「最初の賭けには勝ったようですな」…ELSはマネキン准将を始めとする連邦軍が予測した通りのコースを外れることなく最短で辿り、連邦軍の絶対防衛線の正面からやって来た。まぁ思えば、ELS側は連邦軍の裏をかいてコースを迂回する必要などない。当時の連邦軍には知る由もないことではあるが、ELSには良くも悪くも他意がない。もしかすると地球連邦軍の全軍が集結している絶対防衛線も、ELSから見れば歓迎の出迎えに見えたかも知れないぐらいだ。


とりあえず、連邦軍としては戦力を集結させたのが無駄にはならず、これで全力でELSに立ち向かえば良いだけとなった。絶対防衛線を死守する為に、全力をここに集中するのみだ。


以前、キム中将指揮するELS調査隊 が火星圏でELSとの戦闘を行い全滅したが、この際の戦闘データは今回の決戦に生かされていた。前回、ELSを攻撃したミサイルは、全部ではないが相当数ELSと接触した瞬間にELSに取り込まれて戦力にならなかった。そこで今回は同じ轍を踏まぬように学習し、ミサイルの制御設定を変えたようだ。マネキンは「各艦、目標が射程圏内に入り次第、攻撃を敢行する。粒子ミサイルはELSとの接触を避け、近接信管にセット。取り込まれては敵わん!」と発令していた。 つまり、ELSと接触してから作動するのではなく、接触直前の距離にて信管が作動して爆発を起こし、その爆圧と衝撃によって周囲のELSを破壊する方法に変えたわけだ。これによって、ミサイルが作動前にELSに飲み込まれてしまうのは防げ、ミサイルの大半が無効化されることを予防するのには成功した。


また、火星でのELS調査隊のGN-X Ⅳは、ELSの突進を回避し切れずに、呆気なく接触されて侵蝕を受けてしまった。そこで、今回はその対策として最前線のGN-X ⅣにはGNシールドを装備させて、そこから発するGNフィールドを使用するよう指示が出された。連邦軍に配備されている太陽炉は擬似GNドライヴであり、その影響もあってか連邦軍の機体では、まだ全身を覆うようなGNフィールドは普及していない。しかしそれでも、圧縮粒子の奔流による壁であるGNフィールドは、ELSに接触されても同化されて物質構造を変えられてしまう怖れがない。GNフィールドも物理的な実体での貫通にはあまり強くないので、ELSの長時間の接触には耐えられない。が、一時的にELSが機体に接触しようとするのを阻む効果は期待出来る。ELSに接触されそうになったら一旦GNフィールドで受け止めて、すぐに相手を撃破、ないし回避運動に移る時間が稼げるということだ。


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だが、相手のことを学習したのは人類だけではなかった。


ELSもこれまでの人類との接触で融合・同化した対象物の情報を学習し、ELSに対する人類の対処を模倣する策に出たのだ。ELS同士が合体・融合して、モビルスーツや艦船の姿を模して擬態し始めた。また、ミサイルや粒子ビーム砲などの武装もコピーした。人類のやり方を真似する事で、相手と同等・対等の対応を行おうというのだろう。また、自分達のダメージとなる人類からの攻撃に対しては、その防御も迅速に学習して対応した。


連邦軍が射出した近接信管セットのミサイルも、戦果を上げられたのは比較的小型のELSに対してだけだった。大型のELSは何らかのシールド効果を自ら発生させ、ミサイル攻撃に耐え切っていた。また、連邦軍最大の火力となる外宇宙航行母艦ソレスタルビーイングの主砲(巨大粒子ビーム砲)の攻撃についても、超巨大ELSを貫通するほどのダメージを与えられたのは初弾のみだった。第二射は(出力55%とはいえ)超巨大ELSが自身の表面を変化されることによって、粒子ビームを屈折(?)させ受け流した。


ELSは大きな個体であればあるほど、学習効果を発揮して対応能力を高めていた。人類の攻撃は中小ELSにはまだまだ十分通用していたが、巨大なELSは次第に撃退が困難に。大型のELSを食い止めるには、それ相応の戦力を割いて時間を掛けなければならなくなってきた。元々数の上で劣勢だった連邦軍にとってこれは非常に苦しい状況だ。当初の想定では、ELSがMS化・艦船化してビーム兵器を使ってくるなど考慮してなかっただろう。また、フィールドまたはシールドのような防御策を講じて来るとも予想されてなかった気がする。


火星圏でのELS調査隊の戦闘データでは、ELSはただこちらに向かって突進してくるだけであり、物理的に接触されない限りは問題ないと思われていただろう。数が膨大で動きが速いのは厄介だが、ELSの数にはミサイル数で対抗し、素早い動きでの接触に対しては、GNフィールドである程度凌げると考えられていたはずだ。そのアテが外れてしまった連邦軍の動揺は小さくなかっただろう。ELSの学習能力は人類側の対策能力を上回っていた。連邦軍の絶対防衛線の戦力は、予想以上の早さで失われていった。