<艶が~る、二次小説>
今回は、慶喜さんの怪談話どす♪一人で眠れなくなったら、慶喜さんに添い寝して貰いたいっ…とか思ってしまう私は痛すぎるぅ今回も、良かったら覗いていってください
【艶百物語】第7話
「あれは十八の夏だった。あるお方から、大奥にまつわる怪を聞いたのだが…」
慶喜さんは、それぞれに語り掛けるようにゆっくりと話し始めた。
「これは江戸城の天守で起こった、とても恐ろしい話なんだ」
「天守で?」
沖田さんの真剣な眼差しが慶喜さんに向けられた瞬間、灯ったままの蝋燭がゆらりと揺れた。
「ああ。大奥で天璋院篤姫(てんしょういんあつひめ)に使えていた、大岡ませ子から語り継がれた話らしくてね」
「大奥って…」
私と翔太くんが同時にそう言うと、周りの視線が一斉にこちらに向けられる。
「俺、そのへんは詳しくなくて…」
「私も…」
またしても、唖然とする彼らの表情を受けながら、翔太くんと顔を見合わせた。
(もっと、歴史を勉強しておけば良かったなぁ…)
慶喜さんは戸惑う私達に、
「長禄元年、太田道灌殿によって江戸城が築城されてね。大奥とは、将軍家の子女や正室、奥女中たちが生活していた場所のことを言うんだ。それと、現徳川幕府・第十四代将軍、家茂様には無いものの、初代将軍・家康公から第十三代将軍・家定公まで側室を設けられている」
と、言って微笑んだ。
私と翔太くんは、なるほど…と、呟き合って大奥が置かれているその意味を理解したことを伝えると、「じゃあ、いよいよ本題に入るよ」と、慶喜さんの真剣な表情を受ける。
(いよいよかぁ…どんな話なんだろう?)
……時は、文政14年の春。
大奥の女中を勤めていた、新参の“千代”という女の子が行方不明になり、最初の内は、引け番か休息でどこかに居るのだろうと誰も気にとめずにいたのだそうだが…
そのうち心配になり、女中総出で探し回ったが見つからず。奥の各部屋、井戸、天井など思い当たる所まで捜したけれど見当たらなかったそうだ。
「そして、行方知れずになってから三日目の夜八ツ(丑の刻)頃のこと。大奥の西北にある天守台の下に警護をする番人が、天守台の上からしわがれた声を耳にした…」
それは、『お千代はここに…お千代はここに……』と、二声した後、何者かがお千代さんの亡骸(なきがら)を投げ下ろしたのだそうだ…。
「その亡骸は突然、無残な形で番人達の前に現れ、急いで天守台を見上げたが、その何者かは姿を消したままでね…鋭い爪のようなもので掻き毟った傷跡が体中にあり、全身血塗られていたそうだ」
「なんて惨(むご)い…」
苦しそうに眉を顰めながら話す慶喜さんの言葉に、沖田さんは伏し目がちに呟いた。
「じゃけんど、何故(なにゆえ)そのお千代ゆう女子が犠牲になったんじゃ?」
不思議そうな顔で龍馬さんが尋ねると、慶喜さんは、ふぅ~と小さな溜息をついてまた続きを話し出す。
「俺も同じように尋ねたのだけどね、原因とやらは誰にも分からぬままだったそうだ」
「ほうか…」
「ただ……」
慶喜さんは、哀しげな龍馬さんの顔を見つめながら、更に眉を顰めた。
「俺は、徳川幕府の抱いた罪悪感みたいなものが生み出した噂話なのではないか…と、思ったんだよね」
「徳川幕府の…罪悪感?」
翔太くんが首を傾げながら口を開くと、慶喜さんは、「お偉いさん方にもいろいろあるみたいだからさ」と、言って苦笑しながら煙管を吹かす。
誰もが妖怪の仕業だと信じて疑わなかったのだが、慶喜さんにこの話をしてくれた方は、幕府と大奥内の混乱が招いた殺人事件なのでは無いか…と、話してくれたのだそうだ。
「あの頃の幕府は庶民から嫌われていたみたいだからね…庶民の幕府に対する不満から生まれた妖怪図なんてのもあって、幕府の人間が行脚する様子を妖怪に見立てて描かれているんだけど、そりゃあもう、見事な妖怪図でね」
「……感心しとる場合か」
半ば楽しそうに話す慶喜さんに、秋斉さんがぽつりと呟いた。
「ははは、話が逸れちゃったけど…だから、やはり人によって殺められた可能性は無きにしも非ずだと、思ったんだよね」
「もしもその通りだとすると、やはり一番恐ろしいのは人間の欲望…ということになるな」
慶喜さんが軽快に言うと、土方さんは更に瞳を細めながら呟く。
(確かに…大奥の女性達って怖そうなイメージがある。いつも、誰かを憎んでいるような。これは、あくまでも私の勝手な想像だけど…)
その後、お千代さんの亡骸は手厚く葬られたそうなのだけれど……慶喜さんの話はこれで終わりではなかった。
「むしろ、これからが恐ろしい…」
そう言って、慶喜さんは険しい顔で話し始める。
「それからだそうだ、大奥内の一角に“開かずの間”というものが出来たのは…」
「開かずの間?」
俊太郎さまの眉が微かに顰められる。
