【105】思い出して | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


裏切られていると明白なのに、互いの想いは擦れ違いどころか「無」なのに、捨てられる事が怖くて堪らない。

岩田さんからしても、自分がこれだけ冷めたサインを出しているのに、まだ追い縋る私が怖かったのではないかと思う。

だからといって、私だけが悪いの? …違うよね。


「――出来た!」


刺繍を施した生地を袋状にして、ミシン掛けをし、ファスナーをつける。
手芸店で買った、綿のクッションを入れた。

既製品のようにはいかないけれど、不器用なりに上手く作れたと思う。

ただ…。
手作りの物は、こんなに冷めきった関係の今ではなくて、幸せに包まれていた時に作りたかった。
岩田さんは、どういう気持ちでこんな要求をしたのだろう…。
頼まれたとはいえ、彼が本当に受け取ってくれるのかさえ、不安になってくる。

――まただ。胸が痛み出す。
近頃は、痛みが頻繁に襲ってくるようになっていた。
私は、前屈みに体勢を倒し、ゆっくりと息をする。テーブルに手をついて立ち上がろうとしたが、目眩までしてきた。

鏡に映る私は、照明のせいか青白い顔で…。
肌も手も、カサカサしている。
毎日きちんとお手入れをしているのに、一向に良くならない。

そういえば…
岩田さんは、毎日顔を合わせているのに、全然気付いてくれない。
「大丈夫?」と、言われたことさえないんだ。
浅尾くんは、見ていてくれたのに…。

溜息がこぼれる。


「クッション、喜んでくれるかな…」


大袈裟に喜んで欲しいなんて思わない。
少しだけでも、頬を緩めてくれたら、それだけでいい。
私の存在を思い出してくれたら、それで――。

…もう、何も考えないようにしよう。
明日、嫌でも悩んだり、悲しんだり、考えたりするだろうから。


プレゼント用に綺麗にラッピングをして、想いも一緒に紙袋に入れた。




・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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