落とし穴の落とし穴のつづき | 池上秀司のブログ

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ファイナンシャルプランニングに関することを中心に、好き勝手に書きます。

前回のつづきです。

■落とし穴・その6 ~8
たとえば、元の返済額が10万円で、再計算した返済額が14万円だったとしても、新返済額は元の1.25倍の12万5000円となる。返済額に上限を設けたとしても、銀行が利息を負けてくれるわけではないので、返済額のうち元金充当額が減るだけだ。元金充当額が減ると、ローン残高減少のスピードは落ちる。
 普通の人が理解するにはとても複雑な仕組みであるが、ある銀行のローン担当者は「お客様は返済額に上限があることを喜んでくれるのだから、よいサービスだ」と言う。利用者が前述の仕組みの説明を受け理解したうえで、喜んでいるかどうかは私には分からない。

⇒ここでの落とし穴は、10万円の返済額が14万円になるとサラッと書いてある点。10万円の返済額が14万円というのは、「5年で景気がとんでもなく上向く」と言っているのと同じです。日経平均なんか軽く2万円を超えた水準になるでしょう。明るい未来ですね(笑)しかし、その根拠は示されていませんし、その4同様、それを失業率が過去最大となり、消費者物価指数も下落している今の日本で前提とするのが妥当か否かを決めるのは、借主本人です。

また、複雑なのは「ローンの計算」や「変動金利のしくみ」だと思っているのも落とし穴です。複雑(重要)なのは、「将来の景気(金利)予測」です。「将来の景気はこんな感じになる(こうはならないだろう)」と考え、「だから、こういう返済にしよう」という方針でローンを考えるべきです(専門家を名乗るなら)。ですから、将来の景気(金利)予測は変動金利で借り入れする人だけでなく、誰にとっても必要です。それを理解していないので、これも落とし穴です。低金利の今から考えれば、金利が上がるのは当たり前で、問題の本質は「上がり方」。急激に上がるのか、緩やかに上昇するのかといった具合です。それをキチンと考えないから、安易に「直近での極端な金利急上昇」を前提とし、その可能性、妥当性を一切無視して長期固定金利が勧められてしまうのです。

そして、この前提条件を鵜呑みにして長期固定金利を選択し、10万円の返済が14万円になるような状況にならなかった場合、借主は単純に余計な利息を払います。そういう可能性もあるはずなのに、なぜその可能性を一切排除するのでしょうか?「そうならないこともある」ということに触れていないのも落とし穴。そこまで伝えた上で、「それでもいいか悪いか」を判断するのは借主本人です。ちなみに、ローンの計算自体は複雑でも難しくもなく、私の本を理解すればエクセルで変動金利の試算表も作成可能です。

余談ですが、複雑だからで終わりにしてしまっていますが、複雑なしくみを理解させるのがメディアやFPの仕事ではないでしょうか?なぜ、複雑な仕組みを理解させようとしないのでしょうか?理解されては困るのでしょうか?そもそも「複雑な部分」を間違えていることに気付かず短絡的に「変動はダメ」という答えありきで記事が作られています。公平中立でもなんでもありません。私からすれば、こういった解説にありがちな「返済額の上昇がないから長期固定はいいローン」という指南を喜ぶ人がいたとして、長期固定金利を選択することのリスクを理解しているとは思えませんし、こういった指南でそのリスクをキチンと解説しているのを見たことがありません。また、変動金利に返済額の上限があることが気に入らないなら、青天井で返済額が上昇する方がいいのでしょうか?それを喜ぶ人がいるのか、私には分かりません。

■落とし穴・その9~10
ローンの最終返済月に残高が残る可能性があること。

⇒確かにその可能性はあります。しかし、未払い利息が発生すると、短期的には顧客側の一方的なリスクと考えられますが、その状態が長引くことで、金融機関にリスクが及びます。なぜならば、未払利息とは受け取る側(銀行)から考えれば、「今すぐ受け取るべき利息(儲け)がずっと先の最終返済月まで受け取れない」、つまり未収金です。未収金が発生すれば銀行経営にとってもマイナスで、そうすれば国内景気にも悪影響が出るのではないでしょうか?結果、変動金利の金利は下がるとも考えられ、高金利が一方的に永遠に続くかどうかは分かりません。こういった貸す側の視点が欠如しているのも落とし穴ですし、低金利は続かないという割に、高金利は続くと考えているというのも落とし穴です。

以上、ざっと10個の落とし穴がありました。このようにこういった記事は明らかに偏っていますから注意が必要です。だからといって、私は変動金利の住宅ローンを借りなさいといっている訳ではありません。この記事に不足している点を書いているだけですから、皆さんはそれらも踏まえ広い視野で考え、自分なりに景気予測をし、具体的な数値を見た上で、繰上返済の計画なども併せて考えて、自由に判断すればいいと思っています。

それにしても、この記事は単なる個人の主観の域を超えておらず、住宅ローンの金利選択に関する原理原則ではありません。こんな記事を堂々と載せているのは、日経は根拠なく「日本は急激に景気回復する」と言っているのと同じです。経済紙としてよく恥ずかしくないなと思います。先日は変動金利の商品特徴を間違えていましたし、日経は変動金利で借りられてはマズい何かがあるのでしょうか?住宅ローンに関しては致命的で、メディアの本来あるべき姿とは到底思えません。ホント日経新聞頑張ってください。