慶喜さんは、一つ頷くと大奥には今もなお、開かずの間というものが存在していて、特に女中さん達から恐れられている部屋のことを話し始めた。
その部屋は、『宇治の間』と言われ、大奥のほぼ中央部に位置し、上段の間が25畳で次の間が16畳の広さを有し、大奥の中でも相当な広さがある部屋らしく、その前を通るとお千代さんの霊が現れると言われるようになり、彼女を目撃した当代の将軍家には必ず凶事が起きると噂されたそうだ。
「お千代の霊を目にした者が言うには、とても哀しそうな顔で俯いていたということだよ…」
「…やはり、何者かに殺られたな」
高杉さんの一言に慶喜さんは、「たぶんね」と、呟き返しまた続きを話し出す。
「その部屋の前でお千代の霊を見た者の中には、しばらくの後、病に倒れて亡くなったり…原因不明の死を迎えたりしてね。特に、そこを通らなければいけない女中達からは、もの凄く恐れられたらしい」
そんな“開かずの間”の噂を知らずにいた、第十二代将軍・徳川家慶も、その部屋の前で彼女の霊を目にすることになり……
彼が、『あの者は誰か…』と、お付きの人に尋ねたその年、同じように原因不明の死を迎えてしまったのだそうだ。
「死人に口無し。結局、お千代は誰に殺められ…誰を恨んで現れたのか分からないままだが、今もその開かずの間は存在している」
「じゃあ、今もお千代さんの霊が?」
沖田さんの問いかけに、慶喜さんは薄らと微笑んで、「ひょっとしたら、出るんじゃないかな」と、不気味に囁いた。
「……っ……」
ぞわぞわと鳥肌が立ち始める。
結局のところ、妖怪の仕業だったのか人の手によるものだったのか、分からないままだったそうなのだが、無念の死を遂げたお千代さんのことを考えると私は胸が痛んだ。
人の想いは、時に狂気染みた色を浮かべ、何かに憑りつかれたかのように人を殺める場合もあると聞いたことがある。
もしも、それが信頼していた人、もしくは愛していた人からの裏切りだったとしたら…その念は、なかなかその場を離れることは出来ないだろう。
「…人との関係を築きあげることは、人間が生きて行くうえで必要不可欠なもの。この話を聞いた時、俺と関わる全ての人との関係を見直すと同時に、俺を必要としてくれる者や、俺が必要としている者との歳月を大切にしなければ…と、思うようになったんだ」
そう言って、また煙管を吹かす慶喜さんの視線は秋斉さんに向けられ、それからすぐに私達に向けられた。
確かに慶喜さんのいうとおりだ。
これまでも、いろいろな怪談を聞いてきてそのどれも怖くて堪らなかったんだけれど…その全てにおいて、再確認させられた気がした。
……生きていることの素晴らしさを。
「時に道に迷うこともあるけれど、誰かが誰かにそんな何かを投げかけ続ける。それが、生きて行くうえで一番大事なんじゃないかと……なんて言っている俺は今、ものすごく格好良いんじゃないか?」
「……何をゆうてはるのやら」
澄ました顔で言う慶喜さんに秋斉さんが溜息をつきながら言うと、慶喜さんはまたくすっと微笑みながら、「誰かさんのおかげだけどね」と、言った。
「……………」
真顔で黙り込む秋斉さんと、にこにこしている慶喜さんを交互に見やりながら、誰かさんとはいったい誰のことなのだろう?などと思っていた次の瞬間……また蝋燭の火が一本だけ静かに消えた。
「もう、誰も驚かなくなってきましたね」
苦笑しながら言う翔太くんに、みんなの笑みが向けられる。
私達以外の何者かによって消され続けた蝋燭の灯り…確実に、何人かの魂がやってきている気がした。
(これで、あとは秋斉さんの話を残すのみ……)
「秋斉さんの話も、やっぱり…怖いんでしょうね」
「それはもう…」
私の問いかけに即答する秋斉さんの瞳は、妖艶に細められ……
やがて、彼はいつにない低い声で語り始めた。
~あとがき~
お粗末様どした
慶喜さんだから、やっぱり江戸に纏わる話が良いかと思って、この題材をもとにお話を作ってみました。いろいろとまた調べているうちに、徳川家の面白い話なんぞも見つけ…大奥では、本当に開かずの間が存在し、物語ではお千代さんの霊ということにしてしまいましたが、本当は、幕府に勤めていた老人の霊が出るという噂が!
その老人も何者かに殺害されてしまったらしいのですが、やはりその恨みからなのでしょうね…次々と、怪事件が起こったようどす。
徳川慶喜自体、江戸の幕府からは斉昭の息子というだけで、冷ややかな目で見られていたそうなので、少し江戸幕府に対して皮肉めいた言葉を添えてみました。
そして、天守台での悲惨な事件も、謎のまま…。いったい、彼女は誰の手によって殺められてしまったのか…。にしても、今回も勉強になりましたぁ~
次回は、いよいよ大ボス登場(笑)
最大級の怖い怪談話を書きたいと思っております
今日も、遊びに来て下さってありがとうございました