TIME ロッド・スチュワート | 自然と音楽の森

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洋楽の楽しさ、素晴らしさを綴ってゆきます。


自然と音楽の森-June09RodStewartTime


◎TIME

▼TIME:時の旅人

☆Rod Stewart

★ロッド・スチュワート

released in 2013

CD-0412 2013/6/8


 ロッド・スチュワートの新譜の記事です。


 ロッドは昨年クリスマスアルバム(記事はこちら )を出しており、CDを出す間隔としては1年も間を置いていない、もう出たかという感じですが、考えてみればクリスマスアルバムはこれへの布石だったのか。


 その前となると、2010年に、アメリカン・スタンダード路線の最終章となる5枚目を出していて、3年振り。


 しかし今回は、オリジナルの楽曲を中心としたアルバム。
 となると2001年、Warner系から最後のアルバムHUMAN以来、実に12年振り。

 ロッドの長年のファンとしては、カヴァーアルバムもいいけれど、オリジナル楽曲のアルバムを聴きたいと思い続けてきたので、今回のアルバムはかなり楽しみに待っていました。

 ロッド・スチュワートは、さらりといい曲を書く人。
 凝った曲は書かないしはっとする展開もない、あくまでも歌にこだわったオーソドックスな曲。
 まあそれでも、Tonight's The Nightという年間No.1になる曲も生み出したくらいだから、作曲家としても成功した人ではあるでしょう。
 でも、ロッドはあくまでも歌手が第一であり、ソングライターにはこだわってこなかった。

 それが今作は作曲にこだわったとのこと。
 ロッドは、それまで様々な経験をした上で、原点の気持ちに戻り、積年の思いを自分の歌に込めて表現したかったのでしょう。
 自作とはいえ、まったくひとりで作った曲はなく、周りのミュージシャンに助けられながら書き上げたものですが、特にジム・クリーガンやケヴィン・セイヴィガー、古くからのロッドの仲間の名前があるのがうれしい。

 曲を聴いて、凄い人というよりは、身近な人だと感じました。


 生きる上で感じることをあまりにも素直に歌にして作為的なものがなく、しかも歌がきわめて分かりやすい。

 その曲は、駆け出しのシンガーソングライターといった趣きでむしろ若々しい。

  これだけのキャリアになると身にまとった鎧が重たそうなものだけど、ここでのロッドには何もつけていない無防備さや素軽さがある。
 それを、年がいもなく、臆面もなくできてしまうのがロッド・スチュワートという人。
 そんなロッドは今までよりもうんと人間臭いく、そこが身近な人だと感じさせるところ。

 でも、だから、生けるレジェンドともいえる超大物の作品として捉えると、物足りなさを感じる人がいるのではないかな。
 

 しかし、聴き込んでゆくと、還暦を迎えたロッドの人生の重みが歌詞や旋律の間から滲み出してくるのを感じられ、シンプルのようでいて、そこが駆け出しのシンガーソングライターとは大きく違うところ。
 

 音楽面では、やはりロッドはトラッドが好きで影響が濃いと分かりました。
 音の感触としては、ソロになりたてのMercury時代、GASOLINE ALLEY辺りを彷彿とさせるのがうれしいし、ロッドにはそれが似合っている、極めて自然に聴こえてきます。
 ロッドにはやはり英国人としての誇りがあるのでしょう。
 アルバムには、ロッドの歴史を振り返る仕掛けが凝らされていて、それを探して昔を思いながら聴くのも楽しみのひとつです。

 ただ、個人的に残念なのは、今回は有名な曲のカヴァーがないこと。
 カヴァー曲はトム・ウェイツの1曲がありますが、それは有名な曲というわけではない(少なくとも僕は知らない曲でした)。
 オリジナルにこだわること自体は評価する部分だけど、ロッドは普通のアルバムに入っている有名な曲のカヴァーが良かったから。
 しかし冷静に考えると、自作の曲ばかりの中に有名な曲が入ると浮いてしまうことは自分でも分かっていたはず。
 もしくは、今作の楽曲には自信があるのでしょう。

 "TIME"というタイトルも、シンプルいちばん。
 自らの人生を回想するアルバムを作るのであれば、もっと凝ったタイトルをつけそうなものですが、そこがまたロッドらしいところでもありますね。


 1曲目She Makes Me Happy

 シングルカットされ、「ベストヒットUSA」でビデオクリップを見ました。
 明るい海辺の休日といった趣きの映像、内容をイメージで表しているロッドらしいビデオクリップでした。
 いきなり強烈なアコースティックギターで始まる軽快なポップロック。
 途中でマンドリンが入るのもやはりMercury時代を彷彿とさせる。
 彼女が僕を楽しくさせてくれて、僕は歌うことができる、というのはロッドがなぜ歌いたいか、ずっと歌ってきたかを表明するものでなんとも微笑ましいですね。

