【124】偶然か 運命か | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


 数年ぶりに降り立った、あの駅…。
 感慨深げに改札を抜け、周囲を見渡した。


(あの公衆電話… まだ、あったんだ)


 誰もいない公衆電話に、井沢さんの影を映してみる。あの頃、彼はここから、私の家に電話を掛けてきていた。
 あの頃は、確かに私は彼の近くにいた。――会社に行けば、毎日会えるという近く。でも、それで十分に幸せだった。高望みをしなかった私の生活は、ただ、井沢さんとたわいのない会話が出来て、顔を合わせて笑い合えるだけで満ち足りていた。
 ささやかな幸せが消え去り、ポッカリと開いた心の穴。

 数年が経ち――、終わってしまったが、初めての彼氏も出来て、心の穴は塞がったと思っていた。…だが、そうではなかったようだ。

 “もう会えない人を想っている”という気持ちに、蓋をしていただけ。
 壁側に寄り、公衆電話を見ていたら、涙が零れ落ちた。泣きたくて出た涙ではなかったから、自分でも解らない感情に驚く。

 この場所に来た理由――… 理由なんて、特別には無い。気付いたら、足が向いていただけだ。ここに来たから、井沢さんに会える訳ではないことくらい、私にも解る。彼が行く先は、ここだけではないのだし。それに、来ていたとしても、携帯電話が普及する以前とは違うのだ。今は公衆電話など、使わないだろう。教会の中から、携帯電話を使えば済む事だ。

 勝手に足が向いたとはいえ、ここまで来たのだ。出来ることなら、一目だけでも井沢さんを見たい。――会いたい。でもまさか、教会に行けるはずもなく…。
 私は、井沢さんが今でもこの駅を利用していると思い、彼がいつも目にしているだろう景色を、目に映す。
 殆ど変わっていない駅の構内をグルリと眺めた後、大きな出入口の端から少しだけ身体を出して、外に目を向けた。

 空車のタクシーの、長い列…。そういえば、こんな感じだったかな。たくさんの人が行き交う駅だから、タクシーは常に停まっていたっけ。懐かしい景色に、以前の記憶を重ねる。
 教会の方に続く歩道に目を向けると、切なさが一気に膨れ上がった。大好きな人と、ある意味複雑な気持ちで歩いた歩道。

 視線を移した瞬間、私はその目を疑った。
 もう二度とないであろう、偶然を――。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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