手の中の天秤

桂望実 PHP研究所 2013年7月


手の中の天秤/PHP研究所
¥1,680
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裁判で執行猶予がついた判決が出たときに、被害者や遺族が望めば、加害者の反省具合をチェックし、刑務所に入れるかどうかを決定できる制度「執行猶予被害 者・遺族預かり制度」が始まって38年がたっていた。30年前、その制度の担当係官だった経験があり、今は大学の講師として教壇に立つ井川は、「チャラ ン」と呼ばれるいい加減な上司とともに、野球部の練習中に息子を亡くし、コーチを訴えた家族、夫の自殺の手助けをした男を憎む妻など、遺族たちと接してい た当時のことを思い出していた。執行猶予付きの判決が出たとき、もし被害者や遺族が、加害者を刑務所に入れるかどうか決める権利を持ったら…。人を憎むこ と、許すこととは何かを大胆な設定で描く、感動の長編小説。


「執行猶予被害 者・遺族預かり制度」とは、なんとも、奇抜な制度を考えたものだ。事件が起こった時、被害者は、加害者に対して、どのような感情を持つのか?憎しみとは?人を許すことができるのか?といったことをこ架空の制度の中で描いている。

事故で死なせてしまった場合、もちろん、加害者に責任がないとはいえないが、加害者にとっても、つらい日々が続くだろう。加害者や被害者の家族にまでその 影響が及ぶ。被害者の家族は、憎むことでしか自分を支えていられないのか?この人たちに安らぐ日々はやってくるのか?むつかしい問題だ。

以前、係官としていた井中が、今、大学の講師として教壇に立ち、昔の案件について講義をする形で話は進んでいく。

係官になったばかりの井川は、岩崎のもとで、研修を行うことになる。52歳の岩崎は、ちゃらんぽらんな人だという評判でニックネームをチャランと呼ばれて いた。、報告書も短い文で、表情一つ変えないチャラン。それに対し、井川は、映画信仰者で、係官として、自分の力で立ち直らせてあげたいという気持ちの持 ち主で、チャランに反感を抱いていた。

そのチャランとのエピソードも交えた講義として話が進んでいくので、物語に入りやすい。講義を聞いていた学生ならずとも、チャランのことが知りたくて、先を読んでしまう。

チャランという人物、なかなか・・・・・
読み進むうち、チャランの魅力に気付く。

チャランがいう「人それぞれ」という言葉、意味が深いなあ。

被害者、加害者、その家族の心情を描くだけにとどまらず、井川、その学生時代の仲間、チャランらを描くことにより、人の生き方をも示唆している物語だ。


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