蛇と月と蛙

田口ランディ 朝日新聞出版 2011年2月

蛇と月と蛙/田口ランディ
¥1,575
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小学校の遠足で見た3つの影と母の死の予感、鳥インフルエンザ、新月の晩に動き出す味噌の麹、チャーミングなゾウアザラシに求愛された小柄な私、満月の晩にいっせいに産卵する珊瑚……人と動植物と月がからみあう、6つのふしぎな小説集。



しばらくぶりに田口ランディさんの小説を読んだ。コンセント、アンテナ、モザイクは以前読んだことがあるが性描写が露わだったが、内容は訴えかけてくるものがあったことを記憶している。



「影のはなし」
もうすぐ母親が死ぬ。私には、突然、何かが、確信として降りてくる。まごうことなき絶対の真実として想起される。私が母に会いに行ってしばらくして、母は倒れ、植物状態になる。その母に名前を呼び続ける父・・・・・

<人間は生きるべきだと思っている強い信仰が、闇を深めていることを知った。>
常識にとらわれていることの恐ろしさを表している。

 
「むしがいる」
朝、庭にカラスが1羽死んでいた。有名なムライあら鳥インフルエンザに感染した鶏がでたらしい。高病原性鳥インフルエンザの緊急警報が発令される。東京の両親から、こちらに避難してきてはどうかという電話が入る・・・・・・・・

鳥インフルエンザが人には感染しないだろうが、避難して来いと心配している両親の気持ちはわかる。
これにはその後の話があって、ヒトインフルエンザの感染が確認され、感染ルートは不明だが、町がじき閉鎖される。その時の両親の反応は、「移動は危険。感染を広げる可能性もある。そこから動かない方がいい。」と・・・・・・・・

手のひらを返したような両親の変化。原因のもととなったムライ養鶏所の自殺……重いなあ。

「4ヶ月、3週と2日」
田口ランディは、ルーマニアの出版社で本を出版することになり、ルーマニアに招待される。ランディは、アメリカ人やルーマニア人にとって、倫理を無視したほど過激な性を描いて女性解放を標榜しているフェミニストと思われているらしい・・・・・・・・・

映画4ヶ月、3週と2日 」は、堕胎する女の子とその友達の話。私は、この映画を見た時、ルーマニアの現状を知り、女性の立場の低さにやりきれない気持ちになった。ランディが、この映画を見た感想と絡めて、ルーマニアのこと、日本のこと、娼婦のこと等の考えが述べられている。

他国のことを知ると、日本という国の現状が、違ったふうにみえてくる気がする。

「河童と遭う」
芥川龍之介の「河童」にいたく感動し、作家になった私は、写真家の追悼に沖縄旅行に行く。裸で泳いでいる時、服を盗まれる・・・・・・・・・

迷信や占いやオカルトを信じない主人公が体験した出来事。世の中には説明できない不思議な現象は確かにあるのだと思う。

「月夜の晩に」
育ての母親が眠り続けている状態。生みの母である安恵も見舞いに来ている。

「影のはなし」に通じる。母親が、眠り続けている状態。ここでも、主人公は母親を今生に引き戻したいとは思っていない。現実を受け止めている姿がある。ここでは、自分を捨てた生みの親への不満が書かれているが、その裏にあるのは、さみしさや甘えたい気持ではないのだろうか。

「蛇と月と蛙」
事故で両足を失った僕は自暴自棄になっていた。リハビリ室でストライキをしていた僕に少女は「足がないって、どんな気持ち?」って話しかけてくる・・・・・・・・・
 
<小さな生き物のことを思えるようでなければ、いつか滅んでしまう気がします。>
蛇、月、蛙・・・自然界が人間に関わる、短い12の物語。どれもインパクトのある話だった。



生と死。植物や動物と人間とのかかわり。月との関係・・・・・・・・・大きな自然の中にいる人間の存在を感じさせる。
そして、人間の本来の姿とは何かを考えさせられる。

これは、楽しい小説でも、感動するお話でもない。心の芯に響いてくる、そんなお話だった。


お気に入り度★★★★