想いを伝えるということ | 浜田真実*文筆と朗読「まほろふ舎」

浜田真実*文筆と朗読「まほろふ舎」

昭和の終り頃、シャンソン喫茶「銀巴里」にて歌手デビュー。平成の中頃に、心と身体を整えるボイトレ教室「マミィズボイススタイル」オープン。「声美人で愛される人になる」「説得力のある声をつくる」等出版。この頃は「しげのぶ真帆」名義で、文章を書き朗読もしています。

「なんて可愛らしい歌声なんだろう。」
彼女の歌を初めて聴いたとき、素直にそう思い、胸がふるえた。

話すことに障害を持っている彼女は、緊張する場面では、
スムーズに想いを伝えられない。
何度も何度も、言葉が詰まる。
当然、人前で話すなんて考えたこともなかっただろうし、
歌うなんてあり得なかった。

だけど彼女は、ある日、自分の世界を変える選択をした。
たくさんの人の前で話すと言う。
覚悟を決めて私の部屋を訪れた彼女は、とてもとても
密度の濃い空気に包まれているように感じられた。

私たちの会話は、途切れ、行きつ戻りつしながら進む。
「ねぇ、ちょっと歌ってみたら」
そんな私の提案を受けて、彼女は歌った。
歌は、サラサラと流れる。
彼女の持つ、強さも優しさも穏やかさも清々しさも、
その全てが歌の中で飛び跳ねていた。
可愛らしいな。
美しいな。
彼女しか歌えない、嘘のない歌。
ほんとうの歌だ。

話す言葉は流れなくても、歌は流れる。

「歌うように話してみると良いのかもね」
そんなやりとりを繰り返して、彼女は本番を迎えた。

周囲の人のサポートも受けながら、彼女は大きな一歩を
踏み出した。
「歌ったり、声を出すことが楽しい」
と、報告のメールに書いてあった。
「ありがとう」とお礼を言うのは、私の方だ。
勇気を持って闘った人の、かけがえのない時間に
立ち会えたのだから。

~~~

「想いを伝える」
ということは、少しせつない。
たぶん、全ては届かないし、相手に受け取られた時には、
もうすでに、その想いは違うものになっている。
だけど私たちは、伝えずにはいられない。
ゆっくりでも、言葉に詰まっても、空回りしても、小さな声でも、
それでも、伝えずにはいられない。

それが、生きるということだから。
私が、ここにいる証だから。

だから、何にも、誰にも、恥じることはない。
堂々と、ゆっくりと、自分の声で、伝え続けて行けば良い。
「伝えたい」
という想いは、自分の内側から外へ溢れ出し、色を変え、
形を変え、静かに人を満たし、人を動かす。

そこに、上手い下手などの意味付けはない。

日々の出会いの中で、教わっているのは私。
救われているのも私だと、つくづく思う。