空中ブランコ | お役に立ちません。

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本・漫画・映画のレビューブログ。
本は月に10冊ほど、漫画は随時、
映画はWOWOWとTSUTAYAのお気持ち次第(笑)

空中ブランコ/奥田 英朗
¥1,300
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皆さん、本年は大変お世話になりました。
来年もどうぞよろしくお願いします。

スターの座から転落した空中ブランコ乗り、
尖った物が端から怖いヤクザ、
おでぶでわがまま、やりたい放題精神科医の珍治療。

エンタ本の決定版。
とかいいたくなる完成度。
キャラ、文体、構成、話、どれも読みやすく、楽しく、なんとなく感じるものがある。

基本的には、主人公、伊良部のあほさ加減に笑う話なんだけど、
患者のデフォルメされているけど、誰にでも起こりうる悩みに共感し、
それが治療されていく過程で、自分の悩みもこんなものなのかも、
もうちょっと軽く明るく、肩の力抜いて生きてみてもいいのかも、と思わせる
ヒューマンドラマなのがミソ。

尖った物が怖いヤクザなら、選んだ仕事が実は向いていないという悩みだし、
空中ブランコできなくなったブランコ乗りなら、
自分が王様だった場に、新人が入ってきて、うまく関係を築けないという悩み。
刃物が怖いヤクザとか、キャラとして、分かりやすく面白いものを提示するも、
その内容は誰にでも共感できるもの、という、まさに万人向け、万人受けなのが
ひそかに玄人技。

そして何より、伊良部のキャラクターが一番のワザモノ。
大病院の息子で、甘やかされたこどもで、金にあかせて興味が向いたものをなんでもやってしまう、
注射を打っているところを見るのが好きで、患者をともだち扱い。
ただのあほ。
ではないとこが凄い。
観察眼が鋭いし、治療法の提案も的確(実行に難あり)、
自分の立ち位置を心得ていて、親の七光りの利かせどころも知っているという。
”ひょっとして、患者と同じ立場に入っていくことで、より深く患者を理解し、
また、患者に自分の状況を客観視させているのでは?”
という気もする。
というか、そういう治療法なんだろう。
その過程で、自分も本気に楽しんでしまうだけで。
どんな患者にも興味シンシンだもんね。

また、伊良部の、あほらしい体当たり実体験を見ているうち、患者も冷静になるという。
ある種名医でいいんじゃないか(笑)

名脇役、看護婦のマユミちゃんも大好き。
セクシー担当なんだけど、無愛想で、趣味がおっとこまえで。
奥田さんはキャラ作りのツボを心得ているよね!
ボディコンナース服、いつも雑誌を読んでいるか、注射を打っているかなのに、
愛読紙はロッキング・オンで、いいものはいいと認める素直なところもあり。
脇役だけど、えらい存在感あるし。

ドラマから見ちゃったせいか、釈由美子がまた、ハマリ役で、
そのイメージ離れないし。

このシリーズは大好きだぁ。