賞与・退職金のポイント | 名古屋の花井綜合法律事務所公式ブログ(企業法務・労働・会社法・相続など)
賞与・退職金のポイントをご紹介します。


~賞与~

【法的性格】
賞与は、就業規則などで、支給条件・支給時期などが明確に定められている場合には、「労働の対象」として労基法上の賃金と認められます。
もっとも、そこから直ちに賞与の具体的請求権が発生するわけではなく、人事考課等を経て、使用者の具体的な決定があって、はじめて賞与請求権が発生すると解されています。
(日本ブリタニカ事件 東京地判昭27.12.16)
(UBSセキュリティーズ・ジャパン事件 東京地判平21.11.4)

ただし、使用者が合理的理由もなく賞与を決定しない場合は、期待権侵害による不法行為が成立し、賞与相当額の損害賠償が認められる可能性があります。
(直源会相模原南病院事件 東京高判平10.12.10)

また、就業規則において、「賞与は毎年●月と●月に、基本給の●箇月分を支給する」というように確定的に規定されている場合には、賞与の具体的請求権が発生するものと思われます。

【支給日在籍要件】
賞与は過去の労働の対価であるだけでなく、将来への期待・奨励という意味合いもあることから、支給日在籍要件は、原則として、適法であると解されます。
(大和銀行事件 最判昭57.10.7)

ただし、定年退職者や被解雇者については、労働者が退職日を任意に選択できないので、賞与が過去の労働の対価という意味合いを持つ以上、支給日在籍要件は合理性がなく、無効であると思われます。
任意退職者であっても、退職日を会社が決定している場合には同じことがいえます。
(リーマン・ブラザーズ証券事件 東京地判平24.4.10)

【出勤率要件】
賞与の支給要件として、出勤率を設定することも可能です。
ただし、法令上権利が認められている休暇・休業を取得した日についても出勤率を減じ、賞与を不支給とする規定は、無効となるのではないかと思います。
年次有給休暇の取得日を「欠勤」として取扱い、賞与を減額することは無効であるとした最高裁判例があります(エス・ウント・エー事件 最判平4.2.18)


~退職金~

【法的性格】
退職金は、就業規則(退職金規程)などで、支給条件などが明確に定められている場合には、「労働の対象」として労基法上の賃金と認められます。
退職金は、在職中の労働への対価であり、賃金の後払い的性格を有すると同時に、労働者の長年の貢献に報いるという功労報償的性格も有しています。


★自社退職金制度

【勤続年数・退職事由】
トラブル防止の観点から、就業規則(退職金規程)において、休職期間、育児・介護休業、出向期間などを勤続年数に通算するのか否かを明確にしておくべきです。
ただし、育児・介護休業など、取得を理由とする不利益取扱いが禁止されているものは、勤続年数の算定にあたり、実際の欠勤日を超えて不利益な取扱いをすることは許されません。

自己都合退職の定義を、雇用保険における定義と異なるものにすることも可能です。
就業規則(退職金規程)に規定がない場合には、雇用保険における自己都合退職と同義であると判断されるものと思われます。

【不支給・減額支給】
非違行為の程度によっては、懲戒解雇が有効とされても、退職金請求が認められることがあります。
裁判例では、鉄道会社員が勤務時間外に電車内で行った痴漢行為について、懲戒解雇を有効としつつ、退職金の全額不支給については行き過ぎであるとして、3割の支払いを命じた例があります。
(小田急電鉄事件 東京高判平15.12.11)

懲戒解雇・諭旨解雇となった者について、不支給・減額を定めている就業規則を見かけます。
しかし、このような定め方だと、解雇される前に自ら退職した場合や、退職後に解雇事由に該当する行為が発覚した場合に、不支給・減額とすることができなくなってしまうので、注意が必要です。

【支払時期】
退職金は、就業規則等に定められた支払時期までに支払えばよいとされています。
また、具体的な定め方について、「確定日とする必要はないが、いつまでに支払うかは明確にしておく必要がある」とされています(昭63.3.14基発150号)

この点、「退職金は発令後6箇月以内に支払う。但し情況により変更することができる」とする就業規則の定めが有効とされた裁判例があります(久我山病院事件 東京地判昭35.6.13)
退職金の支払時期は相対的必要記載事項ですが、定めていない場合には、労基法23条により、退職者による請求があった日から7日以内に支払わなければならないため、注意が必要です。

また、不支給・減額支給の事由に該当する行為の有無が問題となった場合は、その調査の期間、支給を停止することができる旨を定めておくことも大切だと考えます。

【死亡退職】
死亡退職において、就業規則等に定めがない場合、特段の事情がなければ、退職金の受給権は死亡退職者の相続財産に含まれると解されます。

就業規則等で受給権者の範囲・順位を定めておけば、退職金の受給権は受給権者固有の権利となります(相続財産には属しません)

会社が相続紛争に巻き込まれるリスクを軽減する意味合いから、就業規則等に受給権者の範囲・順位を定めておくことも有意義であると考えます。


★中小企業退職金共済制度

【加入者】
中退共制度を利用する場合、従業員は原則として全員加入させなければなりません。
ただし、次の従業員については加入させなくても良いことになっています。
(1)期間雇用者
(2)試用期間中の者
(3)休職期間中の者
(4)定年などで短期間内に退職することが明らかな者

【減額支給】
中退共から退職従業員に直接振り込まれるため、懲戒解雇等によって退職した従業員に対しても、中退共が認めない限りは、不支給・減額とはなりません(中退共法10条5項)
したがって、就業規則上は、中退共に減額を申し出る旨を定めることになります。

具体的には、下記の要領で手続きを行います。

まずは、減額について厚生労働大臣の認定を受けるために退職日の翌日から起算して20日以内に、「退職金減額認定申請書」を「厚生労働省労働基準局勤労者生活課」に送付します。

次に、退職金の減額が認められ厚生労働省から「認定書」が送られてきたら、送付を受けた日の翌日から起算して10日以内に、「退職金減額申出書」に「認定書」(写)を添えて「中退共本部給付管理課」に送付します。

なお、退職金が減額された場合、その減額分は共済制度における長期加入者の退職金支払財源に振り向けられ、事業主には返還されません。

以上

次回記事「賞与・退職金の規定例」に続きます。


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