(参考:0413「政治危機、クーデター前夜の様相に」)


6月28日午前5時、ホンジュラスのマヌエル・セラヤ大統領は軍部隊によって、大統領警護隊との約20分の銃撃戦ののち、拘留され、コスタリカにパジャマ姿で連行された。これはラテンアメリカにおいて1970年代以来初めての軍事クーデターである。大統領はコスタリカからホンジュラス人民にたいし、平和的な抵抗を呼びかけるとともに、カトリック教会と米国政府にたいし、軍事クーデターにたいする立場を明らかにするように要求した。セラヤ大統領はコスタリカのサンホセ空港において、オスカル・アリアス大統領とともに、記者会見をおこなった。


6月28日の明けがた、約200人の軍部隊が大統領官邸に突入した。武装兵士は説明することなく、大統領機に大統領を乗せ監視した。コマヤグエラ空軍基地経由でサンホセに向かい、着陸許可を得た。アリアス大統領は公安省からのセラヤ大統領機の着陸の報告を受けるまでその事実を知らなかった。


セラヤ大統領の妻、ヒオマラ・カストロと4人の子供は、軍の襲撃時、大統領邸にいなかったが、逮捕を恐れ隠れることになった。パトリシア・ローダス外相など8人の閣僚が逮捕されている。ローダス外相は家族との連絡のなかで無事であると言明している。


ホンジュラス議会は12時34分緊急会議を開催し、マヌエル・セラヤ大統領の6月25日付の「辞任の書簡」を朗読、承認したのち、ロベルト・ミチェレッチ議会議長を、暫定大統領に選出した。123議席の賛成をえたが、セラヤ大統領を支持する統一民主党は見かけられなかった。任期はセラヤ大統領の任期の2010年1月27日までとされる。セラヤ大統領はこの書簡について偽物としている。ミチェレッチ大統領は、2日間の午後9時から午前6時までの外出禁止令を発布した。ミチェレッチ大統領は公共交通企業の経営者の60歳、自由党員で、かつて3回大統領に意欲を示したが実現していない。


軍部隊は6月28日早朝から、テグシガルパ、サンペドロ・スーラそのほかの都市に展開しており、ヘリコプターと戦闘機が上空を飛行している。戦車、軍用車が大統領宮殿などを占拠しているが、これを数百人の市民が包囲し、ブーイングなどをあびせている。テレビ会社などはその報道が規制されている。テグシガルパ中心部では警察部隊が、抗議行動にたいして催涙ガスで鎮圧をおこなっている。サンペドロスーラにおいては、人数不明の学生が、警察によって拘束されたもようである。教員労働組合は無期限のストライキ突入を決定した。テグシガルパの大統領宮殿前には約1000人の民衆がバリケードを築いている。


セラヤ大統領の「辞任の書簡」とは別に、最高裁が公安省をつうじ、政府軍にたいし、セラヤ大統領を憲法違反の名目で逮捕命令を出させたともされる。


米州機構(OEA)は、ホンジュラスのクーデターを認めないし、合憲政府の回復を要求した。4項目の決議は、①クーデター政府を承認しない、②マヌエル・セラヤ大統領の即時復権、③大統領、閣僚、高官、外交官の生命の保証、④6月30日に外相会議を招集することである。ホセ・ミゲル・インスルサ事務総長は、クーデターを強く批判したのち、ニカラグアで開催された中米首脳会議(SICA)に出席した。6月26日、OEAはホンジュラス政府の要請を受け、すべての政治勢力に憲法の枠内での行動を呼びかけ、インスルサ事務総長も調整のため、ホンジュラスを訪問の予定であった。ホンジュラスのカルロス・ソサOEA大使は、ホンジュラス政府の緊急要求はセラヤ大統領の復帰と軍の撤収であると述べた。


キューバのフィデル・カストロ前議長はコラム「汚れた過ち」のなかで、ゴルピスタ(クーデター実行者)にたいしては、退陣を要求するのみで、かれらとの交渉はありえないと書いた。ヒラリー・クリントン米国国務長官がクーデターを批判したことにもふれ、米国の支援すら得られないであろうと述べた。


米州人権委員会(CIDH)はクーデターを非難するとともに、ロダス外相ほか拘束されている閣僚の状況について明らかにするように要求した。


「人民のためのアメリカのボリーバル同盟」(ALBA)の緊急首脳会議がニカラグアで開催される予定であるが、これにはセラヤ大統領が参加する予定である。セラヤ大統領は、ダニエル・オルテガ大統領に迎えられた。ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は、マナグアに到着し、セラヤ大統領を復帰させるためのやらなければならないことをすべて行なうと述べた。これにはエクアドルのラファエル・コレア大統領、ボリビアのエボ・モラーレス大統領、キューバのブルーノ・ロドリゲス外相などが参加する予定である。


南米諸国連合(Unasur)は、クーデターを非難し、違法政権を一切承認しないことを宣言した。


メキシコにおいて、リオ・グループはクーデターを強く批判し、セラヤ大統領の即時、無条件の復帰を要求した。


南米南部共同市場(Mercosur)は、クーデターを非難し、ホンジュラスの憲法秩序の全面的支持を表明した。


中米議会のグロリア・オルケリ議長は、ゴルピスタ政府を承認することはないであろうと述べた。


ベネズエラのチャベス大統領は軍にたいし、警戒態勢を命令したが、ローダス外相が拘束されるさい、アルマンド・ラグナ大使がホンジュラス軍兵士によって殴打されたことにかんし、ベネズエラ大使館、ならびにベネズエラ大使にたいする攻撃は戦争とみなすと警告した。このさいキューバ、ボリビア大使も殴打されたとされる。


すべての中米諸国とドミニカ共和国がクーデターを非難しているが、南米諸国の多くも軍事クーデターをかつて経験しており、一様に非難声明を出している。アルゼンチン、パラグアイ、チリ、ブラジル、コロンビア、ウルグアイ、ペルーなどがセラヤ大統領の復帰を要求している。メキシコ政府もクーデターを批判し、早期に人権、憲法、民主主義の復活を要求している。(0415)