 アルバム1曲目でシングル曲だけあってつかみ優先、でもなかなかの佳曲。

 2曲目They Can't Stop Me Now

 前半がNo Holding Backをちょっと早くしたような感じだけど、ロッドは、今に始まった話ではなく昔から、自分の曲に似ている部分があって、それはむしろ愛らしいことだと思う。
 これは歌手としてやってゆけるまでの若い頃を回想したようで、彼らはもはや僕を止められない、世界が待っているというのは、ロッドの自信のほどを感じさせるところ。
 しかし最後のほうで、今に至るまでには自分ひとりの力ではなく周りに感謝しながらここまでこられたことを、ひとつひとつ名前を挙げ、しみじみと気持ちを込めて歌い上げるのは感動的。
 途中のキーボードもロッドらしい響きで、2曲目にして気持ちはすっかりアルバムに入り込んでいることに気づきます。

 3曲目It's Over

 しんみりとした、トラッドの香りが高いバラード。
 ストリングスが盛り上げてから転調するこの曲は、何かの映画に合いそうな雰囲気。

 1曲めと逆で、後からじわじわと良くなってくる曲。

 4曲目Brighton Beach

 おお、もう昨年のことになるけど、グレアム・グリーンの『ブライトン・ロック』を読んだから(丸谷才一さんの翻訳本)、なんだかうれしい。
 続いてしんみりとした曲、泣きのヴァイオリンが入るトラッド。
 ブライトンといえばクイーンもBrighton Rockを歌っていますが、あの賑やかさとは正反対、避暑のシーズンが終わった寂寥感漂う海岸の情景。

 歌詞に"Janis and Jimmy"、ケネディやケルアックなどが出てくるのは、回想シーンとしても響いてきます。

 
 5曲目Beautiful Morning

 2曲ほどしんみりとさせてしまったことを反省したかのように、高らかに朗らかにまるで鳥の囀りのように歌い始めるロッド。
 アップテンポで肩の凝らない、ひたすら楽しい曲、サビも印象的。
 こうした素直さが、今回は特に身近に感じられる部分ですね。
 たたみかけるように歌い走るロッド、まだまだ若い。

 6曲目Live The Life

 最初にこれを聴いて、にやっとしてしまった・・・
 はっきり言ってMaggie Mayにサウンドプロダクションがそっくり。
 それに似ているYou Wear It Wellに似てるというか、さらにいえばそれらに似ているキッスのHard Luck Womanに似ているこれ、間違いなく意図したものだと思う。
 ネタが尽きたとか二番煎じ(三番だけど)ではなく、昔からのファンを大切にしつつちょっとからかっている、そんなロッドのいたずら小僧的な面を感じました。
 いやあ、それにしても似ている、おかしいくらいに。
 ファンとして敢えて言うと、だからこそ聴いてほしい。
 歌詞に"Let the good times roll"と出てくるのも、やっぱりロッドは古い曲への愛情が深いことを感じずにはいられない。

 7曲目Finest Woman

 ロッドの今の奥さんはとってもきれいな人だそうで・・・ということを直接的に思わせるいわば「おのろけ」ソング。
 これまた明るいロックンロールにソウル風のブラスが入る。
 ロッドの奥さんはロッドより背が高い人だそうですが、そういえばこの曲、背が高い人をイメージさせる響き、なぜだろう・・・(笑)・・・

 8曲目Time

 アルバム表題曲が真ん中にどっしりと構える。
 "Time waits for no one"と歌い出す、ローリング・ストーンズのまさにTime Waits For No Oneを彷彿とさせるものだけど、そもそもストーンズのそれが隠れた名曲として大好きだから、僕の中ではそことすぐに結びついて、最初から気に入りました。

 実際にイントロのエレピがストーンズ風でもあり、もしかするとストーンズのその曲が頭にあったのかな。
 その曲はIT'S ONLY ROCK AND ROLLに収録されており、それはロッドの親友ロン・ウッドが、正式加入はまだだたたけど、ストーンズの仲間に引き入れられたアルバムでもあるし。
 あ、すっかりストーンズを語ってしまいましたが(笑)、ロッドも同じ時代を生きてロックを盛り上げた同じ英国人だから、このつながりは極めて自然なものとして僕には映りました。
 僕は、文句なしに今作ではこれがいちばんのお気に入り。

 9曲目Picture In A Flame

 そのトム・ウェイツの曲、これが素晴らしい。
 前の曲が終わりエレピでつないでゆっくりと曲が起こるのがうまい。
 ロッドも言葉を慈しみながらしっとりと感傷的に歌う、これが素晴らしい。

 ロッドはトム・ウェイツの曲の歌い方をすっかり心得ているようで、でも、それとて久しぶりのことだから、ロッドとトム・ウェイツの組み合わせは十分に懐かしいもの。
 だって、Downtown Trainからでももう四半世紀ですからね。
 有名な曲のカヴァーがないのは残念と書いたけれど、もちろんこちらはこちらでとっても素晴らしくて気に入っていますよ。
 作曲者が違うので当然だけど、他の曲にはない味わいがあります。

