自脳人間キカイダー 第6話 後編 | 成田家の徒然なる日々 ~15th Season

成田家の徒然なる日々 ~15th Season

来訪される皆様に支えられて15年。昭和の特撮・アニメを取り上げていきます。

↑ 前編の続きです。


「良心回路をブッ潰せ!

キカイダーを壊してしまえ。

単純だが筋の通った理屈さ」(バット)


「そんな事させないわ」(ミツコ)

「何故?」(バット)

「それは …」(ミツコ)

「ふむ …。いやぁ失礼。問題を多角的に検証する時にはこの姿勢をとる事にしているのでねぇ。


いいかねぇ。これは1つの悲劇なのだ。そう文学的に表現するならば正に悲劇」(バット)

「悲劇?」(ミツコ)

「キカイダーは悲劇を背負って生まれてきた。ジェミニィ、良心回路という名のね。


良心回路はキカイダー自身をも苦悩させ、尚且あらゆる機械を敵に回す事になった。


いや、それだけじゃぁない。人間からも恐れられる存在に

なってしまったのだ。


人間でもない。


機械でもない。中途半端な化物としてな」(バット)


「そんな … そんな事ないわ」(ミツコ)

「いいやぁ、あるねぇ。人間は自分たちの知識で認識できないものを極端に憎み、恐れ、排除しようとするものだ。


アイツには、もう行き場所などないのさ。うん?」(バット)


ジローの境遇に思いを馳せミツコは涙ぐむ。


「アイツに同情したのかねぇ。止した方がいい。人間の同情など機械には何の役にも立たないからなぁ」(バット)


「そんな事は …」(ミツコ)


「ないと …。そうかなぁ。


では、こう言ったらどうするかねぇ? キカイダーは、ヤツはお前さんを愛していると」(バット)


ミツコの胸の中に漠然としてあったものをゴールデン・バットに言われ、ミツコは答えられない。


「さぁ、お前さんはどうする?


お前さんは、その見返りに何をくれる?


同情か?


あぁ、可哀想なジロー、慰めてあげるわ。


私達はいいお友達よ。でも、それ以上は近づかないで。

そんなもんは要らん。

まっぴら、ごめんだ。


お前さんはこの愛は受け入れられない。


人間同士ならともかく人間と機械の間で同情が愛に変わる事などありえないからだ!


私の言う事は間違っているかねぇ」(バット)

ゴールデン・バットに真実を次々と言われ、ミツコは反論できず泣きじゃくるばかりだ。


「そんな事ないわ」(ミツコ)


ゴールデン・バットは冷酷にミツコを見つめる。


「私は … 私は …」(ミツコ)


「アイツを愛するというのか」(バット)

「それは ……」(ミツコ)

「人間のお前さんが機械を愛せるというのか」(バット)

「それは …」(ミツコ)

「ふんっ。


いや失礼した。


これではフェミニスト失格だな」(バット)

ミツコは泣き続ける。

「だが、その涙も所詮は人間の自惚れに過ぎない」(バット)

「何ですってぇ?」(ミツコ)


「人間は自惚れているのさ。良心回路などという発想そのものが、そもそも自惚れ以外の何物でもない」(バット)

「そんなぁ」(ミツコ)

人の良心ほど不確かなものはない。善悪の判断など人それぞれ、100人いれば100の良心がある。そんなものが人の手で作れる訳が無い。

機械を愛せると思い込んでいるお前さんの涙同様ひどい自惚れさ。

それが私が身をもって体験した実感さ」(バット)

「えっ!?」(ミツコ)

「何しろ私は光明寺の実験の犠牲者なのだからな」(バット)

「あぁ…」(ミツコ)


「ふふふふふふふ」(バット)


「あっ!」(ミツコ)


「私はコウモリ型人造人間。光明寺の単なる加賀有的好奇心、冷たい科学者の心が生み出したバケモノなのだ」(バット)


「そんなぁ…」(ミツコ)


「人間でも機械でもない。それはあたかも鳥でも動物でもなく、その間をフラフラと飛び回っている、どちらからもツマはじきにされてしまったコウモリそのもの。実際、光明寺のユーモアには感心するねぇ」(バット)


「違う! 父は … 父は …」(ミツコ)


「いいやぁ。ここに光明寺の冷酷さを証明するものがある」(バット)


嫌がるミツコの手をゴールデン・バットは自分の胸へと引き寄せる。

「この中にあるのだ」(バット)

「うううっ …」(ミツコ)

「光明寺は私の体にも良心回路を取り付けたのだ」(バット)

「あぁっ …」(ミツコ)

「もっともキカイダーのものより更に不完全だったから悩まされる時間も短くて済んだがな」(バット)

思わずミツコは顔を背けてしまう。

「人間でも機械でもない辛さは他の誰にも理解できない」

(バット)

ゴールデン・バットは館の外に出て行き、取り残されたミツコは絶望に晒される。

父の書斎でミツコは何かを探す。

「父さん、どうしてなの?

どうしてプロフェッサー・ギルなんて人と知り合ったの?

どうしてお母さんは出て行ってしまったの?

人造人間にとって理想であるはずの良心回路は

どうして、あんなに彼らを苦しめてるの?


お父さん … あなたは一体


何をしていたの?」(ミツコ)

ゴールデン・バットの館へとジローは向かう。


父の日記を手にしたミツコは

父と今は亡き兄の一郎の写真を見つけた。

館の一室でジローの到来をゴールデン・バットは知る。


「来たかぁ」(バット)


舞台と役者は整った。



「第7話 悲の残照」へと続く …


「人造人間キカイダー THE ANIMATION 第六話 

負の断片」 ~完~