ダークナイトを見てきました。


まず最初に、私はアクション映画ファンではなく、バットマンファンでもありません(もちろんジョーカーファンでもないよ)。

『ビギンズ』も見ていないし、見たはずのものもまったく覚えていません。


バットマンは「好きでなかった」と言ってもいいです。

いかにもアメコミの外見も好きでなかったし、ロビンと同じぐらいおマヌケだと思っていたからです。

マッチョ嫌いだし。


で、今回のダークナイト。初めて映画館で見たバットマンシリーズ。

ネタバレ部分ありですので、未見の方はご注意ください。


内容は、バットマンとジョーカーの戦いなのです。

バットマンとジョーカーが初めて出会うのです。


監督は、クリストファー・ノーラン。


◆はじめ

正義と悪の対立軸。

私たちができないことを軽々とやってくれるヒーロー。懲らしめられる悪役。

これがはっきりしていればいるほど、わかりやすくてスッキリするといえばいえそうですが、カンタンな話になりがち。

今回、バットマンとジョーカーはやはり対立しているのですが、誰から見ても対立しているわけではなく、視点が重層的で、とても複雑でした。

ジョーカーが犯罪をエスカレートさせていく「理由」といえそうなものが、バットマンという存在。

そうであれば、町の人々からすると、ジョーカーもバットマンも迷惑の種でしかない。

「マス」の視点は自分勝手で、ヒーローを傷つけ追い込んでいく。

本来正義のために戦うべき警察組織にも腐敗がある。

ゴッサムシティー自体が病んでいる。


◆アクション

私はあんまりアクションに興味はないほうですが、それでも「やっぱり映画館で見てよかったなぁ」と思いました。

派手な爆破シーンはすごかったです。無意味に爆発しているわけでもなかったですし。

カーチェイスもドキドキでした。バットカーが壊れてからのスピード感もよかったし。


生身のアクションも迫力がありました。

殴られたら痛そうだったし、ナイフが刺されば痛そうだったし、銃向けられたら怖そうだったし。

バットマンがビルから飛ぶときなども、シリアス味を失わないリアリティーがあったし、とにかくよかったのです。


◆ロンリー・バットマン

『ダークナイト』のバットマン(クリスチャン・ベール)は、とても孤独なヒーローでした。

彼の黒いスーツ(プロテクター?)にまず驚きました。

バットマンが身を守っている。

それはつまり、バットマンは生身の、普通の人間だということです。

大金持ちではあるが、彼自身には超人的な能力はないのです。


そして、バットマンの声。

ウェインはバットマンとして話すとき、違う声音を使っていたんですね。

いつからそうなのか知りませんが、これにも驚きました。

これまでは、「絶対バレるって。つーかバレろ」と思っていましたが、今回は「どうかバレないで」とハラハラしました(笑)


