『LOVE&THANKS』11月号:「大麻サイコウ。」(その1) | ほたるいかの書きつけ

『LOVE&THANKS』11月号:「大麻サイコウ。」(その1)

 というわけで、前回予告したように、『水からの伝言』著者・江本勝らが発行する月間『LOVE & THANKS』の11月号の紹介。表紙に「【特集】大麻サイコウ。」と書いてあることは既に述べた。

 話に入る前にひと言。以前ブクマコメントでもいただいたのだが、正直言って、私もこの雑誌を買うのに金を払うのは悔しい。江本らに金が行くのが悔しい。しかし、彼らが何を言っているのか、何を考えているのか、貴重な資料でもある。資料収集のため、やむなく購入しているのだ。古本で出ていれば、迷わずそちらで買うのだが、なかなか出てこない。で。当然批判する人々全員が読むべきとは思わないし、買ってまで読む物好きは一握りでいい。だから、買うからには問題となるところを公にして共通のものにしようと思うわけだ。…というのはまあ己に対する理論武装でもあるのだが、とはいえこうやって晒す原動力になっているのも確かで。
 というわけで、興味があってぜひ自分でも見てみたいと思われる(物好きな^^)方は立ち読みをすすめる。内容は軽いのでパラパラめくるぐらいで大体何書いているかはわかる。置いてある本屋は、私が知っている範囲では新宿の紀伊国屋本店の精神世界コーナー(5階だったっけ?宗教とか哲学とか心理学のあるフロア)と、大阪・梅田の旭屋(西梅田のほう。曽根崎警察署の南ね)だけ。他にもあったら教えていただけると嬉しいです。最初はハズカシイが、そのうち堂々とニヤニヤしながら読めるようになる(そうなるべきかと言われれば返答に窮するが)。もっとも、同じコーナーで真剣にトンデモ本を吟味している人を見ると胸が痛むのだけれど。

 さて。
 この特集は二つのパートからなる。前半(そしてこれがメイン)は、赤星栄志氏へのインタビュー、後半は江本の文章だ。もっとも、そのスタンスは特集に先立つ以下の文章に端的に表れていると言える。
「闇の勢力の時代は終わった。さあ次は大麻を復興させるしかないですよ。」
とは、本誌主管の江本勝の言い分です。
石油をベースにした多国籍企業の台頭から、
麻をベースにした地域経済の復興への移行を図ろうというわけです。
要するに陰謀論である。石油で潤う一部の人間が、大麻の台頭により己の利権が失われるのを恐れ、アメリカで大麻を禁止し続けている、と。

 以下、順に問題のありそうな点をピックアップして紹介する。まずは赤星氏へのインタビューから。
 最初は本題とは異なるが、ええっ?と思ったところから。
(…)雄株と雌株がある。すべての植物で4%しかないんですね。ほかには、オリーブとか、銀杏があります。そういう作物は、気候に対する対応能力がもの凄く高いんです。高等植物の中でも高等です。どんなに環境が激変しても残っていく作物の一つではないかと思います。
えーと、そうだっけ?進化の過程で一つの花におしべとめしべが同居するようになっていったんだと理解しているのですが、違うの?というか裸子植物と被子植物の関係はどう捉えられているのだ?それと、適応能力が高くないから強い個体になる方向で進化してきたのではないのかなあ?(詳しい方の解説をいただけると嬉しいです)

 次に上の陰謀論に絡む話。
Q 日本政府が、またはGHQが大麻を取り締まった理由ってなんだと思われますか。
A 日本の政府の人たちは、単にアメリカに言われただけで、それ以外の理由はないでしょうね。
Q アメリカ政府はどうしてだと?
A アメリカ政府に関して、僕自身は、やはり化学繊維の需要を増やしたいという産業界の要望が背景にあったと思っています。また当時は、禁酒法をやめたばかりで、役人さんが余っていたんで雇用対策に、次のターゲットを大麻にすると好都合だったのでしょうね。

Q もし、GHQが麻を禁止していなかったとして、日本の社会は変わっていたと思いますか。禁止しなくても、便利なナイロン製の紐が出てきたら、麻は消えていったでしょうか。
A 日本でというより、アメリカの政策で大麻課税法ができていなければ、石油の時代は来ていないでしょう。石油に依存しない社会を模索していたと思います。その証拠に、1930年代にフォード自動車は、麻などの天然素材を使った燃料と原料で、車を走らせようというアイデアがあったんです。
 当時は、天然物を燃料にしようと考えた時代でした。ところが、いいやこれからの時代は石油だって言った勢力がいて、見事にいまのような時代になっている。上のグラフを見てください。黒色が石炭で、茶色が石油で、灰色が天然ガスです。1930年代を境にエネルギーを石油や天然ガスの化石資源に頼る時代になっています。
…日本も松根油の開発してたもんね!

