諸君、ご壮健かな。
これは日常生活の「仁義なき戦い」を切り取った。
思いついたときに書く物語。
私はベイ(駅の改札)を抜けた。
目の前には移動階段(エスカレーター)。
横には垂直移動個室(エレベーター)がある。
垂直移動個室は今、私のいるグランドフロア(1階)についている。
しかしもうすぐ扉が締まりそうだ。
私は一瞬迷ったが。
移動階段を選択した。
私はステップに足をかける。
そしてゆっくりと上昇を始めたその時。
ダダダダ。
けたたましい足音が響き渡る。
何が起こったのだろう。
暴徒が押し寄せたのか?
私は思わず身構える(心の中で)。
そして、恐る恐る振り返ると。
そこには。
必死の形相で駆け寄るオバンカーン(婆)。
オバンカーンは閉まりかける垂直移動個室扉に両手を差し込み。
こじ開けるように開けようとしている。
セ・イ・キ・マ・ツ。
そんな言葉が私の頭をよぎったが。
21世紀も始まって間もないと気が付き、安堵に胸を撫でおろす。
ズシャ・・・・ズシャ・・・・。
オバンカーンは開け放たれた垂直移動個室に足を踏み入れ。
扉は吸い込むように閉まった。
私は恐ろしい戦いの目撃者となった。
動機が収まらない。
移動階段に揺られながら私は呼吸を整える。
ふと気が付き、鞄からテキーラ(トクホ茶)を取り出し飲み干す。
うむ、少し落ち着いてきた。
私が上りきると。
垂直移動個室の階上扉が開いた。
奴が来る!
私は再び身構える(脳内で)。
そして中からオバンカーンが姿を現す。
私はつい見てしまった、見なければいいのに。
オバンカーンは。
ゼエゼエガフゴフーゼハー。
すごい息遣いだ!
まるで、50年物の工場の排気口のようだ。
よろよろと歩いていく後ろ姿を見送りながら。
私は思う。
前に遭遇した爺もそうだけど。
逆に疲れるよね?
人間の闇は深い。
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