【151】あと二週間 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


一日が倍速で進んでいるかのように、

気が付いたら夕方だった・・・ という日々を送っていた。


大切な一日を、無駄にはしたくないけど、

私ひとりがそう思ったところで、事態は何も変わらない。


課長から発表があってから、

井沢さんは社内での事務仕事は後回しで、

後任の営業さんを連れて、挨拶回りに走る毎日。


定時後に戻ることはザラで、顔を見れない日が続くこともある。



こういう時にこそ、携帯電話に掛けたら良いのに、

タイミングが解らないまま、彼の電話番号は手帳の中・・・。


本当に掛けていいのかな?

忙しい人だから、この時間は迷惑じゃないかな?


そんなことばかりを考えて、いつも深夜を過ぎてしまう。


・・・ こんな私だから、まだ一度も、携帯電話に掛けていない。


そして今も、部屋の子機を見つめては、溜息をついている。

前は、このくらいの時間に、掛けてきてくれたよね・・・。

壁の時計は、二十二時を過ぎていた。



時計と子機を、交互にボンヤリと見ていたら、

ピカピカと、子機の「通話」ボタンがオレンジ色に光った。



TRRRRR TRRRRR.....


「わっ・・・!」


ボタンの点滅から少し遅れて、子機が鳴りだす。


あまりにもボンヤリしていたから、

それが着信の合図だと、すぐには認識出来なかった。



不意打ちすぎる着信音に、心臓がドキドキしている。


この時間の電話は・・・ 井沢さん? 友達??



「はーい」


私あての電話が確定している時間帯だけに、

電話の出かたが、 “雑” というか “ラフ” になる。



受話器の向こうで、クスッと笑ったのが聞こえて・・・



「ホント、仕事の時とは、全然違うのな」


開口一番に、そう言った井沢さん。

って、アレ?

この感じは、公衆電話?

聞き慣れた雑踏の音や、ブザーみたいな音でそう感じる。



「井沢さん! ・・・ お疲れさま」

「うん。 久しぶりだね、電話するの」

「そうだねー。 ちょっと、驚いちゃった。

 あ、ねえ。 この電話、公衆電話から?」

「よく判ったな! 前によく使ってた所から掛けてるんだ」



よくよく聞けば、通話料金がバカにならないので、

携帯電話は、受話専用に使っているようだった。


・・・ なにしろ、二十年近く昔のことだからね。



「それよりさ、明日は来るの? 俺の送別会」

「行くよ、もちろん。 全員出席だって、聞いてない?」

「・・・ んー。 聞いてるけど、確認しておこうかと思って」


井沢さんは、本当にそれだけを確認したかったらしく、

私の返事を確認したら、

「じゃー、明日!」 

・・・と、電話が来て嬉しい私の気持ちは置いておき、

受話器を置いてしまった。



「・・・ いつもながら、勝手な人だよ~。 もう・・・」


子機を戻して、カレンダーに目を向ける。



彼との時間も、あと二週間。


さっきの会話でも出たように、明日は彼の送別会。

予め出欠は取ってあり、全員参加となっていた。


井沢さんが飲み会に出るなんて、とても珍しい。

自分の為に開いてくれるものを、断るわけがないけど・・・。


最近で思い出しても、彼が参加した飲み会といえば、

昨年末の忘年会以来。



送別会が終わったら、それこそ 「あっ!」 という間なんだろう。


( 明日は、絶対に泣かないようにしないと・・・ )


職場だけの飲み会は、本当に内輪だけになるから、

私は気楽で好きだった。


“何かあったら、トイレに逃げればいいよね・・・”


そう言い聞かせて、

刻々と迫る サヨナラ に、立ち向かっていった。




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