<艶が~る、二次小説>
【艶百物語】第5話
今回は、龍馬さんが話す番どす龍馬さんらしい話かもしれません
どちらかというと、不思議な話の部類に入るかもしれまへんが、やっぱり、怖い感じは否めませんので、今回も怖い話が苦手な方は、申し訳ありませんがスルーなさってください
読みづらい点もあるかと思いますが、また宜しかったらお付き合い下さいませ
【艶百物語】第5話
「わしの話も、結構怖いぜよ!」
さっきまでの笑顔はどこへやら。
いつにない、真剣な眼差しを浮かべる龍馬さんに、周りの視線が向けられた。
「ありゃあ、十九の夏。剣の修業の為に、江戸三大道場の一つである玄武館へ入門して間もなくのことじゃった。今宵のわしらのように、誰かが怪談話をしようと、言いだしてのう。道場内にある部屋を借りることにしたわしらは、夜九ツ(丑の刻、午前0時頃)、一斉に集まって誰からともなく話をし始めたんじゃ…」
この時代の人達は、蒸し暑い夏を乗り切る為に、いろいろな工夫をしていた。
打ち水や、風鈴、甘酒などで暑さや疲労を避けたり、怪談話などをして涼を得ていた。百物語に関しては、この頃からすでにあり、誰でも、一つや二つは怪談話が出来るようにしていたほど人気だったらしい。
涼を得る為だけではなく、ゲーム感覚で楽しんでいたのだそうだ。
「皆、それぞれがしょうまっこと(本当に)怖い話をしちょったんやけんど、そん時、わしが一番怖いと思った話をするちや…」
「…は、はい」
私は、細められた龍馬さんの瞳を上目使いに見つめた。
「時は、寛延。江戸の町じゃあ結構有名な、戸田屋由太郎ちゅう裕福な商人がおったそうじゃ」
ある夜、由太郎という男性が下女を伴い、厠に用足しに行った時のこと。
寝所では、奥方が彼の戻ってくるのを待っていたそうなのだが、何時まで待っても帰ってこない。
奥方は、”下女にちょっかいでも出しているのではないか?”と、疑い厠に向かった所、厠の前で下女が困った表情で立っているのを見つけた。
「そいで、下女に由太郎の様子を尋ねたんじゃが、声を掛けても返事がのうて困っちょったと聞いた奥方は、厠の扉を叩き、由太郎の名前を呼んでみたが一向に返事が返って来ん…」
厠の中で、突然倒れ事切れていると思った奥方は扉を開けてみた。
すると、何と厠には猫の子一匹も居ない状態で、何処を見回しても由太郎さんの姿は無かったのだそうだ。
慌てた奥方は、家人の者を集め、方々を探してみたが見つからず…暫くしても見つからなかった為、泣く泣く、消えた日を命日にして、弔い婿を迎え家の存続を計ったのだった。
そして、由太郎さんが謎の失踪を遂げて、20年程が経ったある日の夜。
厠から、”おーい、誰か来てくれ”と、どこかで聞き覚えのある声がした。
何事か?と、家人の者が集まり厠の扉を開けた所、失踪した由太郎さんが消えた当時と同じ格好で、厠の中から出て来たらしい。
「ええっ?!どういうことです?」
沖田さんが目を丸くして尋ねると、龍馬さんは目を細めたまま続きを話し出す。
「驚く家人達の追求をよそに、空腹を訴えた由太郎に膳を用意したんじゃが、見る見るうちに、由太郎の着ちょった着物が、家人達の目の前で消えてしもうて、まっ裸になってしまったそうじゃ」
「えっ……」
「顔が赤いぜよ。熱でもあるがか?」
その場面を想像して一人顔を赤くしている私に、龍馬さんの柔和な微笑みが向けられた。
「い、いえ…何でもありません!」
「ほうか?」
ぎこちない笑顔を浮かべながらも平静を装う私に、「そういうところもまた可愛いね」と、言って慶喜さんが微笑む。
「け、慶喜さんっ…」
「そうやって、はにかんだ笑みもまた良い」
相変わらずのストレートな言葉に、胸の鼓動がよりいっそう速くなっていく。
(…なんか、みんなの視線がこちらに向けられているような…)
「りょ、龍馬さん!続きを聞かせて下さいっ」
「おお、そうじゃった。話が逸れてしもうたな…」
なんとか、話を戻すようにお願いすると、龍馬さんは豪快に笑いながら続きを話出した。
その後、新しい着物を一式用意し、本人も落ち着いた所で、由太郎さんにあの日の出来事を問い正したそうだ。
「なんと、由太郎には消えてからの記憶がのうて、気がついた時にゃあ、また厠におったそうじゃ…」
また、20年の時が経過しているにもかかわらず、姿を消した当時と全く変わらない姿だったので、家人達は神隠しにでも遭ったんじゃないかと、いう結論に至ったのだった。
「神隠しどすか…平安の頃から、そないな話が語り継がれとるようどすが、ほんまに不思議な話やね」
「厠で消えたっていうところが、何とも言えないねぇ…」
秋斉さんが眉を顰めながら言う傍で、少し疲れたように慶喜さんが呟いた。
