「変動金利は早めに固定金利にしましょう」を実践したらどうなっているか | 池上秀司のブログ

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では、前回の続きを書いてみます。

タイトルのような「変動金利を固定金利に変えようと思ってもその時には固定金利は既に上昇してしまっているので、今のうちに(金利の低いうちに)固定金利に変えましょう」という助言は至るところで見てきました。しかし、実態として変動金利が上がっていないどころか、固定金利の指標である長期金利が下がっています(それに連動して固定金利も低下傾向です)。つまり、慌てて固定に変更しない方がよかったともいえるので、それを具体的に数字で確認します。

拙著「住宅ローンの教科書」では、週刊ダイヤモンド2013年2月2日号におけるFP深田晶恵さんの

変動金利があがるころには、固定金利はすでにかなり高くなっている可能性が高い

というコメントを元に、「2012年に借り入れをして、1年後の2013年に固定に変えたら、さらに1年後の2014年はどうなったか」に触れいています。固定に変更した場合、その後1年間で返済額は17万円の負担増。借入残高は12万円も多く残り、合計すると29万円の差が発生しました(下図参照)。


それから約2年経過、借入当初からの4年間を計算したのが下図です。返済額は51万円増、借入残高は34万円増、合計すると85万円もの差になっています。


百歩譲って当時よりも長期金利が上がっているならまだしも、「変動金利より先取りして上昇するから大変だ!」という長期金利が下がっています。タチが悪いのは、変動金利の不安を煽り、固定金利に変更させようとする「エセ専門家」は、金利が下がっていることには一切触れません。自分の見立てが間違っているのですから当然といえば当然ですが、検証も反省もせず、未だに同じことを繰り返しているのは、明らかに不適切かつ無責任、不誠実。専門家を名乗るには、疑念を抱いて当然です。

「変動金利より、固定金利が先に上昇する」という傾向自体は間違いではありませんが、その「上がり方」によって返済への影響は異なるのですから、すぐに「変動金利を固定金利変えましょう」というのは短絡的です。実際の金利動向という大事な観点が、完全に抜け落ちています。

確かに将来金利は上昇するでしょう。しかし、「いきなり上昇する」のと「緩やかに上昇する」のでは返済への影響は異なります。「いきなり上昇する」にしても、「明日」と「3年後」では、やはり返済への影響は違います。お客様のお金を大切に考えれば考えるほど、「金利が上がる」の一言で済ませられる話ではないのです。

なにせ、この論調は過去からずっといわれてきましたが、下の過去10年間の長期金利の推移を見れば下降基調となっています。これを見れば、「早めに固定にしない方がよかったし、変動金利より先取りして動く長期金利が下がっているのだから、慌てて固定にしないという選択もあり得る。固定に変えさせたら、お客様に損をさせる可能性もあるから、慎重にならなければ。」となるのは必然です。


つまり、未だにこの論調を張っているFPは、長期金利の推移も見ておらず、仮に見ていたとしても、それがどういう意味なのかを理解できないのでしょう。思考停止か、ただの不勉強としかいいようがありません。「変動金利で借入するなら、こまめに金利をウォッチして」とかいっている張本人が、なにも見ていない証明です。

リトマス試験紙のように「わかりやすい」とはいえるので、こういう人逹には近づかないことをお勧めします。「未来は不確定」なのだからこそ、様々な考え方があるということを伝えるのが専門家に求められる姿勢です。「様々な選択肢、情報を提供するのがFP。それを聴いて、どうする、こうするを決めるのはあくまでもお客様」という基本中の基本を備えていないといえ、現状では消費者に対して上から目線で先生面をしたがるFPほど、その傾向があります。

次回はさらに発展させて、「エセ専門家のいう通りに固定に変えてしまった方の対処法」について触れてみます。