現存在の自発的な引き受けによって必然性の様相を呈するに至った”伝承された諸事実”の総体をハイデガーは「命運」と呼ぶ。「現存在はみずからを伝承する決意性のうちで命運的に実存する」。この場合の「命運」というのは、予言や神託のようなものによって、その行く末が予め決まっているというような神話的あるいは迷信的な話ではなく、実存として進んで行くべき方向性が定まっており、これまでその人の身に起こった、あるいはこれから起こるであろう様々な出来事が、それ(命運)との関係で意味づけられるということである。
(中略)
当然、各人の「命運」は、相互に独立なものではない。同じ歴史的伝統の中に共同存在として実存している現存在たちの「命運」には共通の部分がある。というより、他者の「命運」との関係抜きで、私の「命運」を考えることはできない。ハイデガーは、それを「歴運」と呼ぶ。
仲正昌樹「ハイデガー哲学入門―『存在と時間』を読む」
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- 経営理論を総覧し、それぞれ一冊の大部の理論の精髄をA4で2~4枚程度に纏め上げ、そして理論の分類とランク付けまで行われてかゆいところに手が届く一冊。経営理論なんてくだらないと考える人間こそ知ったうえで書を投げ捨てるべき。
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- 傑作。日本人の2分の1が罹患し、3分の1が癌で死ぬ現在。他人事ではなく自身のこととして、受容する覚悟を固めておくべき。現時点でのがん治療を4分類し、近藤誠医師の異端説を調味料に、実際の人物、事件を脚色しつつも久坂部医師の思想に向けて綺麗にまとめ上がっている。小説ノンフィクションとしてよりも、癌について理解する足場として最適のエンターテイメント。
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- 以前絶賛した「はしごを外せ―蹴落とされる発展途上国 」の著者による経済学整理。冒頭の産業革命以前の世界の経済発展の速度が一番驚き。300年近く0.14%の成長とかまさしく静的世界。
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- 哲学の価値というのは、たまには答えのない問いについて真剣に考えることで生き方・考え方が変わり得る機会を得られるということにあると考えます。大部には手が届かずとも新書レベルで十分に考えるヒントを与えられる。
世界から猫が消えたなら。猫が消えた世界は何を得て、何を失うのだろうか。
(中略)
そもそも死の概念があるのは人間だという。猫には、死に対する恐怖というものが存在しない。だから人間は、死への恐怖や悲しみを一方的に抱きつつ、猫を飼う。やがて猫は自分より先に死に、その死が途方も無い悲しみをもたらすことが分かっているのに。そしてその悲しみは不可避なこととして、いつの日か必ず訪れると知っているのに。それでも人は猫を飼うのだ。
(中略)
人間は自分が知り得ない、自分の姿、自分の未来、そして自分の死を知るために猫と一緒にいるのではないか。母さんの言うとおりだ。猫が人間を必要としているのではない。人間が猫を必要としているのだ。
川村元気「世界から猫が消えたなら」