ELSの真意を見極めるべく火星圏に派遣された連邦のELS調査隊だが、結局慎重な調査を行うどころではなく、戦闘状態に突入してしまった。しかし、戦力的にも戦術的にも、この対決は無謀だったような気がする。


最新鋭のイノベイター専用MAガデラーザを擁していたとはいえ、それ以外の戦力は少々物足りないものだったと思う。派遣された艦は全部で3隻だけだった。ヴォルガ級航宙巡洋艦 2隻と、ナイル級大型航宙戦艦 1隻のみ。MSを何機搭載してきたかは定かではないが、小説によると出撃していたのはGN-XⅣ 7機だけだった…らしい??本来、ヴォルガ級のMS最大搭載能力は恐らく6機、ナイル級は最大で22機のMSを搭載する能力があるらしい。ただし常に最大数搭載しているとは限らないし、搭載してても全機出撃させていたとも限らない。作戦内容等で実際の運用数は変わるから。ただ、ELSの大群を相手に対決を敢行するには、戦力的には全く数も火力も足りてなかった気がする。


しかも、ELSの戦闘能力等はこの時点ではまだまだ未知数で、どういう攻撃が有効かもわかっていなかった。事実、巡洋艦の放ったミサイル群は、一部はELSを打ち倒したようだが、その何割かはELSに着弾すると同時に飲み込まれて同化されてしまっていた。液体金属のように柔軟で、相手との物質的な融合が可能なELSには、物理的な接触は同化への一歩だ。相手の装甲に食い込んで爆発するタイプのミサイル攻撃は、起爆する前にELSに同化されてしまう事実がこの一戦で判明した。この実戦データは後の戦闘には生かされるが、しかし、キム中将を始めとする調査隊には、それに気付いても時既に遅しだった。対策を講じる暇もなかったのだから。


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巡洋艦や戦艦の粒子ビーム砲は、火力的にはそれなりの威力を持つ。しかし、無数のELSを相手にするには、ヴォルガ級やナイル級のビーム兵器は一撃の威力はあっても連射性が低い為弾幕にならない。しかも艦船の機動力は低くて小回りが利かない。急接近されたら避けられないのだ。本来ならば、その機動力のない母艦をMSが護衛しなければならないのだが、この時のGN-XⅣは十分なELS対策の装備をしていたとは言い難い。普通のMS戦を想定したような、基本装備のみで出撃していた気がする。MSは艦船よりは機動性が高いが、少数のMS部隊で、各個がビームライフルやバズーカの1、2丁程度でELSと対抗するのは無理がある。母艦を護衛するどころか、自分の身も守り切れてない状況だった。


あっという間に7機のGN-XⅣ部隊は、ELSに取り込まれて同化されていってしまう。それを受けてキム中将は「現時点をもって、ELSを人類への敵性勢力と断定する!」という宣言をするが、今さら何を断定しても状況に変化はない。一斉発射した頼みの綱のミサイル群はELSに風穴を開ける効果すらも発揮出来ず、艦の粒子ビーム砲ではELS撃墜が全然追いつかない。そうこうしてる間にELSが次々と巡洋艦と戦艦に取り付いてしまう。図体が大きくてノロマな艦船では、スピードの速いELSにとっては格好の標的でしかない。乗員に退避命令を出すもELSによる艦体の侵蝕の方が圧倒的に早く、脱出する手段すら失ってしまう。


ロシアの荒熊、セルゲイ・スミルノフのように生きてみたいと言っていたキム中将だが、人類の為に十分に活躍する暇もなく、あっという間に戦闘不能に陥ってしまった。しかも脱出して生き延びることも叶わない。「認めん、これが現実だと…?」と茫然自失となりながら、自らの肉体すらもELSに侵蝕される現実を受け入れるしか術がなかった。急にイイヒトになろうとしても、いきなり軍人として腕を振るおうとしても、これがキム中将の現実なのだった。


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結局、この部隊で戦力的にアテになるのはガデラーザのみだった。だが、ガデラーザに乗っているデカルトは先行してELSを叩くことにばかり気を向けていたので、後方の母艦や味方機の援護は一切しなかった。ELSが脳量子波に惹かれる性質があるとはいえ、脳量子波を発しない他の機体や母艦を無視してはくれなかった。ガデラーザとGNファングは最前線で性能を発揮し大きな戦果を上げたようだが、気付けばいつの間にか全ての味方機はELSに取り込まれてしまっていた。


デカルトはイノベイターとしての初めての実戦で、自らの能力を思い切り解放して、ガデラーザの高性能を堪能しながらELSに向けて憂さ晴らしを楽しんだ。しかし、ガデラーザほどの戦闘力のない味方機や母艦は、その間に見るも無残な姿に変貌していた。