えるときにはその辺りも考慮しないといけませんが、「残高が減ることの金利上昇に対する効果(影響)」はこれでおわかりいただけるのではないでしょうか。そうすると、「もっと繰上返済をするならば、どんな原資が考えられるか」につながります。

住宅ローンご利用の際は団体信用生命保険に加入しますから、生命保険の合理化も見込めるでしょう。住宅ローン控除の還付金も繰上返済原資にできるかと思います。その他、こういう機会にお金の使い方を考えていただければと思います。世間ではiDeCoやNISAが話題になりますが、それらをやらずに繰上返済をコツコツすることも、素晴らしいお金の使い方だと思います。金利選択同様、「我が家の生き方、考え方に合っているのはどんな方法か」を考えることが大切と思います。考えた結果であれば、iDeCoやNISAも大いに結構ですし、それこそiDeCoやNISAと繰上返済を並行していってもいい訳です。

 

なお、残高はわかりにくいのですが、便利なスマホアプリもありますし、エクセルのFV関数というのを使うと算出できます。私が愛用しているカシオの金融電卓「BF-750」でも「年賦償還」という機能で算出できます。以下の動画で解説していますが簡単です。前回、今回の記事に関連することも話をしていました。

 

 

この金融電卓は一般消費者の方がご購入されてもいいと思っています。「答えが固定金利で固定しているFPへの相談料」よりはマシです。使い方は私の動画でご紹介しています。前回、今回の記事に記載している一連の数字も「段階金利」や「利率計算」の機能を使えばたどり着きます。本来であれば私へご相談いただける方がいいのですが、「皆さん自身で自分の返済を考える」ことの方が価値がありますし、それで決めたプランが一番納得できると思います。

 

 

ここのところ、ツイッターに慣れてしまい、長い文章を書くことが疎かになってしまっていましたが、短い文章では伝えられないこともあるので、気が付いたら書いていこうと思います。ご購読ありがとうございました。