秘密の花園 | お役に立ちません。

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本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

秘密の花園/ケイト・メイバリー
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孤児になった少女メアリーは、引き取られた先のお屋敷で、閉じられた庭を見つける。
枯れて眠り続ける庭を、使用人の弟と、お屋敷の息子と共に
甦らせようとする。

アグニシュカ・ホラント監督 秘密の花園。

あの有名な小説の実写映画。
イギリスの美しい自然、上流階級の生活の中で、
こどもの成長が描かれます。

なんか昔から大好きな作品。
映像の美しさもだけど、なにより、愛に飢えているふたりのこどもの葛藤が好きなのかも。

お屋敷の息子コリンの歪みっぷりがまた、もの凄くへヴィなんだもんさ。
行き過ぎた愛情のために、一度も外に出たことも、自分の足で歩いたこともなく、
お屋敷の地下、ベッドの上で10歳まで成長した少年。
ひ弱でワガママで、でも、痛いほど純粋な部分も持っている。

軟禁というか、監禁というか。
父親は殆ど顔を見せず、世話係も、常にマスクと手袋で、痛々しく扱う。
この病的なスレスレ感がもうね。
あと一歩で、危険な世界へ行ってしまう!みたいな。
健康な成長を阻害されてる不自然さと、
普通の生活を知らないために、好きなこを引き止めるために高飛車に話し、
ヒステリーを起こすしかない、感情表現の下手さと。

それが、10歳の生っ白い少年なもんだから、危険さ割り増し。
あと一歩、踏み外したら危ない!みたいな。
激しく歪んでるけど、あと一歩で踏みとどまってる感が強烈な魅力。

それが、メアリーという、こちらも感情機能不全の少女の乱入によって、
少しずつまともな方向に向かい始め、
すっかり、表情も柔らかく、そのへんのこどもと変わらないようになってからもどきどき。

メアリーに淡い恋をしてることに少し気付く場面。
メアリーと、もうひとりの友達、使用人の弟ディコンを写真に撮ってあげるんだけど、
「見詰め合って!」
って自分で指示出したくせに、ふたりがいつまでも視線を離さないものだから、
段々危機感が募ってきて、
「離れろ!早く!」
と叫ぶシーン。

コリンはメアリーのおかげで、屋敷の外の世界を知って、
自分で立ったり歩いたりする力を取り戻したと言っても過言ではない。
恩人であり、精神的に依存してもいる、そして淡い恋の相手でもあるからこその危機感。
それを、鑑賞者は分かるから、なおヒヤヒヤ。
コリンの歪みっぷりを前半とっくりと見せられたからね。

そしてラスト。
妻を失った悲しみから10年間立ち直れず、半年は旅に出たまま戻らない父親を呼び戻すため、
こどもたちは”魔法”を使う。
焚き火をして、その周りを呪文を唱えながらめぐるだけの、もの。
でも、コリンの必死さが胸を打つ。
魔法だなんて、不確かで実のないものに頼ることしか知らないのがあまりにも哀れで。
必死になればなるほど痛々しい。

と、全編ヒリヒリ感を根底に流しているけど、
結局はハッピーエンドに落ち着くから、あー、良かった、ほっとした。
となるし、「いい話だったなー」とかなるけども、
コリンの強烈な歪みっぷりて、現代人の心の問題作品の、歪みっぷりにも通じるんだよね。
大分古い、児童文学作品なのに、それがより強烈だから、
昔の作品てあなどれねーなー、残る作品って、キワいもん多いよなーとか思ってしまった。

そんな、前面には出ないけれども、薄氷を踏むようなヒヤっと感を味わえるのも
監督の手腕ではないかと。
要所要所、コリンの精神性を案じさせるシーンが上手いんだよね。
さっきの、写真のシーンだって、「離れろ!」と叫び続けるのに、ふたりはけして目を離さない。
そして、鑑賞者も落ち着かなくなってくるまで引っ張って、場面転換。
結局、ふたりが視線を離しました、てシーンはナシ。
このスッキリしない余韻。

そういう心理描写が、美しい庭園や、寂しいヒースの丘に囲まれた、古めかしいお屋敷で繰り広げられる。
綺麗だけど物悲しい雰囲気がまた、好き。