◎BLACK BYRD
▼ブラック・バード
☆Donald Byrd
★ドナルド・バード
released in 1973
CD-0368 2013/2/26
ドナルド・バード氏が2013年2月4日、亡くなられました、享年80歳。
そのことを僕は、購読している吉岡正晴さんのBLOG「吉岡正晴のソウル・サーチン」の記事で知りましたが、それはあまりにもというタイミングでした。
その前日に、このCDが家に届いていたのです。
このCDは、HMVで1万円以上ポイント15倍とするために加えたもので、1月上旬に注文していましたが、一緒に注文したものの入荷が遅れ(リリース遅れ)、届いたのは2月になってからでした。
このアルバムはもう4年半ほど前からずっといつか聴きたいと思い続けていました。
ピーター・バラカンさんの本「魂(ソウル)のゆくえ」で、ジャズミュージシャンがソウル的なアプローチで聴かせて大ヒットしたアルバムとして紹介されていたからです。
でも、そういうのって、思った時にすぐに買わないと、往々にして先延ばしになるものですよね(笑)。
今回買ったのは、昨秋に出たEMIでジャズの名盤を999円のシリーズの中に入っていたからです。
999円って、ワーナーのATLANTICのR&B1000円への対抗でしょうかね(笑)。
まあ、安いのはいいことですが、しかし、世知辛いことを言えば、お店のポイントってだいたい100円で何ポイントとかだから、おまけをしてくれなければ1円足りないことで100円分のポイントをまるまる失ってしまうのが恐くて、これだけで買うのはずっとためらっていました。
だから、まとめ買いの対象としてつけたというわけです、国内盤で新しいから値引きはなかったのですが。
そのようなわけで、4年越しの思い、というと大げさだけど、漸く初めて聴くドナルド・バードが、結果として、追悼となってしまいました。
哀悼の意を表します、R.I.P.
◇
しかし音楽はそんなしんみりとしたものとはおよそ無縁で、とにかく楽しくなる明るい響きでとても気に入りました。
意外だったのは、予想していたほどジャズっぽくないことでした。
ぽくない、ではないな、ジャズっぽい、そうではなく、予想していたほど本格的なジャズではなかった、というべきでしょうか。
バラカンさんの本で、ジャズからのソウルへのアプローチの例としてもう1枚紹介されていたマイルス・デイヴィスのON THE CORNERは、確かにファンクだけど、でもひとことでいえばジャズだったので、これもそのようなものだと想像していました。
後のフュージョンに直結する音楽なのだと思いますが、でも、フュージョンと言い切れるものでもないかな。
僕はフュージョンが苦手で、ほとんどゼロといっていいくらいに聴かないのですが、逆をいえば、そんな僕がとても気に入ったのだからフュージョンじゃない、と言えるのかも。
いつも言いますが、ジャズだって音楽は基本R&Bですからね。
1970年代に入りソウルが本格化した中で、ジャズ畑のドナルド・バードとプロデューサーのラリー・マイゼルは、こういうソウルがあってもいいんじゃないか、という音を示したかったのでしょう。
収録されたすべての曲の作曲者にラリー・マイゼルの名前を見ることができます。
1曲目Flight Time
その通り空港と飛行機のSEから始まり、ほんとうに心が浮くようなトランペット他管楽器の音が楽しい。
まさに「ジェット・ストリーム」の世界で、懐かしくなります。
2曲目Black Byrd
もうひとつ予想と違ったのは、歌がある曲があることで、これもそう。
でも、その歌はいわゆるソウルのマナーではなく、素朴にさりげなく歌うといった趣きで、僕はそこに、今でいうワールド・ミュージックへの布石、とはいわないまでも、共通点を感じました。
つまり、歌い上げない、さらっと気持ちを表すだけで、歌が中心ではなくサウンドのひとつということ。
ソウルを期待するとここが引っかかるかもしれません、むしろ全部歌がないほうがよかった、と。
まあでも、ソウルじゃないですからね(笑)、ソウルとの共通点をジャズ側からやっただけで。
ギターがこちょこちょと喋るような音で面白い。
タイトルを歌うコーラスが心なしか"Bat Man"に聴こえてしまうのは・・・空耳でしょうね(笑)。
それからもちろんビートルズの曲とは関係ありません、なんて、言うまでもないか・・・
3曲目Love's So Far Away
4曲目Mr.Thomas
5曲目Sky High
最初がいかにも空を飛ぶ感じと書きましたが、聴いてゆくとこのアルバムの音は基本がそんな雰囲気でした。
低音があまり重たくなく、4曲目はロックでいう低音のリフがずっと鳴り続けているけれどそれは気持ちが上に伸びてゆけるように下支えしているという感じで、下に潜っていくものではない。
5曲目のタイトルをみると、空を飛ぶイメージは、アルバムとしてのトータルのイメージであることが想像されます。
よくよく考えると、名前が「鳥」ですからね、スペル1文字変えてますが。
5曲目にはコーラスが入っていますが、あくまでもサウンドをなぞるだけ、でもこの場合はその軽さがいい。
6曲目Slop Jar Blues
7曲目Where Are We Going?
最後2曲はヴォーカルが入った曲。
前者はブルーズと名はつくけれど一般的なイメージのブルーズではなく、あくまでもドナルド・バードの音楽。
ヴォーカルが少しカッコをつけて張り切った感じがします。
後者は、どこかで聴いたことがあると強烈に思う。
もしかして、いや多分、ほんとうに聴いたことがあると思う。
70年代にヒットしたアルバムだから、そういう曲があっても不思議はない。
この曲は歌メロがいい、だから余計に頭に残っているのでしょう。
最初はその旋律を楽器が奏でているけれど、後になったそこがヴォーカルに代わる。
やっぱり、これだけいい旋律が思い浮かんだのであれば、歌いたよなあ、それは人間として自然なことだと思う。
ただしそのヴォーカルは、やっぱり、ソウルの歌い方ではない、肩の力が抜けた普通の人間の声。
その声が、優しい旋律に包まれたり、逆に包み込んだり。
これはいい、そして懐かしい。
1970年代らしい素晴らしい曲と、また出会えました。
このアルバムはジャケットが面白い。
どこかのホールにバンドと、白い衣服の女性と、男性と、寸劇というかオペラ風で、物語を感じさせる素晴らしい写真。
このアルバムはアメリカでは大ヒットし、ブルーノートで最も売れたアルバムの1枚ということ。
おそらくほんとうにいちばん売れたのはノラ・ジョーンズのデビュー作でしょうけど、まあそれはいいとして、ジャズという大きなセールスをいつもはあまり期待できない音楽でヒットを飛ばしたのは、音楽のアイディアの斬新さがあったからでしょうね。
今聴いても、まったく古さを感じさせないといっていい。
でも、懐かしい。
なんだか矛盾するけれど、とても洗練された、上品な、時代を超えた音楽だと思います。
でも、日本では当時は、ジャズは「真面目なジャズ」以外は相手にされなかったそうです。
これは、最近読んだピーター・バラカンさんの「ラジオのこちら側で」で知ったことですが、日本ではフュージョンは受け入れられたと思うのだけど、これは時代が早かったのかな。
しかし今聴くと、そんなことがあったのは想像できない部分はありますね。
とても素晴らしい、聴きやすいアルバムで、正直言うと予想していたよりずっとよかった。
すっかりお気に入りの1枚になりました。