旌旗流転・妖雲群行 | お役に立ちません。

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旌旗流転・妖雲群行 ―アルスラーン戦記(9)(10) カッパ・ノベルス/田中 芳樹
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国王としての執務にいそしむアルスラーン。
忙しい毎日に、隣国シンドゥらから援軍の要請が来た。
また、神殿に派遣されたファランギースらは、新たな怪事に巻き込まれる。

もうこのへんでかなり嫌になってしまった。
はじめは、偽史ふうのダイナミックな物語展開が面白かったし、
”不幸な王子が、優秀な仲間と共に王位奪還を目指す”っていう本筋がとても好きだった。
でも、その本筋は解決してしまって、今や、王となったアルスラーンが慌しく国を治める日々。
その時点で、物語の先を知りたい気持ちが半減してしまっているのに、
内容のレベルも下がってきている…
なんか、いやいやながら書いているような部分が目について。

章題の”怪物たちの夏”とかね。
敵の怪物が何故かサウナで密談していて、
「おまえ役所に休暇届だしとけよ。集会行くんだからな」(意訳)
ってとこだけでもいきなりギャグなのに、
それが都合よく王の耳に入るとか。
無理矢理感を越して、悪ふざけにしか思えないんだけど…

悪役の、馬鹿な行動もちょっとどうかと。
ナルサスや、味方側を引き立たせるためであっても、馬鹿すぎる人は気持ちが冷める。
金仮面のひとだけどね…主に。

偽史ものとして読んでいたときは、メインキャラクターの典型っぷりが気にならなかった。
でも、今やきちんとした官職について、正当な施政者として立ち働くキャラクターに
初期ほどの魅力は感じられない。
恵まれない環境を打破しようと頑張るからこそ、読んでいて楽しいんであって、
手に入れるべきものを大体手に入れた状況って物語としてつまらないんだよね…
良くも悪くも全く性格も関係性も変わらないところもマイナス。
ナルサスとアルフリードの凍結した関係は一体いつまでこのままなのか。とか。
マンネリの良さもあるかもだけど、記号的魅力(天才、美女、とか言葉で片付けられる特徴)
以外が乏しいキャラだから、さすがに飽きてしまう。
もっと生き生きとした、人間らしい中身が感じられればいいんだけど。

メイン以外のキャラに焦点が当てられて、
アーサー王だけでなく円卓騎士ひとりひとりの物語を読んでいるような感じは嫌いではない。
でも、そんなもの外伝でやればいいのに。
ただでさえ存在感の薄い主人公なのに、他キャラの話が延々続くから、
全体として散漫な印象を受けてしまう。
まぁ、それら各エピソードがガッチリ繋がっていくからいいっちゃいいんだけど。
上に書いたように、それぞれのキャラクターにもっと生き生きとした魅力があるんなら、
そういう脇役メインの話も楽しめるんだろうけど。

既に忘れかけていた、タハミーネの実子は誰なのか、ってくだりは面白いと思う。
つまり、新キャラレイラ。
この人は嫌いじゃない。

実力があるし、基本的にそのへんの作家より面白いから読み続けてしまうんだけど、
だからこそ、物語の鮮度は守って欲しいなぁ、と思う。
だらだら続けずに、きっちり納めるべきときに納めるのもセンスだと思うんだけど。
まぁ、こういうライトノベルは、少ないページ数の本をたくさん出していくものだから仕方ないのかなぁ。
とはいえ、20年近く続いている物語ってちょっとどうなの。