大学院生時代の恩師、鳴橋直弘先生の著作です。
「種とはどういうものか」という問に、真正面から向かい合った研究の内容がまとめられています。植物分類学の専門家が、生物種の定義をどのように行っているのかを知りたい人は、ぜひ読んでみるとよいと思います。
鳴橋先生は、本のタイトルを「ヘビイチゴを調べる」にしましたが、どちらかといったら「種の定義を実践」したことを強調したタイトルの方が、一般の人にも分かりやすく、手にとってもらえるんじゃないのかなあ、と、余計なことを思ってしまいました。せめてサブタイトルをそうするとか。
生物学の根幹を支える「種の定義」が行われていく過程を、多くの研究に携わった人のエピソードを交えながら、ここまで詳細にまとめた本はおそらく他に無いし、貴重だと思われますから。
本のタイトルになっているヘビイチゴには、ヤブヘビイチゴというたいへんよく似た種がいます。この二種は近縁で、姿格好が似ているだけでなく、アイノコヘビイチゴという雑種も作ります。それなのに別種として定義されるのは普通の人からしたらおかしなわけです。このような関係にある植物は多く、身近なものにはカラスノエンドウとスズメノエンドウがあります。カラスノエンドウとスズメノエンドウは同じところに分布しているし、よく似ていますし、カスマグサと呼ばれる雑種を作りますが、別種として扱われます。
遺伝子の交流もありそうなのに、なんで別種になるのか、生物学でいうところの種の解釈について不思議に思いませんか?
かつては同じ種だという研究者もいたようですが、ヘビイチゴとヤブヘビイチゴが別種として認識されなければならないことを、鳴橋先生は教え子たちや他の研究者ともに、形態や生態の比較と染色体(核型)の研究からつまびらかにしました。
この記事は「ヘビイチゴを調べる」のレビューなので、詳細には触れられませんが、読了すると、なるほどなあ、確かにヘビイチゴとヤブヘビイチゴは別種だなあと納得するだけの説得力があります。
理解するにはそれなりの専門知識がいるけれど、特に核型と呼ばれる染色体の研究は圧巻でした。
分類の専門家が生物種をどのように理解し、どんなことを根拠に種を定義しているのか興味があれば、ぜひこの本を手にしてよく読んでください。きっと価値ある一冊になるでしょう。
さらには、ヘビイチゴのことならなんでも書いてあるので、毒があるのか、本当にヘビが食べるのか。もしも食べちゃったらどうなるのか、薬効はあるのか、とか、雑学もびっくりするくらい盛りだくさんです。小さな頃に抱いた疑問もすっきりするかも。
本のタイトル ヘビイチゴを調べる We study mock strawberry
編著者 鳴橋直弘
発行所 大阪自然史センター
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専門書につき発行部数が少ないので、欲しい方はお早めに