- 家守綺譚/梨木 香歩
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梨木香歩 家守綺譚
綿貫征四郎の周りには、人で無いものが連れ群れる。
様々な花の精、犬、人であることを辞めた親友。
日記形式で、あの世とこの世の淡い境目の日常が綴られる。
うんうん。
読み始めは、イマイチだなー、と思ってった。
せっかく、明治あたりの、雰囲気あるお話なのに、文字の選び方にセンスがないな、と。
植物名の表記なんだけどもね。
漢字つかいと、カナ遣いが入り乱れて、せめて統一したらもっと雰囲気出るのにと思ってた。
でも、読みすすめるうちにそんな些細なことはどうでもよくなった。
独特のユーモアと、境界の曖昧さが、すごくいい。
身も蓋もなく言っちゃえば、人間と妖怪が仲良く暮らしてしまう話、なんだけども、
自然=人間以外と、人間が、なんのへだてもなく、
お互いの存在を当たり前のものと受け入れて暮らす日常が心地いい。
舞台の古い時代や、風俗の曖昧さが、なんだかそれを当然のことのように思わせるし、
耳なじみの無い職業(長虫屋とか)、本当にありそうな気がしてしまう。
系統で言えば、怖くない夢十夜、百鬼夜行抄というか。
主人公の性格が絶妙なんだと思う。
貧乏な物書きで、なんでも受け入れる性質。
人であることにおごらず、出来た性格のわんこに嫉妬したり、花に惚れられたり。
どんな存在も、その場にあることを受け入れつつ、1本筋が通っている。
この柔らかいユーモアがすごく心地よくて、どんどんページを繰ってしまう。
周りを彩るキャラクターや、現象も、不可思議で綺麗。
とくにわんこのゴローが好きだなぁ。
わんこなのに、河童に好かれ、妖怪だか、自然の精だかに非常に頼りにされている。
さすがに喋りはしないけど、主人公の面倒も立派に見てくれるし。
主人公の親友もまあまあ好き。
ってゆーか、いいキャラクターなんだけども、ちょっとラフっていうか、
漫画にありそうなキャラ設定が、雰囲気重視のわたしとしては、「むう?」な感じ。
コミカライズされたら、ナンバーワン好きなキャラになりそうだけど。
少女漫画にいそうなキャラなんだよねぇ。
カッコよくて、人をよくからかう、余裕のある人物で。
古い家に住む物書きのところに妖怪が、
エネルギッシュな和尚と仲が良くて、なんていうと、まんま百鬼夜行抄なんだけど、
大きな違いは、主人公は完全に普通のひとで、妖怪というより、自然の精がたくさん出てくること。
この世とあの世の境がとても曖昧で、それらは忌避すべきものではなく、
心ある人にとっては、人間の隣に普通にあるものであったこと。
そして、はっきりとは描かれないけど、文明に進歩により、それが無いものとして追いやられてること。
文明批判とまではいかないけど、「便利な生活の裏に何か忘れていませんか?」という。
その忘れ去られていくものとして、花の精、河童、カワウソ、湖のお姫さま、が出てくる。
水木しげる的な妖怪ではなく、作者オリジナルの不思議な存在。
最終話で出てくる、その主だったひとびとと思われる存在も、ただ優しい。
それもまた、読んでいて心地いい。
様々なシーンの不思議さも、綺麗。
特に、親友が主人公を訪れてくる方法が好き。
掛け軸の中から来るんだよね、舟に乗って。
絵が生きていて、というか、あの世と繋がっていて、鳥も湖も存在しているという。
無言で釣りをしているカワウソとか、積極的に話さないけど、行動する子鬼とか。
馴染むでもなく、忌避するでもなく、受け入れられている様子が好き。
長虫屋や、お守り屋の妙な雰囲気とかね。
願わくば、もう少し、詩的な文章だとさらに世界の美しさが増すんだけどなぁ。
漱石や百閒を目指せとはいいません。
川上弘美くらいの、美しい文章だったら、更に雰囲気が増していいのに。
いや、まあ、結構研究した、時代の出ている文章ではあるんだけど。
日記形式、一人称だから、地の文もこれでいいんだろうけど、
個人的好みとして、時代設定を探究した、美しい文章で描き出して欲しい。
続編て出ないのかなぁ?読みたいなぁ。
おまけ。
ハードカバーの装丁がとっても粋です。
一見地味なんだけども、開くと、内側にとても洒落た絵が載っている。
江戸の着物だね。
表紙も良く良く見ると、縫い目のある、着物として、ちゃんと凝ってるんだよね。
こういうの好きだ。

