【あいらぶゆー】徳川慶喜×沖田総司編



───翌日。


秋斉さんに連れられて、二条城近辺の敷地内へと辿り着いた時にはもう、慶喜さんは馬に跨りながら弓を構え、沖田さんは馬を愛撫しながら試走していた。


「うわぁ…」

「お二人のあない真剣な顔、久しぶりに見たわ」


お二人は、鎧直垂(よろいひたたれ)という服を身につけていて、裾と袖をくくり、腰には行縢(むかばき)と言われる毛皮のような物を付け、脚に物射沓(ものいぐつ)と言う短い長靴のような物を履き、左に射小手(いごて)をつけ、右手に鞭を取り。


頭には綾藺笠(あやいがさ)を戴いていて、お二人を乗せている馬にも、鏑矢(かぶらや)用の飾り付けが成されている。


「すごい…」

「見るのも初めてか?」

「はい、あの…こうやって間近で見るのは初めてです…」


予定の時刻がやって来たのか、それぞれが定位置に馬を歩かせた後。何やら儀式めいたものが始まった。


「あれは、何をしているのですか?」

「所謂、何事もなく終える為の神拝どす。お二人の前におるんは日記役ゆうて、これから始めることを告げる役割を担っとる」


秋斉さんの説明だと、流鏑馬を始める前に、この日記役と言われる人が「流鏑馬を始めませ」と、宣し。一番目の射手がこれを受けて立ち帰り、他の射手に伝え一同揃って乗馬し、馬上元という場所へと行って扇形に並ぶらしい。


今回は、二人だけということで共に馬上元へ向かう中。


太刀を負って刀を差し、鏑矢を五節差した箙(えびら)と言われる籠のような物を負い、弓並びに鏑矢一筋を左手に持つ彼らの姿は、戦国武将の様にとても勇ましく見えた。


その後、神拝を済ませ馬上へ行って一通り見て回った後、射手は馬場末に集まって並び、馬を立ててそれぞれ所定の位置につく。


「いよいよ、始まるようやね」


そんな秋斉さんの言葉に胸をドキドキと高鳴らせていると、沖田さんがまず馬を進めて立ち出で、祝詞を奏し、終わって中啓(扇)を出して扇捌きを成した。


(…っ……)


そして、後ろ髪を靡かせながらそのまま馬を馳せ出し、中啓を前方に高く投げ揚げた瞬間、周りから「インヨーイ」と、言う短く太い声が掛けられ、一の的が射られた。

「まずは、一投目…」


秋斉さんが呟くと同時に、沖田さんは矢を添えて弓を引きながら二の的、三の的と次々と射って行く。


二の的手前で「インヨーイインヨーイ」と甲声でやや長く掛けられ、三の的手前では「インヨーイインヨーイインヨーーイ」と甲高く掛けられていた。


「まずまず…と、言ったところか」

「凄いです!馬の疾走にも怯まずに弓を射って行くなんて!」


秋斉さんから冷やかな視線を受けながらも、私は大興奮したまま馬上元へと戻る沖田さんを見やると、乗馬する慶喜さんと入れ替わり慶喜さんの番を迎える。


同じように少しずつ速まる馬の足。


まず、一の的に射て矢番した後、ただちに右手に鞭を取り、高く差し上げ静かにそれを下ろして取りかけ、二の的を射抜き、三の的の前にも鞭を上げた。


「揚鞭しながらとは…」

「揚鞭?」

「今、目にした通り。鞭を振り上げて馬をより速く走らせる、上手の者が熟す非常に難しい技のことや」

「……っ…」


先ほどの沖田さんよりも、数段上を行く技術を見せつけた慶喜さんの矢を射る姿は、まるでその道のプロのように格好良く見えて、全ての的を終わらせた慶喜さんは、沖田さんの待つ支度所へゆっくりと馬を歩かせる。


「始まったらあっという間どしたな」

「そう…ですね…」

「しかし、的を射るだけでもえらいことやのに」


(秋斉さんの言う通り。それでも、よりその的の近さを競うだなんて…)


支度所で馬から降りた二人は、馬を愛撫しながら何やら話し込んでいる様子で。


(…勝敗は?)


未だ興奮冷めやらぬ中。

お二人と、的を見定めている方々を交互に見やりながら、私は心の中で祈り続けていた。


あの人が勝ちますように…と。




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↑すごくかっこよかったです!一度、やってみたいって思いました。



幕末志士伝 ~もう一つの艶物語~

(※ヤフー画像より。)