ウェインは、ずうっとバットマンでいたいわけではないんですね。

ハーヴィー(アーロン・エッカート)という「光の騎士」が現れると、彼こそが真に町を守ることのできる人間だ、とヒーローの座を渡そうとする。

バットマンは悪と戦う存在ではありますが、あくまでアウトロー。

いないにこしたことはない、切ない立場なのです。

それを自覚しているから、ウェインはハーヴィーを応援しますが、バットマンという苦しい立場に疲れたのかとも思えます。

だって、どれだけがんばっても誰も満足しないし、悪がなくなるわけでもないから。


バットマンはとても孤独で、だからいっそう英雄的だった。


◆そしてジョーカー

今回の私のお目当てです。

実はバットマンはどうでもよかった(のですが、思いのほかよかった)。


ジョーカーを演じるのは、亡きヒース・レジャー。本当に惜しい。


彼の恐ろしさは、「ワケがわからん」ということです。

彼自身が何度も口にしていましたが、混沌です。カオスです。


バットマンとジョーカーの対立を、私は倫理(モラル)と混沌(カオス)の対立と見ました。

底なしのカオスに対して、孤立無援のモラルがいかに弱々しく見えることか。

ジョーカーはモラルを理解していないのではなく、わかっているからこそあんなに巧みに壊せるのだと思います。

狂人ではありますが、いたって論理的に判断し、動くことができる。


冒頭の銀行強盗のシーンで、強盗たちは次々に仲間同士殺しあっていく。

ジョーカーがこれからこの映画ですることが、端的に表現されていたのではないかと思います。

人が人を信じずに裏切る瞬間。これが楽しいのではないでしょうか。


彼は金がほしいわけでもなく、仲間がほしいわけでもなく、破壊に美しさを求めるでなく、人殺しが好きなのでなく、とにかく「なんのために?」とか「なぜ?」という問いが通用しない。

(もちろん、破壊や殺人を嫌いなわけではないでしょうが、破壊のための破壊、殺人の快楽のための殺人、というものではない気がします)


だから、説得できない。交渉はなりたたない。

バットマンには理解できない。

だが、ジョーカーはバットマンを理解できる。どうやったら彼が苦しむか、知っている。

バットマンだけでなく、人間がよくわかっているのじゃないかと思いました。


そしてまた、ジョーカーは撃つのではなく、ナイフで人を殺傷するのが好きだと言っていました。

死の瞬間、その人間の本性がわかるからだという。

つまり、ジョーカーは人間を殺すことを何とも思っていないが、人間が嫌いなわけではないのではないか。


社会に復讐したいとか、人類に対して怒りがあるとか。なんらかのトラウマがあるとか。

そういうところに落ち着くのを許さないんですね。


バットマンは先ほど言いましたとおり生身の人間ですが、ジョーカーもジョーカーで生身の人間です。

彼はナイフで裂き、銃を撃ち、運転して、電話して、爆破する。思い切り殴られるし、締め上げられる。

笑う。

手口は狡猾だが、物理的には誰にでもできる(できそうな)レベルのことで、それも怖かった。


ジョーカーは自分の口の傷について二度ほど話しますが、互いに全く別の話なのです。

結局彼については何にもわからない。

「ジョーカー」というカードは仲間はずれです。

誰でもない。でも、何にでもなれる。簡単に抜け出てしまうし、どこへでも忍び込んでいきます。

ハーヴィーさえもあっけなく「ひっくり返されて」しまう。

すごく怖かったのです。


◆ヒースのジョーカー

私は前のジョーカーをよく覚えていないのですが、多分今回のジョーカーはそれに負けていなかったのではないかと思います。

残酷でめちゃくちゃでルールに従わない。

紳士でない。定義できない。答えを持っていない。理屈はない。納得を許さない。

でも、下品でない。

そして、「卑劣」という言葉を使うのをためらわせる。

(いや、卑劣なのですが…それ以上に人間の小ささを暴露するからかな…いや、それを卑劣と呼ぶのか…。)

振り向いたら後ろに立っていそうなジョーカーでした。


◆その他

アルフレッド(マイケル・ケイン)やフォックス(モーガン・フリーマン)がいい味出してるのはもちろんですが、ゴードン警部(ゲイリー・オールドマン)もとっても渋くてステキでした。

だって、コウモリ男に協力してもらう警部ですよ。下手するとただのおバカさんじゃない(笑)

レイチェル(マギー・ギレンホール)もね、賢い女性って感じでよかったですね。

ハーヴィーは、アゴの溝が気に入らない(笑)ですが、バットマンやジョーカーに負けてなかった。


あと、この映画で「F×CK」という言葉を聞かなかったような気がするのですが、気のせいかな。


というわけで、とてもよかったのです。

でも、とても怖かったです。


バットマンについてこんなに長く語る日が来るとは……。



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↑これは同じ監督の一作目。

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これは、ボブ・ディランの話。

クリスチャン・ベールとヒース・レジャーが出ています。

私はすごく好き。

見に行ったときの感想