絆~三十三話~
夢か現実か分からない、ぼやぁっとした世界。
あたしはベッドで横になっていて。
お母さんも陵も、さくらちゃんもいる。
みーんな、あたしを泣き腫らしたような目で見てる。
言うこと聞かない体を動かして、口についてる酸素マスクをとる。
『あたしのこと・・・忘れていいからね?』
「未来さん!」
途端に鮮明になった世界。
あたしは、陵と一緒に眠ってた。
陵があたしを心配そうに見てて・・・。
「怖い夢でも見ましたか・・・?」
「へ・・・」
あたしの頬に流れてる涙を優しく拭いてくれる。
その時まで、泣いてたことなんて気づかなかった。
「・・・覚えてない・・・」
どんな夢を見たっけ・・・?
でも、なんだろう。
凄い不安な気持ちになる。
怖くは無い。
でも、いずれその時は来る。
そんな気がしてならない。
お願い。
おねがい・・・。
どうか、そんなことはありませんように。
幸せな夢で、ありますように。
二ヵ月後、秋。
お腹が目立ってきた。
あと少しで、産まれそうなんだって。
今日は、陵が神社のお祭りだから来れないらしくて。
病室から眺めてたな。
いつ来るのかなって。
「・・・よしっ」
あたしは丁寧にそれを二つ折りにして、入れる。
ベッドの下に隠すと、これでもう終わりなんだなって思う。
二ヶ月間のあたしの仕事。
それは終わりを迎えて・・・。
一人でいると、コンコンっとノックの音がして。
返事をすると、龍。
「龍。
・・・さくらちゃんは?」
一人で来るなんて、滅多に無いのに。
龍は、
「さくらは舞の練習中だ。
今日は来れないと伝えてくれと言われて」
「そっか。
ありがと、龍」
「別に構わない」
素っ気なく言うけど、ちゃんと気持ちがあること分かるんだよね。
前よりずっと感情を出すようになったし。
「未来、ちょっと付き合ってくれるか?」
「?うん」
連れ出されたのは、外。
病院の外はいいのかなって思ったけど、大丈夫らしいし。
「俺、将来医者になりたいんだ」
唐突に言われた言葉。
龍の顔を見ると、少し照れてるようだけど・・・真剣で。
「未来が入院している間、たくさんの病気の人たちと会って、衝撃を受けた。
桜咲家に来る人以外にも、こんなにも多くの人が苦しんでいるんだと・・・。
さくらみたいな力はないが、救ってあげたいと思うんだ」
あの無口な龍が・・・。
こんなにも自分のこと言うって意外で驚いた。
「龍なら、なれるよ。
あたしが保証する!」
ドンッと胸を張っていうと、龍は微笑んでくれて。
「大学にも編入試験を受けて、合格したから・・・
明後日から行こうと思う」
「凄いじゃん!
でもさ、医者になるんだったらもうちょっと愛想よくしなよ?
龍、怖そうに見えて優しいんだから」
「・・・褒めてるのか?」
「うん!」
力いっぱい頷くと、龍は少し笑った。
「ありがとう」
そう言って、病院の前で別れた。
ゆっくり自分の病室に戻ると、看護師さんが駆け寄ってきて。
「神山さん!
長時間の外出は控えてくださいね?」
「すみません・・・」
ちょっと注意されて、ベッドに座るのを手伝ってくれた。
夕食持ってきますね、そう言って笑顔で出て行った。
ふぅ、と息を吐いて窓の外を眺める。
夜の闇が、辺りを支配していっていた。