絆 ( 37 ) | 君がために奏でる詩

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絆~三十七話~






遠いところで・・・声が聞こえた。

あたしを呼ぶ、小さな、でも必死な声が・・・。


光に手を伸ばすように目を開くと、真っ白い服を着た人たちが、

あたしを驚いた様子で見ていた。


「神山さんっ!?」


声のするほうに目をやると、出産を手伝ってくれる女医さんがいた。

辛い・・・苦しい。

そして凍えそうなくらい寒い。

でも、でもね。


「旦那さんたち呼んで来ますから!

もうちょっと頑張ってくださいね!」


旦那さん・・・?

陵のことだ。

あたし、産めたのかな?


そう・・・そうだ。

あたし、言わなきゃ。

最期にどうしても、言わなきゃならないことがある・・・。



陵side


病室のドアが開いて、中に通される。

女医さんは、ポツリと言った。


「残念ですが、最期の時間です。

奥さんは奇跡的に意識が回復しましたよ」


僕はその言葉に、考えるよりも先に体が動いた。

皆、走って未来さんの周りを取り囲むように見る。


「未来さん・・・!」


「・・・りょ・・・ぉ・・・・

赤ちゃん・・・・ど、こ・・・」


それは、と言おうとしたとき。

看護師さん二人が赤ちゃんを抱えて、そっと未来さんに見せた。


「女の子と、男の子ですよ。

ちゃんと元気に生まれてきましたよ」


その言葉に、未来さんは震える手で赤ちゃんに手を伸ばす。

女医さんが、赤ちゃんを未来さんの横に寝かせる。


赤ちゃんは、すやすや眠っていて。

未来さんは、そっと赤ちゃんの頬を撫でると、一筋の涙を流した。


「・・・かわい・・・い・・・

女の子なら・・・美華。

男の子なら・・・陸、斗・・・って、決め、てたの・・・」


ぼくは頷くことしか出来なかった。

さくらさんも未来さんを見ながら、泣きそうな顔で微笑む。


「ええ名前やん・・・

きっとあんたらに似て・・・」


未来さんはそっと笑った。


「さくらちゃ、龍・・・今まで、ありがと・・・

凄い・・・・楽し、かったよ・・・」


その言葉でさくらさんは号泣しだした。

龍羽くんも顔を伏せて。


「なんやそれ・・・!

お別れの言葉なんか、いらんねん・・・!」


「・・・そ、だね・・・」


未来さんは、さくらさんの頭にそっと手をやった。

優しく、慰めるように撫でて、手を放した。


「お母さ、お父さ・・・

あたしを、あたしで産んでくれて・・・ありが、と。

幸せ、だったよ・・・」


「未来ぅ・・・」


お母さんもお父さんも、すすり泣いていて。

お父さんは、未来さんの手をそっと握った。


「未来こそ、父さんたちの娘で、ありがとう。

本当に未来は・・・親孝行な娘だよ・・・」


「そう・・・ありがとう・・・未来」


そして、未来さんの視線が僕に注がれた。

未来さんは、そっと僕に向かって両手を伸ばした。


僕はぎゅっと未来さんを抱きしめる。

折れてしまいそうで、そっと。


「未来さん・・・約束、しましたよね?

僕の妻は永遠にあたなだけって・・・

愛してます、ずっと、ずっと・・・・・・」


未来さんの涙が僕の肩に落ちた。

震える声で未来さんは・・・・・


「あたしは・・・永遠に、陵のこの腕の中にいる・・・よ」


僕はその言葉に、ぎゅっと目をつぶる。

泣いてしまいそうだったから。

何も言えなくなってしまいそうだから・・・。



「き、み・・・をー」


今様だ。

たどたどしく、けれど詠っている。


はじ・・・め、て・・・・見る折・・・・は・・・・・

 千代、も、経ぬべし・・・姫、小、松・・・・・・

御前、の・・・・・・・・・・




僕の腰に合った未来さんの手が、力なく落ちた。

さくらさんの息を呑む声が聞こえた。


恐る恐る、未来さんをゆっくりと離す。


「未来・・・さん・・・?」


目を閉じて、幸せそうに口元には笑みを浮かべている。

・・・嘘でしょう?

未来さん・・・?


女医さんは未来さんを一旦ベッドに寝かせ、聴診器で脈を測って時計を見た。


「17時55分・・・ご臨終ですー」


わあぁっと悲痛な叫び声が、部屋に響いた。

龍羽くんの胸に顔をうずめて泣くさくらさん。

未来さんのお母さんの肩を抱く未来さんのお父さん。


僕は未来さんを見たまま呆然として。

何が現実だか分からない。


さっきまで・・・生きていたのに?

話していたのに?

笑っていたのに・・・!?


「未来さん・・・!!

目を・・・覚まして・・・・・・」


何度肩をゆすっても、何度名前を呼んでも。

未来さんは微笑んだまま、僕に応えてくれることはなかったー。