ねじまき鳥クロニクル(第1部)泥棒かささぎ編 | お役に立ちません。

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村上 春樹
ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編

こんなに優しい男はいないと思った。

だけど、ひとりへの優しさは、他の人への裏切りだ。


猫がいなくなることから始まる一人の男とたくさんの女の物語。


淡々とした描写、

静かに、現実から意識の世界へと入り込み混ざり合っていく物語世界、

頻繁に差し込まれる気の利いた例えと詩のような一節。


言葉自体も、物語の深さも、読んでいてものすごく気持ちいいです。

レビューとしてどこから切り込んで行こうか、

入り口があんまりあるから迷うんだけど、

わたしが一番印象に残ったのはキャラクターだからキャラクターについて書こう。


主人公、岡田亨のやさしさについて。


妻がヒステリーを起こしても、逆ギレすることもなく

静かに受け入れる男。

こんな優しい男いるのかなあ、と羨ましくなった。


妻について、

不登校の女子高生について、

結婚を控えて不安定になっている女について。


目の前にいる人を否定せず、

やんわり受けとめていける優しさ。


いっつも、わたしが欲しいなあ、と思っているやさしさ。


でも、目の前の人ひとりひとりに優しくしていけるやさしさは、

同時に他の誰かへの裏切りになる。


例えば妻。

岡田亨が他の女の子に優しくしているとき、

それは純粋に慰めからであっても、妻への裏切りになりうる。

だってこころの中は見えないし、

そうしたら他者にとっては行為だけしか意味を持たないし、

行為と言うのは人それぞれに意味づけされるものだから。


もしも特定の人とただひとつの愛情を築きたいのなら、

やさしさには順序をつけて、不平等をたっぷり作らなくちゃいけない。


ただ、こうなりたいなあ、と思っていただけのわたしには盲点だったので、

考え込む。


岡田亨が不登校の女子高生にそれを指摘されて責められるたび、

悩む。


確かにおかしいんだけど、でもすごくいけない、とも思えなくて。

簡単に纏めれば上記なだけのことだけど、

本当はその裏にもっとたくさんの意味が潜んでいるのかも。


物語が素晴らしすぎてあとは纏められません。


「なんでもそろっている場所なんてどこにもない」


っていう一節がとっても気に入った、とだけ。