(確かに、トイレで消えたなんていう話を聞いてしまったら、これから行きにくくなっちゃうなぁ…)
時々、微かに揺れる蝋燭を見つめながら、俊太郎さまがそう言うと、それに負けじと高杉さんが口を開く。
「今の説に付け足すとだ、神域である山や森で、人が行方を晦ましたり、町や里からなんの前触れも無く失踪することを、神の仕業としてとらえた概念であると言われている」
少し尊敬の眼差しを向けると、二人はこちらに微笑み、そのままの笑顔が互いに向けられた瞬間、すぐに視線を逸らし合った。
「男と見つめ合う趣味は無い」
微かに失笑する俊太郎さまを横目に、高杉さんは、視線を逸らしたまま胡坐をかいていた足を組み直し、ふんっと鼻を鳴らしながら両手を背後についた。
「おんしらの話に付け足すと、天狗攫(てんぐさら)いともゆうて、天狗により幼子が行方を晦ますっちゅう言い伝えもある…」
龍馬さんの話では、江戸時代において、子供が消息を絶つ原因は天狗とされていたらしい。天狗が子供を攫い、数ヶ月から数年の後に、元の家へ帰すというもの。
龍馬さんの話に耳を傾けたままだった慶喜さんが、楽しそうな笑顔を見せる。
「天狗攫いから戻って来た幼子の中には、『天狗と一緒に空を飛んで、日本各地の名所を見物させてもらった』、などと話した子もいたそうだよ。到底、信じがたいことではあるけれど、実際にその場所へ行かなければ分からないようなことを喋ったりしたそうだから、その言い分を信じるよりほか無かったらしい」
得意気に話す慶喜さんと、それを聞いて感心する沖田さんの和やかな会話がなされる中、ずっと無言だった土方さんが話の続きを促した。
「…それで、その商人はどうなったんだ?」
土方さんに促された龍馬さんは、また真剣な眼差しで話し出す。
「飯の後、家人たちと話しているうちに、己の境涯を認識させられたんじゃ」
由太郎さんは、自分を想いながらも仕方なく身を固めた奥方に申し訳ない気持ちを抱くと同時に、どうして待っていてくれなかったかと、いう想いに憑りつかれ、その後間もなく、彼は呪(まじな)い師として暮らしていくことになったのだそうだ。
「呪い師?」
首を傾げる翔太くんに、土方さんが静かに語りだす。
「簡潔に言やあ、神仏や霊力を持つ者に祈って災いを逃れようとしたり、また他人に災いを及ぼすようにしたりする奴のことだ」
(昔から、シャーマンみたいな人がいたんだなぁ…)
「呪い師になった後、彼はどないなったんどす?」
秋斉さんの言葉に、龍馬さんは頭をかきながら苦笑した。
「しかし、神隠しかぁ…明日は我が身かもしれない。そう考えると、怖いね」
紙縒(こよ)りを、煙管の管に通して中を掃除しながら慶喜さんがぽつりと呟くと、俊太郎さまも溜息をつきながら頷いた。
神隠しのことも、ほんの少しだけど知っていた。
子供の頃、その話を聞いて一人になるのはやめようって思うほど、怖かった記憶がある。
「わしがこの話を聞いて、怖い思うたんは…今、おる愛する者達と数十年の間、会えなくなるっちゅうことじゃ…そがなこと、絶対にされとう無いし、しとう無い」
そう呟いた龍馬さんの瞳は、慈愛の色を浮かべていた。
「まったくその通りだな…」
胡坐をかいた膝の上に肘をついてその手を顎に当てながら、土方さんが呟くと、その隣で沖田さんも同じように胡坐をかきながら呟いた。
「まだまだ、こじゃんと(沢山)あるが…また、いつかやってくる夜の為に残しておくかのう。○○、すまんが酌をしてくれるか?喉が渇いたき」
龍馬さんを始め、それぞれにお酌をして回っていたその時……例の現象がおこった。蝋燭の火が、一本だけ静かに消えたのだ。
「…やっぱり、見えない何かが傍にいるようですね」
沖田さんが声を潜めながらそう言うと、一つ溜息をついてまた秋斉さんが蝋燭に火を灯した。
やがて、次の話し手がその点いたばかりの蝋燭をじっと見つめながら、「やっと、わての番どすな」と、低く呟く。
「恐ろしい、ゆうより…心が切のうなるような、そんな話なんどすが…」
~あとがき~
お粗末様どした

今回の、龍馬さんの話と、前回の土方さんのお話は、誰もが知っている昔から伝わるものどした。神隠しなる現象も怪談話には良いかと思い、人との関係を大事にする龍馬さんにお願いしました

このお話は、なにやら有名らしく、知っている人は知っている!有名な神隠し的な物語らしいです


ヽ(;´ω`)ノ
時々、UFOを見たい!なんて思って空を見上げる私ですが、実際に見たら…ものごつう怖いだろうな…なんて、思っとります

次の、俊太郎さまのお話は…少し、切ない物語に…。俊太郎さまには、艶っぽく語って貰いたくて

今日も、遊びに来て下さってありがとうございました
