変動金利は危険を疑え | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

先月小学館の方に取材を受け、今日発売の月刊誌DIME にて住宅ローンについて私のコメントが掲載されています(声を掛けていただいた編集の皆さんありがとうございました)。内容としては、「住宅ローン金利は固定か?変動か?」といった感じになっていて、私は主に変動金利について解説をしています。誌面には「どちらが○でどちらが×」ではないということを書いていただいているのですが、まぁ、私が変動金利を推しているというように解釈される方もいるでしょう。そう思われるのも受け入れた上で仕事を受けていますが、一応ここで補足(言い訳)をしておきます。


私は常々いっていますが、「変動で借りるべきだ!」とは思っていません。借りたい方は借りればいいし、借りたくなければ借りなければいいでしょう。ただし変動金利は危険です!」を繰り返すだけのFPの意見は鵜呑みにしない方がいいということは声を大にしていいます。例えば、今回の特集では私と高田晶子さんというFPの方が登場し、高田さんは固定金利を推奨している感じになりますが、高田さんは5年前にこんな記事を発表しています。

2006122日 住宅ローン金利5%が来る? 過去の金利推移
2006128日 備えあれば憂いなし!住宅ローン金利5%が来る!?(続編)


この記事の文章自体は西田さんという方が書いていますが、自分のコラムでそれを採用するということは当然高田さんの言葉でもあります。で、5年後住宅ローン金利は5%になる掲載してから5年経って、結果はどうなのでしょうか?


結果は誰もがご承知の通りです。都市銀行の変動金利の店頭金利0.1%しか上がっていません(2.375%→2.625%→2.875%→2.675%→2.475%)。5%の半分です。一番高かった時期(2007年3月~2008年11月頃)でも2006年当時より0.5%しか上昇していません。こういうことをスルーするのってどうなんでしょうね。ちなみに、書き手の西田さんは当時、長期固定ローンしか扱っていないSBIの社員でした(私も当時彼と会ったことがあります)。完全なるポジショントークだったということです。はたして、ああいう記事がFPとして公平中立といえるのか私には相当な疑問です。ですから、高田さんご本人はもちろん、一般の皆さんもメディアも、まずは「あの投稿の検証をするべきではないでしょうか?」ということが伝えたい訳です。そして、5年経った今5%ではないのですから、せめて、


・仮に数年後5%になったとしても、今5%になるのより金利の影響は小さくなる(残高が減っているため)。


・数年後5%になったとしてもそれまでの返済の仕方によって残高は異なってくるので、金利上昇の影響は画一的なものではなく人それぞれ異なる。


といった程度のことは認識しておいて損はないと思います。128日の記事の後半 には、

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  不動産会社、銀行員、ファイナンシャルプランナーなど将来の金利を断言して、

  あなたにアドバイスする人間は疑ってかかって間違いないでしょう。(私もそうしています。)

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とありますが、自分達で将来の金利を断言したアドバイスをし、しかも全く結果が見当違いでした。また、高田さんは2006年の著書で「本格的な金利上昇が叫ばれる時期に『金利が高いから固定金利はもったいない』はいずれにしてもナンセンスです」といっていますが、一度や二度の0.25%程度の利上げを「上がる」だけで「本格的な利上げ」と判断し、「下がる可能性(金利が上がればその後下がる可能性は上がる)」や「上がり方」を無視するのはナンセンスだったといえないのでしょうか。


確かに未来は不確定です。その通りです。今は低金利ですから、極論ですが「上がる」ことしかありません。しかし、その「上がり方」によって住宅ローン返済は変化するということを借り手の皆さんは知っておいてください(DIMEの記事(P78)参照)。そこを端折ってしまうのは雑な議論なのです。何年か後に金利が上がったときにはこういうFP達は大騒ぎするでしょうが、「何年か後」なら今(以前)から借り入れの方は残高が減っているので、直近で借り入れの方とは影響度合いが違います。「プロ」を名乗る人間がそこを欠落して騒ぐのは、むしろおかしいといえます。


私は、「変動金利は危険」しかいわない人達の理屈や姿勢が同業者として理解できません。例えば今回のDIMEの誌面でも、「変動金利は未払い利息が危険だ」というコメントの隣に「ボーナス払いは止めておけ」というアドバイスがあります(P79)。これって普通に考えたらおかしくありませんか? ボーナスが期待できない世の中って景気がよくなっているとは思えません。そして、未払い利息は金利が急上昇すると発生します。つまり、

ボーナスが期待できるような好景気にはならないけれど、変動金利は急上昇して下がらない


ということ。その並びで「金利が上がっても給料は上がるとは限らない」「景気が上向きになったときに自分の給料が上がるとは限らない」とありますが、世間の皆さんの給料が上がらないのに景気は上向きになるのでしょうか?個別の事情なんかいい出したらキリがない訳で、バブルのときだって倒産企業は0にはなりません。つまり、結局は「低い可能性に過剰反応」し、妥当性は乏しくなっている訳です。


また、変動金利の基になるのは日銀の金融政策ですから、彼女の理屈は「日銀はボーナスが出ないような景気(企業の業績がいま一つで個人の収入増加が見込めない)なのに、金利をガンガン上げていく」といっているようなもの。日銀の役割や存在を否定している訳です。でも、結局、給料が増えなければ景気は悪くなって金利はまた下がるとも考えられます。もし、多くの方の給料が増えないのに金利が急上昇したら変動、固定関係なく、もっといえば持ち家、賃貸も関係なく世の中大混乱、暴動が起きてもおかしくない状態です。「おぉー、固定でよかった~\(^o^)/」なんてことで済むと思ったら大間違い。それでも人に受け入れて欲しいなら、それなりの根拠を示すべきではないでしょうか。それを「未来は不確定」で済ますなら「なんでもアリ」で、まともな議論の対象外です。未来は不確定なら他の可能性もあるはずで、一つの事象(事例)だけで解決することなどあり得ません。