A (…)アメリカでは刑務所は民間企業の経営なんです。アメリカの受刑者は、人口の1%いらっしゃる。(中略)つまり、一定以上の労働者である囚人がいないと、刑務所は倒産しちゃう。刑務所を倒産させないための囚人供給源の一つに、マリファナを取り締まっている。
まあなんというか、都合の良い解釈の羅列という印象である。「大麻は悪くない、悪いのは大麻を悪者にしたがるヤツらだ」という大前提で議論が進められている。アメリカに限らず大麻は取り締まられているのにね。

 陰謀論からナショナリズムへ。
大麻は日本の精神
Q 日本は神の国で、GHQがそれを恐れて日本の大麻を取り締まった、という説はどう思われますか。
A 海外の人から見ると、日本人の精神性は非常に不思議ですよね。多神教の世界がまずわからないし、八百万の神がいる中で、いったい何を神としているんだろうって疑問を持つことでしょう。当時は、国家神道で麻の栽培を推奨していましたから、この作物は何かあるだろうって考えるのは普通だったでしょうね。日本人の精神性を骨抜きにするために神話の時代から続く麻の呪術性を除こうとした、十分ありうる話です。ただ、そういうのが文書として残ってないので、証拠として出せないだけです。推測でしか話せない。
麻すげえ!!ってどこまで麻中心史観やねん。

 このインタビューの最後のところに小さいコラムがある。これがなかなか興味深いので全文引用しておく。タイトル以外の太字強調は引用者による。
!マリファナの吸入について
日本は法治国家であり、現状は大麻が厳しく規制されています。大麻が産業用として、また医療用として有用であることから、本誌は大麻をみつめ直すことは、有益であると考えています。しかし、現段階で、心理的な依存のためにマリファナを吸入することは、違法です。また、多様な用途がある大麻の素晴らしい部分を、広く社会に普及する妨げになります。お酒の飲みすぎでアルコール中毒になる人は敬遠されるように、現段階の日本で、マリファナ・ハイになる人は、大麻の良さを知らない人に誤解を与え、本当にマリファナが必要な人、癌、末期エイズ、うつ病、緑内障などで苦しむ人から、有効な治療の手立てを奪うことになります。日本人が大麻の記憶をきちんと取り戻すまで、マリファナを吸入されている人はぜひお控えください。くどうようですが、違法行為です。
「現状は」「現時点では」と繰り返されているように、また「みつめ直すことは」と書いてあるように、江本らは大麻をなんらかの形で解禁させることを目論んでいる。そして、そのために、吸入を控えるように、と要請している。もちろん、吸入を批判しているのではなく、批判している人が多いから、一時的な便法として、解禁されるまで控えていてくれないか、というわけだ。
 これは、戦略としては正しい。どこかの自爆史観の連中がよその国の新聞に大々的に広告を出して日本の「国益」を損なうのに比べれば(そしてそういう連中ほど「国益」を口にしたがるのだが)、よっぽど理性的で論理的な戦略である。ただ、それはその目的がいいかどうかとは関係がない。

 さて、後半の江本の文章に移ろうかと思ったが、力尽きたので続きは次回に。2ページしかないんだが、妄想前回全開でツッコミどころだらけである。まあいつものことだが。

 最後に念のため述べておく。このブログでは、江本らが以前から大麻に執拗な関心を示していることを取り上げてきた。この問題は、ニセ科学の問題ではない。大麻を解禁せよという主張は、それはそれで成立し得る。もちろん、大麻を解禁した場合に何が起こるかは科学の問題になるが、解禁するかどうかは価値観の問題である。従って、ここでは江本らのニセ科学性を批判しているのではなく、その価値観を批判しているのである。その点誤解なきよう。
 さらに付言するなら、「水伝」を取り上げてしまった教育者に向けて伝えたいわけである。「水伝」の江本という人物は、大麻をこんなふうに見ている人なんですよ、と。それでも「水伝」がいいですか?

「その2」ヘ 。ブクマコメントに関連して補足もしてありますのでぜひご覧ください。