背壁残燈経宿焔
開箱衣帯隔年香
―壁に背ける燈は宿を経たる焔を残せり、
箱を開ける衣は年を隔てたる香を帯びたり
「早夏暁興」―白居易
皐月最後の週末は爽やかな五月晴れとなりましたが、
いかがお過ごしですか?
来たる6月1日は夏服に替える“衣更え”の日で、
由美ママはようやく数段の桐の箱の中から、
“薫香”焚きこめた“一重”の着物を取り出し、
明々後日からの「更衣」に備えていますが、
この“衣更え”とは、由美ママブログ(2010年5月23日号)
http://ameblo.jp/ginzayumimama/entry-10542026602.html
でも書きましたが、
かつて宮中では旧暦の四月一日をもって「更衣(ころもがへ)」とし、
現在の“衣更え”はこの習慣が庶民に普及したものとされ、
「更衣」とは同時に“夏のはじまり”でもありました。
まだ”袷”の着物 由美ママ&杉本 彩さん http://ameblo.jp/sugimoto-aya/
由美ママ&彩さんは昨夜、贔屓の『銀座小十』へと出かけました。http://ameblo.jp/ginzayumimama/entry-10363332436.html (2009年10月13日号他)
西岡小十の掛軸と“てっせん”の生け花
さて、掲歌はそんな「更衣」の雰囲気がよく表れている「白居易」の詩ですが、
この詩は実は、平安王朝の貴族に愛唱され、
詩歌や美意識を学ぶ必須の教科書にもなっていた『和漢朗詠集』の
「夏の巻」<更衣の歌>に記されており、
その巻頭は日本人の作った詩歌ではなく、
平安貴族に殊の外、愛された「白居易」のこの詩で・・・
「夜も短くなった。
壁に向けた燈火は、
一夜を経てもまだ燃え尽きずにいる。
今日は衣替え。
箱を開いて取り出た衣は、
去年焚き染めた薫香をいまだに帯びている。」
といった意味のものです。
この歌は、そんな昔の夏・・・と云うものを、
前の年に炊き染めた夏衣の香りとともに始まったのを教えてくれるかのようで、
リアルな生活感をそのまま詩に昇華させているように思われますね。
解禁前の“養殖鮎”と由美ママ好みのポメリー http://www.mercian.co.jp/pommery/
徳島産“アオリイカ”と“真鰈”と京都舞鶴の鮪
また、このように中国の詩ではあっても、
この「更衣」の部分が『和漢朗詠集』に採られたのは、
平安貴族たちにも、強い実感とともに受け止められたからなのでしょうが、
前の年の衣に染みた“薫香”は、虫除けのために焚かれたものでしょうか・・・?
それとも、個人的に好んで多く用いた香りや、
流行りの香りなのでしょうか・・・???
何れにしても「更衣」の日とは、
心は過ぎ去った前年の夏へと戻り、
喜怒哀楽や失ったことの数々を蘇らせながら、
また新たな夏を迎える準備をすることになり、
“香り”というのは、
心の過去と今を繋ぐもので、
過ぎ去った様々なものを“香り”の中に思い出し、
そして心の中で遡行を繰り返しながら、
人は現在を生きる力を得ていくもののようですね。http://www.t-net.ne.jp/~kirita/po/toro21.html
“ポメリー”の女王“キュヴェ・ルイーズ”
http://www.mercian.co.jp/pommery/sommelier/2007/louise.html
大洗の鱸と琵琶湖の鰻の焼き物は”北信シャルドネ” http://www.chateaumercian.com/cm/sanchi/hokushin/index.html
『銀座小十』は、一ヶ月先までの予約しか受け付けておりませんが、西岡小十の器で”侘び、寂”びの風雅なるひとときを、味わってみてはいかがですか? http://www.kojyu.jp
けふ更に かへまくもなし 馴れきつる はな色衣 ころも経ずして
―「室の八島」<更衣>
それでは、いよいよ色とりどりに、花の色の袂を染めて楽しんで着ていた“袷”の時季も終わり、
“夏の薄衣”に替えなければならない“更衣”ですが、
どうか絹の重さに、そっと別れを告げられるようなよき週末をお過ごし下さい。