 10曲目Sexual Religion

 ロッドがこの3文字を出すのは、アイム・・・以来かな。
 素直といえば素直ですね、ちょっと恥ずかしくなるけれど(笑)。
 この曲はユーロビート系のダンスミュージックともいえるアレンジで、それまでにない艶っぽい女性コーラスともども、その3文字が表わす快楽主義的な部分に直接訴えるのは、さすがは音楽を体でよく知っている人と感心しました。
 僕はユーロビート系は好んでは聴かないけれど、ロック系の人がアルバムの中でさらりとやるのは変化があって好きです。

 11曲目Make Love To Me Tonight

 あらま、そんなこと臆面もなく言うのですか。

 しかも歌詞の中で「セクシーな下着をつけて」とか言っているし、ああもう・・・
 これはサウンドに注目。

 トラッド路線の中になぜか微妙に中国っぽい旋律が入るのはまさにGasoline Alleyを彷彿とさせる。
 さらには、またストーンズを引き合いに出しますが、ストーンズのBEGGAR'S BANQUETに入っているFactory Girlも同じような感じで、曲は似ていないけれど、1969年頃の英国にはそんな雰囲気が漂っていたのかな。
 歌詞はともかく(笑)、ソロ初期のロッドが好きな人にはうれしい響きの曲ですね。

 12曲目Pure Love

 アルバム本編の最後は、トム・ウェイツを意識したんだろうなあ、というオリジナルのしみじみと歌うバラード。
 ピアノの演奏だけをバックにロッドは気持ちを込めて歌い、後半には甘美なストリングスが盛り上げる、感動の1曲。
 これはアメリカン・スタンダードを体験したことを強く感じさせ、ロッドのこれまでの歌との関わりを表現し切っています。
 実際に歌メロはいかにもアメリカン・スタンダードっぽいですし。
 


 ここからはボーナストラック。
 僕が買ったのは輸入盤DELUXE EDITIONですが、国内盤は3曲とも違う曲が入っています。
 いずれは国内盤も買うつもりですが、今回は輸入盤で。

 13曲目Corrina Corrina

 音楽の偶然はよくあることですが、今回は、3月に出てとっても気に入ったボズ・スキャッグスの新譜(記事はこちら )で歌われているこの曲と早くもここで再会しました。
 フォークのトラディショナルソングを、軽やかに、少しだけ感傷的に、ロッドは歌っています。
 ボブ・ディランが歌っていますが、ロッドはそこから来たのでしょうね。
 これはアルバムを制作するにあたってのウォーミングアップといった感じで、本編に入らなかったのはまあ当然かな。

 14曲目Legless

 このタイトルでHot Legsに雰囲気が似ているのが微妙に笑える、しかもご丁寧にもサザンロック風。

 ただ、歌詞の中に"Vietnam"と聞こえ、実際は深刻な話かもしれない。
 また、歌詞に出てくる"Mr. Jones"といえば、ビートルズのYer Bluesに出てくる歌詞であり、さかのぼるとそれはディランの曲から来ている。やはり1960年代後半のこと。
 なんて、ロックバカは何でも結びつけたくなるのでした・・・(笑)。
 この曲はオリジナルだけど、アルバムの雰囲気にそぐわなくて外されたのかな。
 多分ですが、テーマが自分自身ではないのも関係がありそう。

 15曲目Love Has No Pride

 最後はエリック・カズの曲、僕は聴いたことがない人だけど、トム・ウェイツに通じるものがありますね。

 これ自体はとってもいい曲、いい響き、いい出来だけど、これをアルバムに入れると似たような傾向の曲が多すぎて、アルバムの印象がもっと重たくなるので外されたのでしょう。
 ただ、ワルツの曲はこれだけなんだよなあ、何かもったいない。
 いずれにせよ、しみじみと歌うロッドは最強ですね。


 ここ数年、古くからの超大物が新譜を出すと言えば、カヴァー曲が中心で新曲は1、2曲という流れがすっかり定着している感がある、と僕はことあるごとに書いています。

 そもそも大好きなアーティストの新譜だからそれはそれでいいと思いつつ、やはりカヴァーというのには少々不満があることは否定できない、あくまでも僕の場合は。
 20世紀最高の作曲家であるポール・マッカートニーまでがそうだから。

 それ、実は、誰あろうロッド・スチュワートがアメスタ路線を成功させたことに端を発し、流れを作ったといって過言ではない。
 責任の一端はロッドにある、ドンッ、と机を叩く音(笑)。

 しかし、周りがみなそうなってしまったことで、ロッドは逆にまた自作の曲に戻ったというのは、ロッドにもまだまだロッカーらしい反骨精神があり、人を食ったいたずら小僧的な面があるのは楽しいですね。

 もっと落ち着けよと言われるかもしれない。
 でも、まだまだ可能性があるのだから、そこに挑んでゆきたい。

 今のロッドはそんな気持ちでいるのでしょう。


 こうなると、早くも、ロッドは次のアルバムでいったい何をしてくれるのか楽しみで仕方なくなってきました(笑)。

 なんて、もちろん今はこの新譜を楽しみましょう。

 とっつきやすい、しかし奥が深い、ロッドの年齢にして出せる味わいのアルバムです。