「お客様に歌を届ける時、その空間の全てをあなた自身にしなさい」
これは、私の歌の師の言葉です。
「歌う場所や客席が、あなたの身体の中にあるとイメージして」
とも言われました。
イメージする・・・
声を出すとき、この「イメージする」という行為は、とても大切です。
◆存在感
イメージする力の弱い表現者は、存在感に欠けています。
ステージの上で、とても小さく見えるのです。
ところが、ステージも客席もホールも、全て支配しているように感じられる、存在感のある表現者もいます。
彼らはステージ上では、とてつもなく大きく見えるのですが、実際に会ってみると、意外に小柄な人が多いようです。
私の師匠の故・勝新太郎先生。
並んで立つと、身長160センチの私より数センチ背が高い程度。
男性としては、小柄です。
ところが、一度舞台に立つと、こんな大きな人はいない!と思える程、とてつもなく大きな存在感を湧き上がらせる人でした。
これは、もって生まれた資質もありますが、地道な努力を重ねた成果でもあったようです。
◆ドロドロに柔らかく
勝先生は「心も身体も、いつもドロドロにゆるませておきなさい」と言われました。
「硬い地面からは、何も生まれてこないんだ。
マグマのようにどろどろした地面からは、とてつもないものが飛び
出してくる可能性がある・・・」
ようやく今になって、このドロドロの大切さが、身に沁みてわかるようになりました。
声に悩みを抱える多くの生徒さんは、ガチガチに固まった、心と身体を抱えてやってきます。
身体が硬い人の特徴は、「感じる」ことが苦手なこと。
空間の認知力、創造性、イメージをする力なども、弱くなっているようです。
もったいないなと思います。
◆声を届けるとき
人前に立って声を出す時や、ステージに立つ時、もちろん日常の他愛ない会話をするときも、イメージを使って声を拡げてみましょう。
まず、あなたが立っている部屋、場所、相手との距離などを感じてみます。
空間が把握できたら、自分の身体からエネルギーが湧き上がり、部屋全体、もしくは相手と自分を、そのエネルギーが包み込むようにとイメージしてみるのです。
ここで力んでしまうと、途端に緊張し始めたり、イメージが途切れてしまいます。
ふぅっと息を抜いて、左右、上下、前後に、自分からエネルギーが拡がっていくような、イメージをします。
そして気持ちの準備が出来たら、後は何も考えないで、姿勢を整え、息を深くして、声を発するのです。
思った以上に、心地良く声が拡がるのに気づいていただけると思います。
◆まずは、身体をほぐしましょう
「声が相手にまで届かない」と悩んでいる人の多くは、相手に声を届けようとしていません。
自信がない、自分の内側を見られると怖い、言い返されたら困るなどと心の底で感じているために、身体も心も硬くして自己防御をしていることが多いのです。
そんな時は、まず身体をほぐしてあげましょう。
凝り固まった身体をゆるめて、「大丈夫!大丈夫!!」と自分に言い聞かせ、ゆっくりと呼吸をするのです。
そしてイメージを使って、声が相手の元にまで届くと信じます。
それに、息のコントロールや、ちょっとしたテクニックが加われば、確実に声は届くようになります。
ゆるんだあなたの中から、何が飛び出して来るのか・・・
それを、存分に楽しんでみませんか!
あなたは、あなたが思っている以上に、たくさんの可能性を秘めているのですから。
(2007年5月15日発行号より)