社会保障と税を考える(21.日本は低負担。法人税が高く所得税と消費税が安い)
今回からは税について。
社会保障の大幅な削減が行われず、少なくとも16~17兆円(おそらくは20兆円程度)の増税が必要という前提のもとで、その選択肢について考えます。
増税なんか必要ない!という方は、これまでの連載のこの辺りをご覧ください。
2.インフレ、経済成長で解決というのは幻想
4.消費税10~15%分の収支改善と、経済成長が必要
6.社会保障以外のカットの上限は3~4兆円
20.社会保障を充実するか削るかの議論が欠けている
今回はまず、税制の国際比較をしていきます。
1.日本の税制はかなり低負担
日本の租税負担率(租税/国民所得(NI))は、22.0%(2009年度)。
OECD加盟34カ国から、データ不足のトルコとエストニアを除いた32カ国中、30位です。日本より低いのは、アメリカとメキシコ。
社会保険料も合わせた国民負担率で見ると、38.3%で27位(2009年度)。
日本より低いのは、スイス、韓国、アメリカ、チリ、メキシコ。
65歳以上の高齢化率は、日本はOECDで断トツ1位の22.1%(2009年度)。
国民負担率が日本より低かった5か国は、少し古い2005年のデータですが、スイス15.4%、韓国9.4%、アメリカ12.3%、メキシコ5.8%(チリは見つけられず)。
つまり、日本は最も高齢化が進んだ国でありながら、税と社会保険料の負担が他の先進国と比べてかなり低めということです。
なお、だから増税して当たり前と言うつもりはありません。
低福祉低負担という選択肢はあります。ただ、今は低負担だという事実だけは押さえておきましょう。
2.日本は法人税が高く、所得税と消費税が安い
次に、租税負担率の内訳を見ていきます。
小国をずらずら並べるとわかりにくいので、先進国の中で日本に匹敵する大国、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国と比較します。
このグラフを見ると一目瞭然ですが、日本は個人所得課税(所得税、住民税)が安く、法人所得課税(法人税、法人住民税、法人事業税)が高い。
消費課税(消費税、個別商品(車・ガソリン等)への課税)は、アメリカよりはやや高いが、イギリス、ドイツ、フランスの半分ぐらい。
これも、だから所得税と消費税を上げ、法人税を下げるのが当たり前と言うつもりはありません。
何税を上げてもいいし、上げなくてもいいです。ただ、事実だけ。
ここからは、もう少し個別に詳しく見ていきます。
(1)高い法人実効税率
法人実効税率で見ても、日本は他国より高めです。
ただ、この法人実効税率という指標は必ずしもあてにならない(分母になる法人の利益の定義が国により異なり得る)ので、上で示した、租税負担率の内訳で見る方がいいような気がします。
こちらは、実際に徴収した税金の額ですからね。
いずれにしても、日本の法人税は高め、控えめに見ても安くはない、というのは事実かと思われます。
(2)中所得層の所得税が目立って安い
個人所得課税が安いと書きましたが、どの所得層が特に安いのかを見てみます。
年収500万円、700万円、1000万円のどの所得層で見ても、日本の個人所得課税が有意に安いのが見て取れます。
ただ、これをさらに年収の高い方に伸ばしていくと、違う様相が見えてきます。
年収300万~700万円といった中所得層で目立って安く、2000万~3000万円の高所得層になると差は縮小し、アメリカ、フランスとほぼ並ぶのがわかります。
(3)消費税は見た目の税率ほどの差はないが、ヨーロッパの1/2~1/3
消費課税は、アメリカが安いのは明らか。ヨーロッパとの比較をしていきます。
消費税率は、日本5%、ドイツ19%、イギリス20%、フランス19.6%(2012年)。
しかしもちろん、ヨーロッパの消費税は軽減税率があるので、単純に5%と20%だから4倍!とは言えません。
食料品で見ると、ドイツは7%、フランスは5.5%、イギリスに至ってはゼロです。その他、水道、書籍、薬、電車、ホテル、外食などが軽減の定番のようです。
軽減税率が、庶民にとって重税感を大きく和らげる効果を持っているのは間違いないですね。
食料と本と薬と電車が軽減されていたら、あとは日々買う物はちょっとした日用品ぐらいですし。
次に、標準税率と軽減税率をならして、消費全体をトータルで見たときの平均的な税率はどれぐらいかを見てみます。
「すべての消費に標準税率で課税した場合の理論上の税収に対する、実際の税収の割合」という「VRR(VAT Revenue Ratio)」という指標をもとに計算してみます。
標準税率 VRR 消費に対する消費税収の割合
日本 5% 0.67 3.4%
ドイツ 19% 0.55 10.5%
フランス 19.6% 0.49 9.6%
イギリス 17.5% 0.46 8.1%
データはいずれも2008年のものです。イギリスは2011年に17.5%から20%に増税しているので、増税前の数字です。増税後もVRRが0.46で同じなら、9.2%。
なお、日本のVRRが1でないのは、土地取引や医療や学校教育が非課税なのと、輸出がゼロ税率なのと、小規模事業者が免税になっている影響ですね。
ドイツ、フランス、イギリスの消費税は税率約20%で、見た目は日本の5%の4倍ですが、実質的に見ると約9~10%で、日本の3.4%の約3倍となります。
日本を標準税率そのままの5%としても、2倍はあるという感じです。
3.まとめ
まとめると、日本の税制は、
・全体として低負担
・法人所得課税(法人税)は高い
・個人所得課税(所得税)は安い。その中でも中所得層が特に安い
・消費課税(消費税)はアメリカよりは高いが、ヨーロッパの1/2~1/3
ということになります。
くどくて申し訳ありませんが、「だから○○するのが当たり前」と言うつもりはありません。
諸外国の税制のまねをする必要はありません。この事実を踏まえた上で、日本人が自ら決めればいいことです。
「儲けすぎの大企業からもっと取れ」「庶民の税負担は限界、大金持ちからもっと取れ」「ヨーロッパの消費税は軽減税率があるから実際には高くない」と言いたい人にとっては、あまり愉快ではない事実でしょうけれど。
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以上、税制の国際比較に関する事実関係を、私なりにできるだけ公平に示したつもりです。
とはいえ、私は官僚ですし、消費税増税に基本的に賛成でもあるので、そのバイアスが入っているのは否定しません。
貼り付けたグラフも、多くは財務省作成 のものですし。
嘘は言っていない自信はありますが、もっと他の角度を重視して比較すべきではあるかもしれません。
どの程度信用するか、読者のみなさんにお任せすることといたします。