【50】あの街に | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


何事もなく―― と言っては嘘になるから、
小さな不満はあるけれど、それなりに穏やかな日々・・・?

そんな毎日を送り、季節は夏を迎えていた。

以前話が出ていた、4人で飲みに行く話は、
流れに流れて・・・というか、有耶無耶な感じで立ち消えた。

悪いとは思いつつも、少し男の人から離れたかった。

岩田さんは別、でもなく・・・
ただ、なんとなくだけど、男性に疲れてしまった。

男性アレルギーなんて、あるのかな?


この頃の私達には、小さな変化があった。

私達ではなくて、 “彼の変化” になるのだろうか。


休日のデートには、毎回ではなかったが、
いつものように私の家の近くまで、車で迎えに来てくれていた。

それがいつしか、時間をかけて電車を乗り継ぎ、
指定の時間、場所へ、私が出向くようになっていた。

大体が、彼の家の最寄駅前とか、
彼が通っているという、スポーツジムの近くまで。

これまでは、彼の迎えが多かったし、不満を言うこともなく、
頷いて岩田さんに従っていた。


彼の家でのデート・・・
ホテル代わりというのがバレバレだが、そんな事も増えた、、夏。


「夜は、肉でも食べに行くか」


以前にも書いたように、岩田さんは食べ物に煩い。
拘りがあるというか、グルメというか。

行きつけの焼肉屋は、客の9割が韓国人という、
煙がモクモクの店なのだが、この日は別の店に行くという。

とりあえず・・・ いつもの通り、彼が主導なのだから、
全てを彼に任せておけば良い。

私は多くを聞かずに、車の助手席に座っていた。

.
.

夕暮れ時。

車窓を流れる景色が、見た事のある風景に変わっていた。


「・・・ ヒロくん、何処に行くの!?」


聞いた私の声は、少し震えていたように思う。

だって、この先は ――――・・


「友達から聞いていたんだけど、行くのは初めてなんだ。
 駐車場なさそうだし、この辺から歩いて行くか」


脇道に寄せての、路上駐車。

一方通行の狭い道路から、少し歩けば広い通りに出る。
たくさんの道行く人に近づくにつれ、私の鼓動は早くなった。


( ・・・ 全然変わってない。 あの街だ ・・・ )


あのクリスマスの日、髪留めを見に入った店が見える。
そして、指輪を買ってもらった、あの店も ―――・・


私が青春を過ごした、大切な想い出が詰まった街。
井沢さんと歩いた街。

この街へは、あの頃を知る友達以外とは、来たくなかった。

想い出に固執しすぎていることは、充分に認識しているが、
誰にも邪魔をされたくなかった・・・。


( もしも、今・・・ 井沢さんと再会したら・・・ )


そう思うだけで、涙が滲んでくる。
私は、あの頃のことになると、極端に涙腺が弱くなるらしい。


「おい、何してんだよ。こっち」


大通りで立ち止まった私に、岩田さんが声を掛けた。

これまで感じたことのない、強い違和感。


私は何故、この人と此処にいるんだろう。 ・・・って。


「あっ、うん。ゴメン」


大通りを横切り、反対側の路地へと入って行った。

.
.


一見、焼肉屋とは思えない外観のお店。
店内も新しく、出来て間もないらしかった。

私が、この街を離れた後に出来た店・・・か。
そう考えると、何処か感慨深い。

店内は座敷席だけで、開店時間から間もないが、
既に二組の客がいた。

私達は、店の奥へと進んでいく。


先に飲み物を頼み、メニューを見ていると・・・


「あの、もしかして・・・ 椎名さん?」


名前を呼ぶ女性の声に、驚いて顔を上げる。
それは、岩田さんも同じだった。


「ああ!やっぱり、椎名さんだ! お久しぶりです」


満面の笑みの彼女は、以前勤めた会社のひとつ後輩で、
しかも、当時は面識が無かったが、高校の後輩だった。

淳ちゃんと同じ職場で、二人はウマが合うというのか、
公私とも仲良くしている子だったから、私もよく知っている。


「・・・あ! 三上ちゃん!?久しぶりだね!」

「ビックリしましたよ!人違いかと思いました。
 雰囲気変わっちゃって・・・って、彼氏さんですよ、、、ね?」

「ん、うん・・・」

「すいません。お邪魔しちゃって。・・・失礼しました」


ふくよかな体型で、いつもニコニコと明るい三上さんは、
以前のまま、変わっていなかった。

岩田さんにも頭を下げ、自分の席へ戻って行ったのだが、
彼女もまた彼氏を連れていて・・・
その相手は、彼女の同期で同じ職場の人。

話した憶えはないけれど、顔だけなら知っている。


三上さんは、以前、私と井沢さんとの事を真っ先に疑った子。
色々な意味で、今の私のプライベートを知られなくなかった。

井沢さんとの事を、怪しまれたままが良かった・・・なんて。


「何?あの子。知り合い?」

「うん。前の会社の後輩なの」

「へえ。・・・って事は、この近くに勤めてたのか?」

「・・・話したこと、あるじゃん」

「そうだったっけ?」



もう慣れたけど、いつも思う。

この人は、私のことには興味が無いんだな・・・。





・「この人誰?」と思ったら → 登場人物
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