バブル絶頂期(1980年代後半、BOOWY解散後、布袋さんが吉川晃司とCOMPLEXを結成し活動していた頃 )に未払い利息が出るような金利上昇があったのは事実です。その頃、住宅ローンを借りる場合は、「公庫→年金→銀行(昔は年金融資というものがありました)」という順番で資金調達をしていました。つまり、銀行で借り入れる人は少ないですし、借りても今のような大きな額を借りてもいません。ですから、一般の方への影響は限定的でした。「未払い利息が出るような金利上昇はあったんですよー」とは毎度話してくれますが、「その頃変動金利で借りていた人は少ないですし、借りていても今のような借入額ではなかったですし、結局その後バブルは崩壊して金利下がっちゃいましたけどね」とは絶対に口から出ません。完全に発言が偏っています。


変動金利の商品特徴を正しく理解していれば、年明けの今でも「2011年中に変動金利の金利上昇はあまりない」と判断できます。少なくとも近い将来は未払い利息も気にする必要はありません。「未払い利息」は顧客に伝えなければいけない重要事項とはいえ、これだけFPが「狼少年」のように「未払い利息が出るから危険」だけを連呼して「未払い利息が出ないこともある」とは一切伝えないのだから、一般の方が「未払い利息は出るものだ」と誤解をしてもおかしくありません。FPがこれだけ不安を煽っているから「金利動向にビクビクしたくないです」(P79)なんてコメントが掲載される訳です。多くの変動金利型住宅ローンは未払い利息が出るしくみになっていることは間違いありませんが、未払い利息は間違いなく出るというものではありません変動金利のネガティブキャンペーンに固執していないで、他に伝えるべきことを伝えたらどうでしょうか。「他に伝えるべきこと」がなにかわからないのであれば仕方がありませんが。


FPの多くは「総返済額」や「金利」に着目しますが、それらは断片的な判断であり本質に踏み込んでいません。「利息」の成り立ちを理解する必要があります。返済額に着目しても利息や残高にはたどり着きませんが、利息に着目すれば以下のような計算をするので金利も残高も返済額も把握でき、「残高が減少すれば金利上昇の影響が小さくなる」という点まで理解できます。 遠い将来の金利も大切ですが、明日払う「利息」も大切です。そして、金利は上がったり下がったりしますが残高は下がる一方です。


■1回目の返済

利息 = 借入額 × 金利(月利)

元金充当額 = 返済額 - 利息

1回目返済後の残高 = 借入額 - 1回目の元金充当額


■2回目の返済

利息 = 1回目返済後の残高 × 金利(月利)

元金充当額 = 2回目の利息 - 返済額

2回目返済後の残高 = 1回目返済後の残高 - 2回目の元金充当額 

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また、「(変動金利で)返済額が上昇するなら支払いが困難になる心配があるなら、今低金利の長期固定を選び、安全に返済する…」という記載もありますが(P79)、今、変動金利よりも高い長期固定を選んだら最初から返済額が上昇します。危険な状態に最初からなります。それのどこが安全なのでしょうか?高田さんのいう低金利とは「過去との比較」ですが、過去の金利は選びようがないのですから比較するべきは「今選べる金利」です。当然、今現在は長期固定は変動金利に比べ「高金利」です。


今まで私がこのブログで「変動金利は危険です」というFPはじめ、専門家(?)のおかしな理屈について書いた記事は以下の通りです(上から新しい日付順)。


政治家にも住宅ローンを語らせるのを止めさせよう
日銀の金融政策
変動金利は現状維持
FP評論 : 森永卓郎氏に住宅ローンの話をさせるのは止めさせよう!
FP評論 : 著名じゃないFPも適当、日経はいつも適当

「変動金利は危険です」、みんなで叫ばば怖くない

日銀金融政策決定会合
変動金利にダメ出しして、10年固定を勧めるのは…
ありがとうございます
落とし穴の落とし穴のつづき
落とし穴の落とし穴
がんばれ、日経新聞
自爆型住宅ローン
予想外
未払利息と支払利息
基礎の大切さ
長期固定こそギャンブル
視点を変える
笑えない話
変動金利
前回の回答
論理的思考


こんなにあります。こんなに書いていれば私が「変動信者」と思われても仕方がないですね(笑)。要は、以前からこれだけ変動金利については正しくない情報が氾濫しているということなのです。例えば、上記の「笑えない話 」という投稿で最後に出てくる週刊誌の記事は、「週刊朝日・2003年7月25日号」です。あと1年半で10年経ちます。借り換えは当時がラストチャンスではなかったということは明白です(あの記事に登場する二人のFPについても、後日書かせてもらいたいと思います)。


私はこういう事態がFPとして責任ある正しい仕事の仕方だとは思っていません。繰り返しいっておきますが、変動で借りても、固定で借りても結局は借りたい人の気持ちが最優先です。未来は不確定なのですから、「未来はどうなるか」「今なにを選択するか」を決めるのは借主本人でしかありません。そして、「変動金利は危険です」しか口から出ない人達の発言が正しかったとはいえないことも事実として存在する今、彼(彼女)達のアドバイスは変動金利よりも危険かも知れないのです。