六覚燈の幸せな時間 | ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

ワインな日々~ブルゴーニュの魅力~

テロワールにより造り手により 変幻の妙を見せるピノ・ノワールの神秘を探る

ホテル自慢の特別料理のフルコースに700円のワイン、という豪勢なディナーに
キレてしまったレポートにかまけて、六覚燈の幸せな時間のことを書くのが
遅くなってしまった。
ごめんなさい、中山さん。

いつもこの店に行くときは、午後休診日である木曜日の6時に入る。
その時間にはお客さんはまばらで、われわれ以外には誰もいないこともあるが、
1~2時間もすると必ず全部の席が埋まってしまって、店全体が活気づく。
そしてパラパラとお客さんが帰り始め、最後にわれわれだけが残る、ということになる。
まことに迷惑千万な客である。
ごめんなさい、おかみさん。

地元の医師連合会(医師会とちょっと違う)の会報に、「私のお勧めの店」という
題名で原稿を頼まれたので、迷わずこの六覚燈のことを書くことにした。
その原稿もどきを、ここにも載せてしまおうと思う。

この店は、誰にでもお勧めできる。
店のオモテには「串カツとワイン」という、知らぬ人なら首をかしげる看板がかかっている。
黒門市場の入り口の小汚い(失礼)ビルの2階にこの店はあり、1階は100円ショップだ。
狭い入り口を入って階段を上って店に入ると別世界が広がっていて、
初めて来た客は皆驚くだろう。

別にワインなど飲まなくても構わない。
串カツだけをとっても、ここを上回る味の店を探すのは難しい、と思う。
今日のような暑い日には、生ビールをあおって揚げたての熱い串カツを食べるのも良い。
ただし、尿酸値を気にしなければ、の話だが。
それなら予算1万円で十分満足できるだろう。

わたしは美味しいワインさえ飲ませておけば機嫌が良い、という人間なので
串カツとワインを注文するが、ワインの銘柄を指定したことはない。
そもそもワインリストというものがないし、1本1本のワインの価格を尋ねたこともない。
その日その日で全体の予算を伝え、今日は○本飲みますと宣言し、赤白くらいは指定する。
あとはソムリエの中山さんに任せるだけ。

予算に上限をつけなければ、100万円のワインだって出てくるのがこの店のすごい
ところである。
しかし、まだわたしはそこまで金持ちではないので、ずっとおとなしくしている。

例えばワインを5本頼めば、うまく価格で帳尻を合わせて、流れが作られて出てくる。
その際の中山さんのお手並みを拝見する、というのが楽しみの1つだ。
わたしはワインに関してはプロではないが、非常に勉強になる。
例えば、1本目は柔らかい古酒、2本目は若めで力強いワイン、そして3本目は
真打ちの深みのあるグラン・クル、といった具合である。

これまでわたしは「ブルゴーニュの赤3本」という偏った注文をすることが多く、
最初は中山さんに「変わった客だ」と思われていたと思う。
この店ではずいぶん印象に残る古酒を格安で飲ませてもらった。

しかし今回は初めてのメンバー2人と一緒ということもあって、夏らしく「泡・白・赤」の3本
ということにした。
当然シャンパーニュ・ブルゴーニュ・ブルゴーニュである。


J.M.ゴビヤール キュヴェ・プレスティージュ ミレジム 2002
飲んだ日   2007年7月19日
インポーター 日食

「ドン・ペリニヨン修道僧がその生涯を過ごした、シャンパンの聖地・オーヴィレで
造られたシャンパン」ということで、エチケットにドン・ペリニョンさんの姿がある。
細かく繊細な泡と強めの酸が印象的で、香りはさほど立たないが、後口も長い。

恐縮なことに中山さんはこのブログを覗いて下さっており、わたしがドライで酸が強い
シャンパーニュが好みであることをお見通しなのである。
これがまた串カツと合うのだから面白い。


シャトー・ド・ピュリニー・モンラッシェ 1er ラ・ガレンヌ 2000
飲んだ日   2007年7月19日
インポーター JALUX

この店で白を飲むのは久しぶりだなあ。
それほど古いヴィンテージではないが、甘い香りがグラスを満たす。
デキャンタせずに供され、少しずつほぐれて酸味が立ち上がっていくのを楽しんだ。
香りから想像するよりドライで、樽香もほとんど感じず、うまくとけ込んでいるなと思った。
非常に洗練されたシャルドネで、これまた好みを上手く突いてこられているのに感心した。


ブシャール・ペール・エ・フィス コルトン 1993
飲んだ日   2007年7月19日
インポーター サントリー

さて最後は毎度のブルゴーニュの赤。
飲み頃のヴィンテージかと思われたが、わずかにピークを過ぎ、土俵際の印象であった。
もっともこちらも最近相当にブル赤に対する審美眼が磨かれており、2~3年前には
感心したワインでもだんだん満足しなくなっているのも事実である。
もう少し果実味がしっかりと残っておれば良かったな、と思ったが
この日の最後を締めるにふさわしいグラン・クルであった。

明るいお嬢さんだった水本さんが東京の店に引っ張って行かれて留守だった
のが少し寂しかったが、串を揚げる職人さん(ごめんなさい名前を失念しました)の
笑顔は変わらなかった。
彼の油を切る手さばきは見事で、彼と一言交わさなければこの店に来た気がしない。

最近、串を片手に出てくるワインを論じるのがバカらしくなってきた。
美味しければ、ワインの産地や造り手やヴィンテージもどうでもいいや、
と思うようになった。
年代物のブルゴーニュを無理して高い予算で飲むということをしなくとも、
この店ならストックも多いことだし、低価格でも楽しめるワインを出せる懐の深さもある。
と思いながらも、この日も結局ブルゴーニュで、中山さんの手の中で見事に踊らされ、
楽しませてもらった。

やはり六覚燈はわたしを裏切らない。
この店に行くのをためらわせる最大の要因は、脂肪肝かも知れない。