バスジャック | お役に立ちません。

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本・漫画・映画のレビューブログ。
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映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

バスジャック/三崎 亜記
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バスジャック。
それは、現在大ブームを起こしており、その質が争われている。
表題作他、日常の顔をした奇妙な短編集。

もしも、”となり町戦争”があんなにヒットしなかったら、
こういうSF短編集を量産する中堅作家だったんだろうな、と思わせる作品。
SF的雰囲気を漂わせているが、全体的な印象としては”世にも奇妙な物語”。
不条理な事実に翻弄される人間の、恐怖だったり、悲しみだったりが色鮮やかに浮かび上がる。
ガジェットとしてはSF風味の設定が好きなんだろうけど、
物語の芯的には、人間の感情が描きたいんだろうな、って思う。

物語としては、表題作が抜群に面白い。
読み始めたときには、普通のバスジャックの話かと思ったら、
なんと、バスジャックが一大ムーブメントを起こしていて、
その思想や行動などがネットで投票され、評価され、争われているという奇妙な世界。
ワンアイディアから入るところは、藤子不二雄SFのような感じなんだけども、
奇妙さの説明を特に大きく取り上げるわけでもなく、
単純に日常の中に淡々と描くところが、
意思疎通が図れない感じで、非常な違和感を持たせる。
登場人物もみな一生懸命なんだけども、
読者には理解できない熱情に突き動かされており、
文章は読めるんだけど、登場人物の心情にまったく共感出来ない
ディスコミニュケーション(?)な部分が非常にSF。

だけども、バスジャックの仕組みや、
犯人がどのように犯行を行うか、最後に隠された謎など、
ミステリ仕立てというか、ストーリテリングが巧みで楽しく読みすすめられる。
一見平凡な話に見せて、SF的素材や、シュールな設定を普通に読ませてしまうところが、
このひとの特異な才能だと思う。

あとはラストの話が切なくて好きだったな。
テーマとしては”失われた町”に通じるものがある。
一見奇妙な物事に隠された、悲しく、優しい真実。
すごく心に残る。

淡々とした描き方や、インテリふうなところに、
叙情的テーマが好きだけども、ものすごい理系脳なイメージを持つ。
森博嗣みたいな。